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師走は大忙しなんだよね~。

「お前らは本当に間抜けで面倒臭がりだよな。まぁ、確かにあんな奥地じゃあ集まれる時に全部やってしまおうと考えてしまう気持ちわかるけどね。お前らの本拠地って、本当に凄い奥地どころか、完全な陸の孤島だもんなぁ。」


 色素の薄い瞳を金色に輝かせて、人の故郷を奥地と連発する失礼な男が僧侶だとは誰も思わないだろう。

 百八十を越す長身に僧衣の代りにピンストライプのチャコールグレーのスーツを羽織り、木魚を叩くどころかノートパソコンを操作している男が僧侶らしさを示すのは、その形のいい頭部をスキンヘッドにしている点だけだ。


 高い頬骨と切れ長の奥二重の目を持つ顔は端整であり、その貴族的な容姿を持つ彼は、このホテルの喫茶室において女性だけではなく男性からも羨望の眼差しを浴びている。

 この空間で、彼の一挙一動に興味を抱かない人間などいないはずだ、そう誰もに思わせるほどの存在感なのである。


「どうした?」


「いえ、かわちゃんが言っていた、高校時代のモテっぷりがわかる格好良さだな、と見惚れていました。」


 彼は笑った。

 背骨に響くような低音の素晴らしい声で。

 僕はこの人の声が大好きだ。

 力強く静で心が休まる低い声。

 そして、恐怖で誰も動けなくなるような魔王の声も彼は使う事ができる。

 そんな素晴らしい声帯を持ち、人を魅了する声と心胆を寒からしめる声を使い分けて人を操れる彼は、現世のメフィストフェレスなのかもしれない。


 あ、やっぱり悪魔そのものか。


「で、かわちゃんが他にも何だって。」


 僕はスマートフォンを取り出すと、声を上げてメールを読み返した。

 かわちゃんことかわやなぎ勝利まさとしは、僕の目の前の良純和尚と高校時代の同期で親友である。

 三十一歳の彼は、島流れと神奈川県警内でからかわれる相模原東署という所轄にいながらも異例の出世をし、今や一課を預かる課長でもある警部だ。


 そう、僕の父となった百目鬼良純は、二十一歳の僕が父と呼ぶには若過ぎる三十一歳の青年なのである。


「青森には今回も行きたいけど無理だって。来るつもりだった方が逆に驚きですが。でも、新潟の方へは三日に絶対に行く予定だって。」


 新潟には僕の母方の実家がある。

 白波酒造を経営し、白ヘビを本尊にして奉る白波神社を守る一族であるが、その霊験あらたか過ぎる神様に「お役御免したい」と願うのが一族の総意である罰当たりな一族ともいえる。


 そんな白波家一族の総意であり本願は、「白波ではないが白波の血を引く親族の神主をゲットすること」である。

 昔政府に神社を取り上げられて仕返しをした時にやり過ぎたので、神主に返り咲きたいけれど人目が、ということらしい。


「明治時代のことなんかもうどうでもいいだろうにな。まぁ、応仁の乱の時のことを根に持って未だに許さない蛇だから仕方がないか。明治は奴らには最近なんだろうな。」


 白波家も武本家と同じ間抜な一族でもあるのだ。

 僕はそんな一族同士のハイブリッドだ。ははは。


 話は戻すが、楊のメールがその神社への初詣旅行の事で、勝手に行けばいいのに僕に連絡をしてくるのは、白波が迎賓館として経営している旅館に泊まり、イカを持って参拝したいからだろう。

 イカはなんだと聞いた人誰からも突っ込まれるが、新潟では初詣に神社の境内でするめを焼いて食べる慣わしだ。

 文化が違うと揶揄われても、僕はこの慣わしを大事にしたい。


「俺達も三日にするか?年末は新幹線が混んでて嫌じゃねぇか。」


「え、良純さんは一度東京に帰るつもりでしたか?仕事がありました?」


「仕事は入れてないけどよ、青森から新潟は結局大宮でごった返しの中での新幹線の乗換えだろ。一回東京に帰って体伸ばしてから、下りが空く頃に向かおうぜ。」


 僕は勝手に決められてしまっていて周知の事実だと思っていた、と、慌てて良純和尚に報告することになった。


「すいません。おじいちゃんから伝わっているかと思い込んでいました。アミーゴズも参加するって青森に来ちゃうので、二十八日には三沢空港からチャーター機で飛んじゃおうかって。酒樽も幾つか運ぶから丁度いいって。」


 僕は以前良純和尚によってチャーター機で東京から青森に運ばれた経験がある。

 アミーゴズとは僕の母方の従兄のギャングで、余り説明したくない方々だ。

 そしてその時の費用は数千万かかると思われたが桁が一個違ったそうで、良純和尚は残金を僕の口座に振り込んでいてくれた。


 突然に一千万越の通帳を投げられた僕は吃驚である。

 だって、すでに一億越えの通帳だってあるんだよ?

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