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師走は大忙しなものだけどさ

 ジングルベルが町中で響き渡る十二月は恋人達の季節ともいえるが、僕はクリスマスよりも身内の結婚式の準備と実家の家業の総会の支度にと走り回る破目になっていた。


 僕の身内、武本たけもと和久かずひさの結婚式の日取りが、十二月二十六日なのである。

 従兄である和久の数年越しの恋が実ったと、当初は勢いだけで決められた日取りに喜んだが、今では「この忙しい時期に馬鹿野郎。」と彼を罵倒したい気持ちで一杯である。


 何しろ実家の家業の総会がこの結婚式に深く係わってくるのだ。


 実家の家業とは昔は百貨店経営、不況の今は通販と外商に絞って展開している老舗である武本物産の事だ。

 和久は武本の本拠地である青森に唯一残してある店舗の総支配人であり、通販部門では人気商品を作り出すクリエイターでもある。

 当主と呼ばれる僕よりも、実に彼の方が武本物産に置いては重鎮で才能豊かな稼ぎ頭あのである。


 だが、今の彼は幸せで脳みそがお花畑になっており、僕は彼から丸投げされた事業計画書の雛型をそれなりの書類になるように作成している有様である。

 和久は式後に新妻とタヒチへと飛ぶことで、もはや頭が一杯なのだ。


 そして、武本の人達は結婚式などしたら誰もが浮かれてしまって、「総会」など出来ないだろう事が考えるまでもないので、式前の二十五日の昼に行う事が決定されたのである。


 ちなみに、この総会とはそのような性質の武本一族による独自のものだ。

 通常の会社であれば総会など上半期下半期の区切りで行うものであり、事実、武本物産の株主総会などは通常の会社と同じ時期に設定されている。

 それなのに夏と年末年始頃に総会を敢えてするのは、「せっかく法事で皆が集まるなら全部やっちゃえ」というだけの話であるのだ。


 素晴らしき親族ワンマン経営。


 その適当さで決まった日時であるが、幾らなんでもクリスマス当日は嫌だろうと思ったが、なぜか親族皆でクリスマスが出来ると浮かれている事が不可解だ。

 浮かれる方々の為に、総会後に宴会も必要だろうとその準備もしなければいけなくなった。

 するとクリスマス会を兼ねた和久の結婚式前の前夜祭にしろとの注文も受けた。

 厳密に言うと、僕の任された結婚式の準備とは、この前夜祭の方である。


 会場となる青森から遠い東京で手配しろと?凄い迷惑。


「武本だからな。」


 僕の書類作りとパーティ手配を手伝う父親がいつもの台詞を言う。

 彼は武本家が間抜けな一族だと公言して憚らない。

 何せ、「当主様が五十歳まで生きれますように」と大昔に願をかけた事を忘れたせいで、百歳までは生きれそうな現代において五十歳までしか生きれない呪いになったと、苦しんで慌てふためいている一族なのだ。


 間抜けどころの話でないのである。


 そして、僕はそんな間抜けの一族の当主である。

 当主となると自動的に五十歳までしか生きられないが、産んだ母によると僕は生まれた時点で二十歳まで生きられないと断定された生き物であったので、五十歳までは生きられるという福音になっているから問題はない。


 そんな僕の名前は百目鬼とどめき玄人くろと

 当り前だが、当主である僕は以前は武本姓であった。

 武本は神獣オコジョを使う飯綱使いの家だという事が前提だ。

 使い魔が客のニーズを主人に知らせるという利点を使って商家として栄えてきたが、使い魔が先々で呪いまでも持ち帰ってくるので、武本家は様々な呪いを受けているのである。


 そして代々の当主が呪いで命を落とす中、僕も結局は死にかけ、だが武本から百目鬼姓に変更するという「養子」という手を使って生き永らえることが出来たのだ。


 けれどもその過程でXXYだった遺伝子が暴走して上半身が女性化してしまったというおまけが付けば、僕は「武本だから」と言って笑うしかないだろう。

 僕を養子にして僕の命を助け、さらに当たり前のように武本の影の支配者にならんとする男に言わせれば、僕は間抜けな武本そのものの生き物なのだそうだ。

 だから「武本だから」と笑って悩むなと、ありがたいのか適当すぎるのかわからない助言を与えてくれる。


 僕の養父となった男の名は、百目鬼とどめき良純りょうじゅん

 彼は債権付き競売物件専門の不動産屋であり、なんと禅僧でもある。

 彼を僕に紹介してくれたのが、武本の菩提寺の住職だから当たり前だ。

 そして、寺を持たない僧侶が現代を生き抜くには、二足、三足のわらじは当たり前なのであるが、彼はそのどれも突き抜けて極める程に有能だ。


 悪魔か鬼そのものだ。

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