嘘吐きな俺達
隠したかった殺人を、さらに過去の殺人と結び付けられるようにして暴かれた殺人者達は、きっとかなり慌てふためいた事だろう、
そして、同じである事に同様に気づいた楊と髙は、当時の事件で罪を問われなかった被疑者の仕業だと確信し、部下に内緒で彼らの所在の確認に動いていた。
そこに、三番目の遺体で高部を発見して高部の告白を受け、彼らは葉山の為の花道を作ることだけに集中してしまった、ということか。
事実、今回の葉山の手柄とマスコミ操作により、彼という悲劇のキャリアに降格処分の取り消し辞令が近日中に発令されるとのことだ。
悪徳警官と汚職政治家に貶められても正義の心を失わなかった悲劇の警察官と、そちらを公表する方が警察組織には良いだろう。
「彼女はどうして当時、夫殺しの自分の犯罪を葉山に捜査するように縋ったのでしょうか。やっぱり、その時は罪の意識から逃れたくての無意識のSOSだったのでしょうかね。」
髙はガタンと大きく音を立てて、雑談用の長椅子から立ち上がった。
「どうかしましたか?髙さん。」
「やめて!」
彼は耳をふさいだ姿で、嫌々と首を大きく振っている。
「どうしました?」
「やめてよ!お前がそんな純情な奴だったなんて僕に教えないでくれ!そんな奴じゃないだろうと思って、公安の引っ張って鍛えた僕が最低最悪の人間に思えるじゃないか。」
「なんですかソレ。ココ最近常日頃僕に人間らしい心があるか確かめるようになったのは、人で無しだと思い込んでいた僕が人間らしいと感じたからですか?酷いですよ!」
ハハハと朗らかに楊の笑う声に彼を見返すと、彼は軽く片目を瞑った。
「だって、お前は変わり過ぎだよ。ここに来たばっかりの時だったらさ、キャリアの葉山に鞍替えするための哀れな未亡人を演じていただけでしょうね、ぐらい言っただろ。」
「あー、そういえば友君って当時は前途有望なキャリアでしたね。」
「髙、安心しろよ。コイツは普通にまだまだろくでなしだよ。」
「酷いですよ。」
怒って馬鹿な振りをしながら、この三人は騙しあっているとわかっていた。
楊は俺に城嶋を会わせてしまった事を悔やんでの、俺の気を楽にするために。
髙はそんな楊と俺を思いやっての。
そして俺は彼らの気持ちに答えるためにの、この振る舞いだ。
俺達は辛くなればなるほど自分を隠してふざけ合うのだ。
けれども俺は今日の夕方、百目鬼の家に向かう。
俺はそこで素のままに泣き喚き、百目鬼に「うるさい」と叩かれて、玄人には「いいから僕を可愛がれ」と酷い扱いを受けるだろう。
あるいは二人に泣き止むまで抱きしめられるか。
とにかく俺は素に戻るのだ。
俺は彼らの家族で愛人となったのだから、彼らにギャーギャー泣いて甘えてみっともなくてもいいだろう。
……だが俺は、ギャーギャーとは泣けなかった。
彼らは想像以上に自分本位な鬼であったのである。
「お前、この忙しい時に突然帰って来るなよ。飯は仕出し弁当だからな。」
百目鬼は俺を一目見るなり舌打ちをして、酷いと泣きそうになる俺の目の前でどこかに電話を掛け出した。
どうやら俺の分の追加を頼んでいる模様だ。
優しい。
だが、この家では一体何が起きている?
「淳、お前はアレルギーないよな。フレンチだけどいいか?」
「全然オッケーです。」
「じゃあ、一時間半後にお前がホテルに受け取りに行けよ。俺のトラックは運転できるよな。」
え?
「あの庭に置かれた新車は?」
庭には磨かれて出番を待っている、銀色に神々しく輝く外車が鎮座している。
「俺の大事な新車だろ。」
俺は庭を見直して、亡くなった俊明和尚との思い出の庭だと庭を変えたがらなかった百目鬼が、車のためにコンクリートを敷いてルーフまで作ったのだと思い返した。
「そうですね。トラックで行きます。」
ぐいんと腕が引かれて見ると、俺の最愛の玄人がちょっとボサボサの髪に適当な格好で殺気立てているのである。




