メルカデルプラン
「くそっ、何でこの私がこんな所に行かなければならないんだ!」
そう叫んでいるのはカレリア大公国第一王子『サザール』だった。彼は確かに王族間の中では強い存在だった。しかし、イオはこの三年間他の貴族や商人との繋がりを強め、サザールに対する工作等も仕掛け、一ヶ月前に裁判で国外通報を判決した。弁護した者はなぜか次の日に裁判所に姿を表さなくなったので誰も彼の弁護人をしようとはしなかった。
彼の亡命先はカレリア大公国から遠く離れた国しかなかったので、なくなく大陸外の島国に匿われているのだ。
(あの魔法を信じない愚弟が!…カレリアに戻ったら殺してやる!)
サザールがイライラしていると扉からコンコンッとノックする音が鳴った。
「サザール様、お食事をお持ち致しました」
「入りたまえ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは食事をトレイに乗せている使用人とピッケルを持った男だった。
「あんたには恨みは無いが第2王子の命令なんでね悪く思うなよ」
そう言うと素早い動きでサザールに急接近し、ピッケルを振りかぶった。
「何をするやめ…」
サザールがとっさに喋る内に男が振りかぶったピッケルはサザールの頭頂部を石を割るように当て、パキッとした音が部屋全体に鳴り響いた。
サザールが倒れた後、男は慎重にピッケルを構えながらサザールの生死の確認をした後、隣にいた使用人と共にその場から消えるように後にした。
ーカレリア大公国側ー
兄のサザールの死を確認した後、その報告はイオに届いていた。
「やっとあの邪魔者が消えたか」
「第一王子は前々から国庫の資金を魔法使いの育成等に使って今したからな我々諜報部や財務省、陸軍省の大多数などから嫌われていましたからなぁ」
そうイオが呟くと隣にいた現諜報大臣『アレクセイ』が反応した。彼はイオがこの三年間、特に重要としていた人物であり、右腕でもある人物だ。現に今回のサザールに罪を着せるのも裁判で国外追放した後暗殺したのも、彼がイオに任命されて約一年間正確に計画されたものだった。
正直イオは最初はサザールを暗殺することに躊躇っていたが、いざ彼を暗殺させても前世の小説とかで良くあるトラウマになるとか罪悪感を持つということは全くなかった。
前世イオは良く知り合いや友達から『サイコパス』と言われていた事を思い出したが、さすがにそれはないと思い、少し言い訳をした。
「それにこの三年間で兄が市民達の税金を私的な事に使っていると噂を流していたから市民からも嫌われていたしね」
「…イオ様、王族ではなく諜報部に来てくれませんか?」
「流石に次期王位継承者に裏方をしてくれというのは止してくれない?それがばれたら他国に揚げ足をとられるかも知れないからね、「貴方の国王は王位の正統性がないのではありませんか?」って言われかねない」
そういった後にイオは口の中を潤す為に机にあるワインをゆっくり飲んだ。イオの今の年齢は14なので前世の法律では飲んではいかなかったが、この国では特にアルコール摂取の規則は特にない。本当は一気に飲みたいところだが、カレリア大公国は立地上ブドウを栽培出来るほど温暖な地域ではないし、むしろその逆に位置するほど厳しい寒い国なので少なくともワインは全て輸入品である。
反対側にいるアレクセイはエール(ここではホップが無いものを指す)を飲んでいるが、あいにくイオは前世の時に初めてビールを飲んだ時のトラウマがあるので手を出そうとはしない。代わりに前世ではよくジンやウォッカ等を好んで飲んでいたが。
「そうだアレクセイ、兄を暗殺した子を今度連れてきてくれないか?」
「よろしいですが、良いのですか?」
「何か悪いことでもあったのか?」
「いえ…仮にもイオ様と血が繋がっている人を殺したので…」
「?なんだそんなことか。兄…いや『サザール』は邪魔だったからありがたいくらいだよ。」
「前世から来て3年しか過ごしてないし」という言葉が出そうだったのでワインを喉に流し込む。
「それに先代の王達のせいでこの国は魔法を信仰しているような奴らばかりだから内政をしようにも魔法使いの育成で国庫を使うから安定しないし、まだまだやることは沢山あるよ」
「それで私が必要と…」
「そういうこと。既に陸軍はこちら側だし」
そう言った後、この国にしかない『ガラス』越しに素との景色を見る。
「フフフ…ようやくこのときが来たか…」
長男のサザールが死に、市民や商人や何人かの有力な貴族からの支持を持っているイオの王位継承は必然的だった。
そうしてこの夜から2週間後、遂に現国王『ヨーゼフ』は当初後継者とするはずのサザールがいなくなったので、次期王位継承者の指名することなく永遠の眠りについた。
なんか書いている内にくっそ鬼な主人公になった…