魔王が良い人になっている!!
水野は、笑顔でも情けなさそうに見える表情を浮かべて、僕に答えた。
「あはは。勲ちゃんにはあっさりふられちゃったなぁってね。」
「お前を振ったのか?お前に振られたんじゃなく?」
良純和尚は呆れ声を出していたが、少々怒りの声も混じっていたので、彼としてはお気に入りの水野が振られた事に納得はしていないようだ。
勲は死んだな。
僕が楊の従兄の将来を憂いる間も無く、僕の隣の佐藤が台所の良純和尚に向かって声をあげた。
「真砂子さんに取られちゃいました。彼女凄い美人で性格も度胸もいいから。」
それを聞いた彼は、驚きのオーの口をしてから最高の笑みになり、脇に立つ水野の背中を軽くパシンと叩いた。
「でかした。お前は居間に行きたかったら戻って良し。泊まるなら酒も飲むか?」
今度は水野がオーの口だ。
「そんなに嫌っていたのですか?真砂子さんのこと。」
佐藤が尋ねると、良純和尚は振り返り佐藤にウィンクをした。
物凄いたらしな顔で、ウィンクを貰った佐藤どころか彼の横にいた水野までも顔を赤らめてしまうほどだ。
僕だって胸の奥がドクンと大きく鳴ったのだ。
「いい女過ぎるんだよ。一回寝てお終いにできないだろ。俺を本気で好きだとずっと待つと言われてもね、それに応えられないなら可哀相でこっちも辛いからな。別に幸せを見つけてくれて良かったよ。」
鬼畜が珍しく人を思いやる台詞を言ったと驚く目の前で、良純和尚は水野の頭を僕や山口にするようにして軽く撫でた。
物凄い誑しな表情のままで!
「水野は普通にいい女だからな。そのまま元気にぴょんぴょん跳ねていれば、また別のいい男が寄って来るから心配するな。いや、面白れぇお前がどこぞの男一人のもんになるのはまだ勿体無いな。」
良純和尚に撫でられ、珍しく人間味のあるセリフを受けた水野は真っ赤になったが、急に佐藤が泣き出したのだった。
彼女はブラックな面があるので、人情味な雰囲気は苦手なのかもしれない。
「さっちゃん、どうしたの?」
ブラックだろうが俗物化してしまったとしても、僕がまだ体が女性化していない時に好きになりかけた女性だ。
泣き出した彼女が心配になっておずおずと彼女に尋ねた。
「私が想い続けたら、葉山さんは逆に辛いのかしら。」
葉山の気持ちに応えられない僕としては、辛いから佐藤に想い続けてもらって葉山を落として貰いたい気持ちが一杯だ。
けれどもそんなことを口にしては人非人だと言う事は僕でも解るので、泣く佐藤の背中をポンポンと叩いてあげることしかできなかった。
「ねぇ百目鬼さん。あんたはさぁ、クロを可愛くする天才じゃん。五月女はあんたのプロデュースでクロにぞっこん。さっちゃんをどうすれば葉山に惚れさせられると思う?」
「佐藤はそのままでいい女だろうが。だからよ、葉山を落したかったら全裸だ全裸。お前等はケダモノなんだからさ、男一人ぐらい襲って来い。待つんじゃねぇよ、襲え。そして首輪を着けて来い。」
水野は良純和尚の背中に抱きついた。
「あたしはあんたに惚れたよ!最高!今日は一緒に寝ようか!襲っちゃうぞ!」
「ふざけんな!お前は居間に帰れ!」
水野に抱きつかれて本気で挙動不審に陥っている良純和尚に僕と佐藤は顔を見合わせて大笑いをして、彼の言うとおりに葉山を襲う計画を練る事にした。
計画にはあと一人協力者が必要で、連絡したら彼女は喜び勇んでやって来た。
「可愛いじゃん。あんたがかわさんの婚約者なんだ?」
「本当に高校生なんだ。あの親父ロリ入ってんじゃないの?大丈夫なの?いいの?十年後にはあなたは二十八でも、かわさんは四十越えなのよ。」
パシンっと佐藤が良純和尚に後頭部を叩かれた。
「痛いです。」
「お前は俺にも喧嘩を売ってんのか?親父で悪かったよな。」
良純和尚と楊は同い年だ。
「なぁんだ。あたしらに男と見られたかったって?いいよう、あたしらが囲んで揉んでやるよ。」
パシンと水野も頭を軽く叩かれた。
良純和尚の顔は怒りではない方で真っ赤だ。
凄いよ、このケダモノ軍団。
「いいから、梨々子はあがって。」
ケダモノ美女と良純和尚の攻防に目を丸くしていた彼女に声をかけると、彼女は嬉しそうにいそいそと上がり込もうと動いた。
梨々子は泊りがけ用品が入ったバッグも抱えていた。
「梨々子も泊まるんだ。」
ニヒっと完璧な顔を悪戯そうに歪めた。
僕と同じく同世代の同性の友人の居ない彼女は、本物のパジャマパーティに憧れていた模様だ。
「お母さんが持って行きなさいって。クロトの家なら安心だからって。」
梨々子の母は控えめで上品な理想の母だが、策士であり軍師であり、娘の恋の応援にはいかなる援助も惜しまないという本物の理想の母でもある。
ある意味楊の本当の敵なのかもしれない。




