第6章 初デート
土曜日の朝9時、寮がある住宅街の入り口付近で彼女を待った。
しばらくすると、タクシーが来て私の前に止まった。中にはシュウリンが乗っている。
「おはよう」
そう言いながら、タクシーに乗った。
「東条さん、おはよう」
「近くに有名な観光地があるの。そこで良い?」
「うん、任せる」
彼女はタクシーの運転手に行き先を話しているようだ。
店でのドレス姿とは違い、かわいらしい私服を見るといつもと違って妙に子供っぽく見えた。
タクシーでしばらく移動すると、高層ビルが建ち並ぶビジネス街とは全く違う古めかしい町並みが見えてきた。私たちはタクシーを止め、観光バスが何台か止まっている駐車場で降りた。日本でも有名な観光地らしく、団体客の中から日本語が聞こえてくる。
「ここよ。ここは古い昔の街がそのまま残ってるの」
「確かに、これぞ中国といった町並みだね」
街のあちらこちらに水路があり、その運河に沿って古い建物が建っている。調べてみると1000年以上前の唐の時代に開かれた歴史ある地域のようだ。
運河には、観覧船というか屋形船のようなものが観光客を乗せて運河下りをしている。私たちは、石造りの橋の上から景色を眺めた。運河沿いには石畳の通りがいくつかあり、その両脇には土産物店や飲食店がずらりと並んでいる。
彼女が、土産物店に入り饅頭のようなものを買った。
「これ、食べてみて?有名なお土産だよ」
私は、熱々の餅のような饅頭のようなものを半分に割り一口食べた。味はまずまず。中には肉が詰まっている。饅頭というよりは肉まんかミートパイに近い。残りの半分は彼女が食べている。
食べながら歩いていると二胡の演奏がどこからか聞こえてきた。今更だが、中国に来てるんだなあと改めて感じる一瞬だった。
そういった雰囲気に浸っていると彼女が私の顔を覗き込みながら言った。
「楽しい?・・・古い街とか庭園とかお寺とか嫌い?」
「すごく楽しいよ。賑やかな所よりこういう所のほうが落ち着いていいね」
実際、日本でも神社仏閣巡りの旅行に良く行っていたし、何より、女性と久しぶりにデートしているのだ、楽しくない訳がない。
「良かったあ。楽しくないのかと思った」
そう言って、彼女が自然と腕を組んできた。
(駄目だ・・俺・・・)
彼女を本気で好きになりそうなのが自分でも分かった。
40才近い中年が24才の若い娘と付き合うなど想像もできない。だが、気持ちを抑えられそうにない。今回の出張中に彼女の気持ちだけでも知りたい、そう思った。