第二話
続きです。お楽しみ頂ければと思います。
「おい!ミーシャ!大変だ!寝てる場合じゃねぇぞ!」
市街地に向かうバスの中窓際に座るミハイルの肩を同僚のアナトリーが揺すりながら言った。
「え?何?」
ミハイルは眠い目を擦りながらアナトリーとバスの窓の外を交互に見た。
「この先で車三台の玉突き事故だってよ。警察が来るまで二時間は動けねぇぞ。また遅刻だぜ!くそっ!」
アナトリーの言葉にミハイルは窓から道の先を見てみたが事故現場は見えなかった。
「仕方ない。待つしかないよ。」
ミハイルはため息をついて一世代前の型の携帯の時計表示を見るとちょうど午前9時になる所だった。
「なぁ、何か口に入れられる物持ってねぇ?」
今度は後ろの席から同じく同僚のゴーシャがつついてきた。
「俺は持ってねぇぞ。どうしたんだよ。」
アナトリーの応えにゴーシャは心底憔悴しきった口調で言った。
「たばこ吸いてぇんだけどさ。ここだとまずいだろ?さっきからずっと我慢してたけどもうヤバイ限界だ。」
「お前…やめたんじゃなかったのか?ほら、彼女ができたからとかで…」
アナトリーは呆れたように言うと今度は隣のミハイルに向かって言った。
「何かないか?ゴーシャの野郎が口寂しいそうだぜ。」
ミハイルは黙ってコートの右ポケットに手を入れると小さな袋入りのセメチュキ(ひまわりの種)を出した。
「生憎これだけだ。」
「やるじゃねぇか!」
アナトリーはミハイルの肩をバンバン叩きながら言った。
「ゴーシャ!この野郎!ミハイル様に感謝しろよ!」
「スパスィーバ!ミーシャ。今度また何かで返すよ!」
ゴーシャは満面の笑みを浮かべながらアナトリーからセメチュキ(ひまわりの種)を受け取ると袋を開き貪るように食べ出した。
「殻は下に落とさないで、自分の服の左のポケットに入れてくれよ!」
ミーシャは後ろの席のゴーシャにふり向きながら言った。
「何だそりゃ。新しい法律か?」
アナトリーはちゃっかりゴーシャからセメチュキを分けてもらい、自分も食べながら言った。
「ああ。今できた法律だ。」
ミハイルは前を向きながら言った。
「殻を下に落としたらバーブシュキ(お婆ちゃん達)に怒られちまうからな。」
ミハイルの言葉にアナトリーとゴーシャは何かに気付き後ろを振り返った。
後ろには怒りの表情を顕にしたこれから町に向かうお婆ちゃんご一行が座っていた。