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四人で額を寄せ合って

「お前、新潟行ったらちゃんと白波に祓って貰えよ。凄い迷惑だからさ。」


 現場に鑑識と共に現れた上司は、開口一番に酷い言葉を俺に投げつけ、彼の周りの鑑識官達は同調してうんうんと頷いている人達ばかりだ。

 頷いて、俺のせいだという怖い目線を寄越す。


「なんですか、かわさん。迷惑って酷いですよ。僕のせいじゃないでしょう。」


「だってさ、お前が虫を呼ぶとバラバラ死体にぶち当たるんだもん。これで二度目?嫌になっちゃうよ。」


「俺は虫も死体も呼んでません!」


 俺に虫入りのプラケース持たせて外回りさせた男は、俺を散々に揶揄った後、俺の顔をじっと見つめてきてから破顔した。


「なんですか?」


「今回葉山は潰れたのに、お前は大丈夫なんだなって。」


 二番目の遺体が葉山の昔の恋人の祖母だったのだ、葉山が潰れてしまったのは仕方が無いであろう。

 葉山は楊の到着と共に部屋から去り、受付にいる関係者や患畜を抱いた来院者の聞き込みに徹している。


「この殺しは普通の殺しですからね。思わず被害者を鈍器で殴って、被害者もあっという間に亡くなった現場ですから俺は大丈夫ですよ。バラバラはただの死体遺棄用の行為で犯人の嗜好があるわけでもないし。こういうのは平気です。」


 楊は慌てて俺の腕をつかんで、鑑識官達から遠ざけた。

 あ、しまった。

 遺体はまだ土の中で死因の特定以前の話であった。

 叱責されると思いながら楊に連れて来られたが、彼は別の事を聞きたかったようだ。


「今までお前が潰れたのは?どうして?」


 声を抑えて俺に尋ねた楊に驚きつつも、俺も声を抑えて囁くように答えた。


「え?普通に拷問やら死ぬまでに被害者が苦しんだ現場や、被害者は一瞬で亡くなっていても加害者の性的嗜好が凄まじい現場ですね。どろどろの悪意や悲鳴が飛んできちゃって。クロトにはいつもフィルターをかけないからだって怒られます。フィルターをかけると霊的な事が何も見えなくなってしまうので、つい、かけ忘れて。難しいですね。」


「え?」


 楊が驚いている。


「え?って、え?どうかされました?」


 楊は口元を押さえ、何か考え込んでいる。

 暫しの後に、彼は鑑識の側にいる髙に声をかけた。


「髙ちょっと。変更の作戦会議。葉山も呼ばないと。」


「じゃあ、部屋の外に出ましょう。葉山はこの部屋は無理ですからね。」


 言うと髙は鑑識の主任に幾つか言葉をかけて、俺達に顎をしゃくった。


「葉山はどこだっけ?」


「診察室で病院にいた人達の事情聴取をしています。」


 俺達三人は診察室で事情聴取中の葉山を捕まえ、診察室にいた一般人を追い出した。


「いいのですか?聴取。」


 楊は眉根を寄せた顔で、尋ねた俺を睨んだ。


「仕方ないじゃん。」


「何それ、かわさん。僕のせいなの?」


「お前のせいだよ。もっと早く報告してよね。」


 俺は意味がわからないが、とにかく自分の責任なのかと胸を押さえながら、傷ついた顔で楊を見返した。


「どうしたって。山口が何かしたの?」


「髙は知っていた?山口が被害者が苦しんだ現場では潰れるけど、凄惨な現場でも被害者に苦しみが無い所では平気なの。後、加害者に悪意が無いと平気、とか。」


「あー。」


 髙は額を右手で押さえ、楊が何時も出すような声を出した。

 俺もようやく楊の言わんとしている事が理解できて、同じような声が出た。


「あー。」


「その違いがどうし……あー。そうか山さん。あの遺体は殺した人間とポリバケツに入れた人間が違うって事だったんだね。それでポリバケツに入れちゃった犯人は、殺害には関係なく悪意もないと。愉快犯でもなくて、ただ死体を捨てちゃった人なのですね。犯人像をもう一回練り直しなのか。」


 俺達は独居老人を狙うサディストな嗜好を持った快楽殺人者がいるとして、似たような事件や軽犯罪で名前の挙がった人間を探していたのだ。

 寝たきりか軽度の認知症を患っている老人宅に人目を避けて忍び込み、散々殴って拷問し、息絶えたら自分の証拠を消すために洗って捨ててしまうというサイコパス。


「一から捜査方向の見直しだよ。いつもと違う事は報連相しようよ。」


「えー。僕のせいですか?酷いよ。」


「うるさいよ。見つけた死体をポリバケツに入れちゃうだけの犯人だったら、独居老人の世話に回っているヘルパーに話を聞く方が有益でしょ。彼らが最後に生存していた日をヘルパー事務所に聞くのではなくて、その報告をしたヘルパーをさ。」


 俺達がヘルパーを犯人の可能性を考えながら聴取したのは、一人目の被害者だけであった。

 二人目以降は連続殺人としてしか見ていなかったため、ヘルパーをそのような目で見ないで聴取を重ねたどころか、同地区であるためにヘルパーが重なり合っていると不思議にも思わなかったのである。


「確かに、僕が被害者の遺体が捨てられていただけだって気づいていればって、俺のせいじゃないじゃないですか。捜査方針決めたのかわさんと髙さんじゃないですか!」


 楊と髙は同時に俺から顔を逸らした。

 畜生。


「それじゃあ、聞き込みのし直しですね。ヘルパーを全員署に呼んで追求のし直し。すると、捨てちゃった人は同一犯でも、殺人につてはそれぞれの犯人がいるって事ですよね。」


 葉山はこの中で一番冷静に立ち直った。


「それと、腹から虫は内臓を抜いての虫入れだから、捨てた犯人とも別ですね。」


 負けじと俺も発言するが、髙に潰された。


「あぁ、それなら高部だね。死んでいた遺体は元気な海外旅行が好きな七十代でしょ。密輸品を飲んで日本に帰ってきて、密輸品で死んだのだろうね。麻薬の密売人はそれでよく死ぬんだ。遺体から密輸品を内臓ごと抜いて、死体の処分にこの近辺のポリバケツ事件を聞いて真似したんだろう。虫を詰めたのは内臓を抜いた理由を後付する偽装だね。」


「じゃあ、高部を引っ張んないと。」


 楊は髙に答えて「あ。」と短く叫び、そこで俺達は気がついた。


「誰か高部を帰さないで警察に監視させとく命令を出していたっけ?」


 楊の間抜けな言葉に、もっと間抜けだった俺達三人は仲良く叫んでいた。


「あー。」

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