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雷親父ゲーム

 急に現れたスーツ姿の警察官に、水野は当り前のように言い返していた。


「あたしは正当防衛だって。無抵抗でこの馬鹿男達に可憐なあたしが乱暴されて良いの?あたしはこの路地裏に連れ込まれた被害者です。完全なる自己保身のための正当行為でーす。」


 はいっと元気良く水野が右手を上げて主張すると、佐藤も親友と同じように右手を上げた。


「じゃあ、私は親友を助けるための緊急避難を主張します。」


 当時の水野は明るい髪色の巻き毛の髪を腰近くまで伸ばしており、彼女が暴れ者と知らない者達からは可憐な美少女だと憧れられる外見であった。

 反対に佐藤は真っ直ぐな髪をボーイッシュなショートにしており、スレンダーな体型が少年の様であることから、屑の嗜好には合わないだろうとの判断での役決めである。

 彼女達は乱暴された同級生の恨みを晴らすためと、水野を囮にして罠を張っていたのだ。


 つまり、二人には悪い事をしているという意識など、ひと欠片も無い。


「えーと。」


 警察の男は、血まみれで両腕が変な方向に曲がって呻いている男と鼻がへし折れて顔中血塗れの男という二人を振り返って、その男達の惨状をしばし茫然という態で眺めた。

 水野達に最初に退治されていたその二人を見つめていた彼は、再び彼女達に向き直り、警察らしく彼女達を叱責しようとしたようであるが、彼の声は魂が抜けたようなどこか頼りなげな声であった。


「ねぇ、やりすぎでしょ。過剰防衛?罪になっちゃうよ。」


「押し倒されそうで怖くって捻ったら腕が折れただけでーす。」


「親友の危機に思わず突き飛ばしただけで、男が簡単に跳ね飛ばされて顔面が潰れるとは、私も思いませんでした。」


「女の力で転ぶって弱過ぎじゃん?さっちゃん悪くないって。」


「簡単に腕が折れるって、頭と同じ脆弱な作りなのよ。男に押し倒されたらお終いだもの。みっちゃんの抵抗は普通よ。」


 二人の美少女の挙動に、暗がりの影だけの刑事は笑い上戸だったらしく、しゃがみ込んで笑い転げはじめてしまった。

 相棒の渋い刑事が、そんな自分の相棒に情けない声をあげた。


「えー。ずるいよかわさん。この二人に雷落しゲームは無理だって。」


「ハハハ。でもさ、今日の雷親父当てたのは髙じゃん。頑張れ。ハハハ。」


「なんですか?その雷落しゲーム。」


 佐藤は興味津々で髙と呼ばれたその刑事に尋ね、水野も反抗することを忘れた。


「ただのゲームだよ。悪ガキを捕まえて説教して更正させるの。僕達に説教されたガキは更正するから社会の為になるでしょう。そして僕達はガキをいびることでストレス解消になるでしょう。凄く、有益な行為じゃない?面白いし。」


 水野は言葉を失った親友を初めて見た。

 しゃがみ込んでいる刑事は、いっそう笑い声を大きく上げている。


「でも、あたしらには、無理?」


「君達は怯えさせたら喜びそうじゃない。もっとぉ!って。」


「ひ、人を、へ、変態みたいな事を言わないでよ!ほら、言い返してやりなよ、さっちゃん。我が校の誉れ高い才女。」


 水野に急かされたが、佐藤は何か考え込んでいるような素振りである。


「さっちゃんどうした?」


「うん?警察を笠に着て暴れるのはどこまで出来るかなって。今は煩いでしょ。でもさ、縛りがあってそこでどこまで暴れられるかって試すのも面白いかなって急に思ったの。」


 ギャハハと更に煩く笑う刑事が、相棒に足を軽く蹴られると、ようやく笑いながら立ち上がった。

 それから彼は水野達の方へと、暗がりから一歩前に出てきたのだ。


「うそ。みっちゃん!」

「まさか。さっちゃん。」


 水野達に対峙していた警官も渋くて格好の良い男だが、今目の前に姿を露わにした相棒は極上だった。

 俳優顔負けの美男子は、印象深い二重の目に笑い皺を寄せ、彼の美貌に驚く彼女達に微笑んだのである。

 二人は胸に何かが刺さった気がした。


「一緒にやる?馬鹿なガキいじめ。馬鹿な大人いじめでもいいよ。」


 彼女達は楊の笑顔に騙されたと今では考えている。

 事実は佐藤達が勝手に楊にのぼせて騙されただけであるが、その鬱憤を楊にぶつけるわけには行かないからと、佐藤は自分の父に声を荒げていた。


「あいつら、警察になるためには問題を起こしちゃいけないって、私達を縛るために勧誘したのよ。私達を騙しただけだから刑事昇格がこんなに遅かったのよ。あの嘘吐き!」

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