師走はもう大忙しなんですよ!!!
僕達の席に機嫌よくやって来たのは、平均身長に中肉中背のパッとしない外見ながら、清潔感と品の良さで万人に好感を持たれる男性だ。
彼こそは忙しい僕らをホテルの喫茶室に呼び出した本人で、和久の父の武本洋である。
洋は武本家の長女である伯母加奈子と結婚して婿養子となった元銀行員で、現在は武本物産のCEOであり、素晴らしい財政担当である。
武本物産は親族がそれぞれ自分の得意分野を担って好き勝手している割には損もなく会社が周っているという、当主の自分が首を傾げる変な会社だ。
「伯父さん、ごぶさたしています。」
立ち上がって挨拶すると、彼はにこやかに座れと手で合図をした。
親族会社で皆仲良しで、武本であれば誰でも家族同然という点も、会社が存続している理由であるのかもしれない。
「近くなんだから、倉庫だけじゃなくて、たまには事務所にも遊びに来なさいよ。」
我が武本物産は通販と外商に絞って入るが、和久が管理している本拠地の店舗と最近開いた相模原の出店、それから、銀座には呉服部門が対面販売をしている。
高級呉服を買える金持ちは東京に集まっているので、和久の母加奈子の担当である呉服部門だけは店舗を閉めた時から銀座の一角に間借りして対面販売を続けているのである。
また、東京の店舗ビルも全部を売り払わなかった。
東京出店の第一号店だった一つを武本が売り払うはずが無い。
今ではそこを改造して、地下を含めた下層を事務所と倉庫に使い、中階を事務所として貸し出し、上階を高級分譲住宅にして、思い出の大事なビルとして所有しているのである。
ビルを武本が所有し続けるためにとこの方法を提言したのが洋であり、洋はそこに構えた事務所で仕事をして上階のペントハウスに妻と住み、東京と青森を行き来する生活をしているのである。
人の良さそうな柔らかい顔立ちの純朴そうな中年男は、実は計算高い男でもあるのだ。
そんな人が僕達に一体何の話があるというのか!
「お仕事中邪魔かなって。でも、それじゃあ、このホテルじゃなくてもそちらでも。」
僕が言うと、洋は駄目駄目と酔っぱらいのように右手を振って見せた。
「何言ってんの。これからの僕の行動を、従業員には見せたくないからここに呼んだんだよ。」
「一体何事なのです?」
良純和尚の低く信頼できる声音に、洋という凡庸な名の男は狡猾そうに笑って返した。
「和久の事業計画書だけじゃなくて、総会資料もお願いしようかなって。データは全部できているから、皆が読みやすいようにまとめてくれるだけでいいから。僕さぁ、和久の結婚が嬉し過ぎて頭が回らないの。」
僕は「武本だから」と良純和尚に言って良いものかどうかわからなくなった。
だって、良純和尚が呆けたこんな間抜け顔を晒している所を初めて見たもの。