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麻薬密売人には

 水野達は高部を逮捕できなかった。

 警察で溢れる動物病院からこっそりと逃げ出した彼女は自宅へとまず向かったが、自宅には先客がいたのである。

 水野達がマンション駐車場に降り立つや、二人にまず近付く影があった。

 カットソー素材のワンピースにデニムジャケットを羽織った、三十代から四十代にかかるくらいの女性である。


 ベージュ色のワンピースはコクーン型で左右の裾にリボンが着いているデザインのもので、ブルーデニムのジャケットは裾と袖口がフリルになって、可愛らしい華やかさ、私学のママ友ランチから帰ったばかりの雰囲気を演出していた。


 水野達は確実に自分達に近付く女性がマンションの住人だと思い、自分達が何者か不審だからと近づいて来たのだと考えた。

 そこで警察バッチを出そうとしたところで、その女性がそれを制するタイミングで口を開いたのである。


「はじめましてね。私は巡査部長の田辺たなべ美也子みやこです。あなた達の案件とブッキングしちゃったようね。ホシは部屋に行ったまま出てこなくてね。多分死んでいると思うのだけど、私が発見するわけにいかないのよ。」


「どうしてですか?」


「隠密調査中の公安だから。信じられなければ髙か山口に確認して。」


 水野はこの不思議な普通の主婦にしか見えない女性の言い分に戸惑い、こういう場面では必ず頼りになる相棒に振り向いた。

 相棒は既に電話をしていた。


「さっちゃんてば、早っ。」


 佐藤が電話を切った数秒後に、田辺の携帯に連絡が来た。


「田辺さん、申し訳ありませんが、私がその電話に出ます。」


 田辺は魅力的な微笑を顔に浮かべて、振動を続けるスマートフォンをすっと佐藤に差し出した。

 受け取った佐藤はその電話に応答して、相手と幾つか会話をして通話を切った。


「身元確認できました。指示の方をお願いします。田辺巡査部長。」


 田辺は再びニっと微笑んだが、その顔付きは髙が山口に見せるものに似ていると水野は思った。


「高部が殺されたのは私達のミスだけど、彼女を殺した人物はまだ部屋にいるからお願いね。彼が麻薬の密売を高部にさせていた原因になるわね。」


「高部はその男に使われていた、と?」


 田辺はくすくす笑い出した。


「違う。勝手に高部は麻薬の密売人に成ったのよ。大麻で誘って、最後にはコカイン。先日のあなた方のゴキブリ入り死体からはコカインが検出されたわ。運びが失敗したのね。よって高部は恋人のための薬が手に入らなかった。麻薬漬けにした男は麻薬が切れない限り彼女の恋人でしょう。でもね、麻薬患者って、麻薬のためなら親兄弟、果ては生まれたての自分の子供だって手にかけられるの。」


「もしかして、髙さん達は高部をわざと逃がしたのですか?」


「そんなことないでしょう。さすが島流れ署の馬鹿な人達ってだけよ。ありがたい事に、中高生にまで大麻を売りつけていた密売人の一人が、今日この世から消えたけどね。」


 水野と佐藤は確実に髙の仕業だと理解した。

 わざと逃がして処刑したのだ。


「あのおっさん、ヤバいよ。」

「マヌケ軍団に染まりきってのこの所業だものね。」

「かわさんは絶対知らないよね。」


 なぜかその水野の言葉には、田辺はくすくす笑いが止まらないようだった。

 高部の自宅は、独身の動物病院のパートスタッフの給料では住めない事が確実な、六階建ての2LDK以上の部屋しかない家族向けの高級オートロックマンションである。


「部屋は三階の角部屋。私は階段を使います。あなた方はエレベーターでどうぞ。」


「私は其方について行ってはいけないのですよね。」


 佐藤の返しに田辺は、賢い子ね、とだけ呟いて一人階段へと消えた。


「何?さっちゃん。」

「なんでもない。エレベーター呼んでくれた?」

「当たり前。で、何よ、あれ。」


 扉の開いたエレベーターに二人乗り込むと、佐藤はチラッと水野を見返した。


「気づかなければ気づかないままの方がいいかもよ。」

「なによそれ。」

「開いたよ。行こう。与えられた仕事をしましょ。納得できないけどね、暴れるのはいつでもできるから。」

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