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葉山の仇敵

 楊の指示のお陰で犯人なのかは知らないが、俺の捕獲した虫の愛好家を見つける事ができた。

 二、三年ごとに五匹くらいのゴキブリを購入しているらしく、繁殖に成功していなくても十五匹にはなるだろう。

 三軒目のペットショップで的に当たるのは良い幸先だ。


 葉山が飼育用輸入昆虫の斡旋をしているペットショップを捜すならば、爬虫類専門か熱帯魚屋を先に当たった方が早いと、幾つかリストを作ってくれていたおかげであろう。

 彼はあの長椅子でスマートフォン検索もしていたらしい。

 彼がキャリアであったのも頷けるぐらいに、彼はできる男なのだ。


 三年前に俺が楊班の発足時に流れてきた時には、葉山は俺の二ヶ月前に相模原東署に流されて来ていた人だった。

 彼は優し過ぎるから失敗して本部から流れてきていたのだろうと当時は思い、玄人が殺されかけた時に東署の署員を全員洗い直したら、彼はただの本部の刑事ではなく警察庁からの出向組であった事を知った。


 そこで俺は彼が本部か警察庁からの内部監査の者だと思い込んでいたが、それも違った。


 俺は自分が考えているほど有能ではなかったらしい。


 実際は、葉山は前途有望なキャリアであったのに、降格された上に永遠の出向を命じられてこの署に流されてきていたのである。

 辞表を書くか降格の上の永遠の出向を選べと迫られ、葉山は養わねばならない家族のために、永遠の出向と言う恥辱を選んだのである。


「葉山は何をしたのですか?」


 俺は最近彼が上司を殴って降格したとの告白を受け、そしてその記録は俺の元教育係であった髙に消されていた事が発覚した。

 髙は何でもするし、何でも出来る怖い男だ。

 髙は一見地味なその風貌を凄みのある本来の顔に戻すと、悪戯めいた表情に綻ばせて肩を竦めた。

 そんな動作をしておどける彼は、飄々とした雰囲気を纏っている渋い男の格好の良さがある。


「教えてくださいよ。」


「え、本人に聞いたんでしょ。上司を殴ったって。それだけだよ。」


 俺は子供のようにじとっと彼を上目遣いで見つめる。

 彼は楊と同じ平均身長くらいで一八〇以上ある俺より低いから、正しくは上目遣いな感じの目線だ。

 髙は俺の視線が堪えたか、ふぅと溜息をつくと、内緒だよ、と、ようやく教えてくれたのである。


「被害者が出した被害届があると、知り合いの息子さんが犯罪者になるからってね、被害届を握りつぶした奴がいたの。当時の葉山の上司だね。そのお陰で被害者がその息子に殺されてね、遺体はポリバケツに詰められて山に捨てられてしまったんだよ。家族からの捜索願いも受け付けるだけで捜査しないでの隠蔽。葉山は陳情に来た家族の話を聞いて、遺体を見つけて、犯人を緊急逮捕して。それなのにさ、偉いさんの汚職が明るみに出るよりも下っ端の無能さで処理した方がいいってね、被害者が死んだのは全部彼の責任にされたんだ。まぁ、彼は熱い男だからその上司を殴っちゃったけどね。」


 そこで髙は嬉しそうに笑う。


「グーじゃなくてパーですれ違いざまに顔を叩いて転ばせたんだよ。それも署内で。彼は自分を傷害で訴えさせて裁判記録に奴らの悪事を証言として残すつもりだったのかも知れないけどね、不思議な事に叩いた瞬間の目撃者がいないの。いや、違う時間枠にいたらしい目撃者ばかりだったのかな。その場にいた誰もが、奴が勝手に転んだって証言してねぇ。それで大騒ぎすれば逆に薮蛇になりそうだからって、そいつは前歯が入れ歯になりながらも煮え湯を飲んだんだ。自分がやった隠蔽の被害者の辛さを身を持って知ったということさ。」


「その男の事は元々ご存知で。」


「当たり前でしょ。あんな馬鹿。機会があったら排除したいなぁなんて、元同僚達とマークしていたからね。」


「公安の皆様の恨みを買うような事も以前にしていた男ですか。」


「山口鈍い。あのキャリアの斉藤さいとうとおる警視正だって。」


「あいつですか。」


 俺の声に怒りと殺気も含まれてしまったのは仕方がないであろう。

 せっかくの潜入捜査の結果が、斎藤警視正に潰されたことが何度かあるのだ。

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