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中年が恋して何が悪い!  作者: きゃんめる
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第1章 出会い

 いよいよ、出張の日が来た。

最寄りの空港から上海の浦東空港までは約2時間半のフライトだ。子会社は浦東空港からは更に車で2時間ほどかかる場所にある。


 浦東空港に着くと、いつも通り会社名を書いたカードを持って運転手が待っていた。

用意されていた車に乗り込み、上海の街を西に進んでいく。辺りの高層ビルが、来る度に増えていっているのがわかる。


 なんとか渋滞をきり抜け高速道路に乗ったが、以前来たときに逆走車ともう少しで正面衝突しそうになったのを思い出し、運転手にあまりスピードを出さないように指示した。

 車外を見ると道路脇のあちこちで上半身裸の労働者たちが工事をしている。道路の拡張工事でもしているのだろうか。空は黄砂なのかスモッグなのか分からないが、霞んで黄色く濁っている。


 朝早かったせいもあってか、いつの間にかウトウトとしていた。運転手に声を掛けられ、会社に着いたのが分かった。もう辺りは日が沈みかけていた。

 早々に現地の社長に挨拶した後、出張者用のデスクに行き一息ついた。いつもながら1日がかりの移動は疲れる。



「東条さん、そろそろ行きましょう」



しばらくすると駐在員の安西が私に声を掛けてきた。

 安西は私よりも後輩だが、年齢はひとつ上の40才だ。32才の時に中国に単身赴任し頑張っている。かく言う私は未だに独身貴族を謳歌している(のだろうか・・・)。


 今夜は、顧客と食事会だ。日本人街と呼ばれる、現地では最も賑やかな繁華街へ向かうのだが、現地のタクシーの荒い運転には何回乗っても慣れることはない。


 タクシーに乗り20分ほどすると、窓から一際ネオンの明かりが賑やかな通りが見えてきた。顧客と待ち合わせしている日本人街の入り口付近で下車し、顧客を待った。

 日本人街は、ここから見る限り500メートルはあるだろうか。通り沿いには居酒屋、蕎麦屋、ラーメン屋、ビデオショップ、スナックなどかなりの店数がずらりと並んでいる。

 あちらこちらから日本語が聞こえてくる。中国で働いている日本人がそれだけ多いのだろう。


 しばらくすると顧客が到着し、安西を紹介した後、日本料理店へ向かった。

 最近では中国でも本格的な日本料理店は珍しくない。仕事の話もそっちのけでゴルフや家族などの話に盛り上がった。



「さあ、折角なのでカラオケでも行きましょう」



 安西はそう言うと日本料理店での会計を済ませ、本番はこれからと言わんばかりに先頭をきって店の外へ出て行った。

 歩きはじめて直ぐ近くのクラブに入り、店員とも親しげに話しながら個室へと案内する。

10名以上が軽く入れるほど大きな部屋であり、カラオケ、大きな液晶テレビが備えられていた。

 しばらくすると、ぞろぞろと女性が部屋に入ってきて、並び始めた。



(え、なに、なに?)


私は何が始まるのか全く分からなかった。


「選んでください。皆、日本語大丈夫です」


安西の隣に座っている小姐(カラオケ嬢)が言った。


(なるほど、そういうシステムか)



 当然、顧客から選んでいく。

皆同じ感覚なんだなと思うほど、私がいいなと思った小姐が選ばれていく。

私は、4番目に選ぶ順番になり、右から3番目の小姐を指名した。

 選ばれた小姐は、ちょこんと私の隣に座った。かわいいというよりも綺麗といった感じでスタイルも悪くない。灯りが暗かったせいもあったかも知れないが、中の上ぐらいには思えた。



「名前は?」

 

「&%$#¥」


名前を聞いても中国語の発音が聞き取れない。


「え、解らない」


彼女は、小さいメモに自分の名前を書き始めた。

 

「これ、シュウリン」


丁寧にピンイン(日本語のフリガナのようなもの)まで書いてくれた。


「シュウリンか」


「違う、シュウリン」


私の発音が悪いのか何回も名前を言わされた。



 彼女は24歳だと言う。出身地はここからかなり離れた農村の出身らしい。聞いたことがあるが中国では農民は貧しい家庭が多く、都市部に働きに出る人が多い。彼女もその一人だった。

 昼の仕事をしていたけど辞めてクラブの仕事を始めたとか、父親には日本料理店で働いていると言っているだとか、自分の身の上話をいろいろとしゃべってくる。どこまで本当なのかはわからないが、ほとんど信用していなかった。


たまに、



「かっこいいねー。やさしいねー」



と、たどたどしい日本語で言ってくる。

 日本では絶対に信用しない言葉だが、(中国では俺は格好いいのか?)と勘違いしてしまった。後で安西に聞いた話だが、完全に営業トークだそうだ。


2時間ほど飲みお開きとなったが、帰り際にシュウリンが言った。


「ちょと待って、名刺」


「ああ、名刺?ちょっと待ってね」


私は名刺を探した。

 

「違う、わたしの。持てくる」


持ってきた名刺には、彼女の名前と手書きで書かれた携帯の電話番号が書かれていた。

こっちでは、こういうシステムなのだろうと思った。


これが、彼女との初めての出会いである。



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