小さな大人
ー三年後ー
「まさかこんな生活を送るとはな…」
イオはこの世界の事を舐めていた。この体はまだ十歳頃の体とはいえ、この国の王族で子供だからだ。しかし、現実は違った。
まず根本的に子供に対する認識がイオの予想していたものとは違っていた。この世界の子供の認識は一言で言うと『小さな大人』だった。今日イオになって初めて行った仕事は父親のデスクワークの手伝いだった。他の使用人達もイオに対して父親と変わらない接し方をしてきた。休日は父親と狩猟をしたりしている内に薄々気付いたのだ。
「しかも魔法とかもあるし…この世界はよくわからんな」
よく小説や漫画等にある物だ。しかし、魔法が使える者は基本的に限られている。まず魔法を使う前に魔法を覚え、習得するのに時間がかかる。そして少なくない金がかかる。具体的に言うと、この国の国民の平均収入の三年分である。そんな金が出せる人はイオの様な身分が高い者や聖職者、大商人位だ。まずそこで魔法が使える者と使えない者に別けられる。次に魔法を使う『魔素』と呼ばれる体の中にある力を持っているかどうかで更に別けられてその残りの者達しか魔法が使えないのだ。結果的に魔法が使える者は多くて二百、小国は十人位だ。だから他の小説の様に生活の中で使う等はあり得ないのだ。
魔法が使える者が少ない理由はこれだけではない。決定的な者としてまずこの世界では魔法の研究が盛んではないので技術の進歩が遅い。それと魔素の量が人間は少ないのでそこまで連発できる代物ではないのでまず覚えようとする人が少ないし、文化的に子供というのは『小さな大人』という考え方なので子供はほとんどが働いているので魔法を勉強する時間もないので、一部の人間が趣味で習得する程度なのだ。
「カーシャ、明日の予定は?」
「明日は魔法の勉強をする日です」
「明日は騎馬の練習をしたいんだけど…」
「…わかりました。ではそのように予定を変更します」
という具合で最初の方の数日勉強した位で全くやっていない。お陰で国中の魔法使いとは仲が悪いが。ちなみに父親も魔法が好きな人なので親子関係も最近軋んでいる。
「とにかく早く成人しないと王位を継承できないかもしれない…」
イオが次男で、他に兄弟が三人、父親と側近の間に五人いる。
長男と長女は魔法に熱心な人で、仲が悪い。それに加えて側近の間の子供達の内、三人仲が悪いという状態なのだ。
(最終手段として暗殺するかクーデターを起こすか…)
長男が即位するまでの時間はもうあまり時間がない。父親は白髪が増え、日に日に弱々しくなってきている。
イオは腹を括り、部屋にいる使用人のカーシャに言った。
「カーシャ、諜報大臣を呼んで来てくれ。例の件について話す」
「…分かりました。遂に始めるのですね」
「…そうだ。『メルカデルプラン』だ」
イオの体は小さいが、気迫は大人の様に感じた。
幼少期のエピソードを書くのが難し過ぎて暫定的に書きやすい十二歳辺りを設定にして書きました。メルカデルプランについては半分位ネタバレしているかなと思います。