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酷いと思いませんか!

 事件の概要は、水野と佐藤達が高校生だった頃に遡る。

 暴れん坊の彼女達が、目に付くロクデナシを当たり構わず成敗し、面白おかしく暮らしていたとある日、親交のない同級生の悲劇を目にする事となった。


 白のワンボックスカーからゴミのように放り出された、ボロボロで血塗れの少女を彼女達が病院に運んだだけだが、運ぶ途中にその少女が自分達と同じ高校に通う同級生で、彼女の怪我は数人の男達に嬲られたからだと知った。


 そして彼女達はその男達を見つけて罠を仕掛けて痛めつけたが、彼らを病院送りにしただけで主犯を刑務所には送れなかったそうだ。


「吃驚したわよ。高部という容疑者の部屋にいた男。高部を殺した現行犯が、麻薬中毒で人格が崩壊している斉藤哲哉だったのだから。」


 怒った声を出して説明する佐藤は、ちゃぶ台に両腕を置き身を乗り出しているほどの激情ぶりだ。

 彼女達は長年の敵と、かなり斉藤を痛めつけてから確保したのだという。

 麻薬中毒の斉藤哲哉と葉山達が逮捕したその取り巻きが、麻薬の禁断症状に抗えずに全ての犯罪行為を自白したが、その犯罪行為が斉藤勇次郎議員によって庇われていた事がなぜかマスコミに漏れ、勇次郎は即日に議員を辞職した。


 その上、過去の殺人や親族の警察官に犯罪を揉み消させていた事までも続々発掘されて連日報道されている。

 これでは勇次郎の再選も斉藤家の再興も無理であろう。


「で、聞いている?あたしら髙さんとかわさんの駒でしかなかったんだよ。麻薬課に売られて馬鹿みたいに走り回らせられてさ。酷いと思わない?」


 水野はケモノのように立ち上がって吼えた。


「飯時に押しかけたお前らこそ酷いと俺は思うぞ。俺はさっさとお前らには帰宅して欲しいなと思っているよ。」


「えーひどい。」


 立ったままだと追い出されると踏んだか、水野は急いで座りなおした。


「いいじゃないですか。今日はクロとパジャマパーティするつもりなんですから。ねぇ、クリスマスはクロがいないものねぇ。」


 なぜか我が家に水野と佐藤が突然押しかけて来たのだ。

 楊と髙に対する愚痴をぶちまけたくなったらしいが、良純和尚は楊の親友だ。

 この傍若無人な行動に、良純和尚が彼女達をケダモノと呼び慣わす気持ちがわかったかもしれない。


「ねぇ、せっかくあたしという美女が遊びに来たんだからご飯。」

「あ、私も百目鬼さんのご飯食べたい。凄くおいしいって評判だもの。ねぇ、ご飯作って。」


「お前等、泊まるつもりなら、一宿の礼に自分達で作ろうかと考えないのかよ。」


 怒鳴る彼に美女二人は全く意に返さず「ご飯」を連発し、そしてなぜか良純和尚は台所に立ってご飯を作り始めた。

 それも上機嫌で冷凍海老を冷蔵庫から取り出している。

 彼もツンデレ?ツンデレだったの?


「ねぇ、クロ。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな。」


 断れる環境ではないのに佐藤は何を言っているのか、と思いながらも僕は了解の頷きを彼女に見せた。

 すると彼女はふっと小さく微笑んだ。


「一度殴って断ったんだけどね、もう一回葉山さんに好きだって告白しても大丈夫だと思う?」

「当たり前だろう。」


 答えたのは台所の良純和尚だった。


「えー。さっちゃんが真面目に悩んでいるのに適当に答えないでよ。」


「適当じゃねぇよ。あいつは普通に鬼畜な男だろうが。据え膳喰わねばの武士そのものだ。美女が裸で目の前に現れりゃあ、脊髄反射で襲ってくるぞ。悩むこたあねぇよ。全裸であの男を襲って来い。」


 良純和尚の非道な物言いに、葉山が自分を襲ったのは脊髄反射だっただけなのかと、不注意な自分の情けなさに小さくなるしかなかった。


「それよりもよ、どうしてせっかく靡いた葉山を切ったんだよ。お前は一途に想っていただろ。」


 佐藤は小さくなっている僕の隣で同じように小さくなった。


「ホラ、答えろよ。」


 キュンと小さくなった佐藤は、妖精というよりも子猫だった。

 僕から飛び出したオコジョが彼女の膝に乗り、仔猫みたいな佐藤とオコジョの図はとても可愛らしかったが、僕のオコジョはあんまり可愛いものじゃなかった、そういえば。

 オコジョはすぐに佐藤の膝からぴょーんと僕に戻って来たが、僕に佐藤の記憶も持ってきた。


 やばい、二十代のかわちゃんの笑顔が眩しい。


「だって、彼は出世する人だって。」


 佐藤の答えに僕はひょえッとなったが、良純和尚は家が揺らぐぐらいの大声で笑い出したので、僕が余計な事を言わずに済んだ。

 ただし、何か言った方が良かったかもと、良純和尚の台詞で反省した。


「馬鹿だ!こいつは凄い馬鹿だ!」

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