楊と義妹となる人
楊は祖父が大手不動産を経営していた金持ちの息子だ。
双子の弟の前妻は楊の実家の豪邸がお気に入りだった事と、自分の整形がバレないようにと、自分の実家を隠していた。
それだけでは無く、整形前の自分そっくりな子供を虐待しそうだと言って置いて出て行ってしまった人である。
実家を隠していた上に、生んだばかりの我が子への愛情の無さに、虐待された過去でもあるのでは?と心配して見守っていた楊家の人達は、理由が整形でしかなかったと知って肩透かしをくらった気持となった事だろう。
「ママとソックリの可愛い赤ちゃんですね。」
ただし、彼女が離婚を決意したきっかけが、僕の言葉だというのが心が痛い。
僕はなぜか整形した人は整形前の顔にしか見えないという、シックスセンスを持っているのだ。
だからこそか整形を隠さない藤枝を尊敬しているのかもしれない。
だが、藤枝が前の顔の方が好きというとおり、整形前の顔は美人ではないが愛嬌のある人好きのするいい顔だと、整形後の彼女の写真を見た時にそう実感したのだ。
写真の藤枝は人形のような整った美人であったが、僕の見える様々な表情を作る本来の顔の温かい笑顔は、顔の造型関係なく見事だと僕は見惚れるのである。
そんな僕が見ている表情を、藤枝は整形で美しくなった顔でしているのだろうから、たぶん、皆が目にする藤枝は物凄く魅力的な筈で、傑が惚れるのも当たり前だろう。
前妻は整形だったから顔が崩れると脅えていたのか、作り笑いしかしない女性であった。
話は戻すが、楊のパパは警視庁の偉いさんでもあるので、前妻の過去は全て洗ってあったそうである。
僕関係なく、前妻の整形も彼女が両親だと紹介した二人も他人だと知った上で前妻を受け入れていたというのだ。
自分のせいだと落ち込む僕のためにと楊が内緒を語ってくれたのであるが、罪悪感が薄れたとほっとするよりも、懐が広過ぎる楊家が恐ろしいと怖気が走ったのは内緒だ。
さすが落ちている生き物は何でも拾う男を育てた家である。
「前の奥さんと藤枝は違うよ。五葉はうちの実家で育てられてのもう十ヶ月だろ。環境の変化は子供が傷つくからって、同じ環境で藤枝に慣らして徐々に傑と三人の暮らしにスライドさせた方がいいでしょって主張してね。藤枝は大学では児童心理学も修得した教員免許持ちの少年課出身だろ。俺の母さんどころか、ばあちゃんとも馬が合っちゃって凄い和気藹々でね、俺どころか傑もいらないんじゃね?ってほどよ。」
「え、学校の先生になるつもりで警察?え?」
「藤枝の両親が学校経営者なんだよ。登校拒否や自閉で学校に通えない子達を支援している活動もしているから、犯罪に走ろうとする子供に接したかったんだってさ。殺された恋人の濡れ衣晴らすために整形して普通の刑事に鞍替えしちゃいましたけどねって、藤枝の話で親父が感激しちゃってさ。刑事魂を持つ君が退職なんて勿体無い。休職はどうかって。」
「でも退職ですよね。」
「あたしは結婚するなら専業主婦一択ですってね。ちゃんとあたしと子供を一馬力で養えよ!ってケツに言い放ったもんだからさ、親父と母さんが拍手喝采。可哀相なケツ。」
楊は説明しながらスマートフォンを操作して、僕に画面を見せびらかした。
そこには馬の格好になった傑とその背中に大喜びの娘を乗せて支えてやっている藤枝という、幸せな家族の一場面であった。
僕はこんなに溌溂としている傑の姿を見るのは初めてである。
「でも、五葉ちゃんも傑さんも楽しそうで幸せそうで良かったですね。」
「お前、遊びに行ってやれよ。ツンデレの環が喜ぶぞ。」




