第12章 プロジェクト
年が明けて、以前から進めていた顧客の中国工場建設案件について正式に受注が確定した。
私は、営業責任者兼品質管理責任者として、今まで以上に中国に行くことになる。そして、部下の渡辺もプロジェクトマネージャーとして、私と行動を共にすることになった。
「東条さん、改めて宜しくお願いします」
「ああ、絶対に成功させような」
「はい」
「それはそうと、シュウリンと上手くいったみたいですね」
「なんで、知ってるんだ?」
「岡本さんから聞きました」
「あいつは、なんで・・・」
「大丈夫ですよ。知ってるのは安西さんと岡本さんと僕だけですから」
「いいか、絶対に他の奴らには言うなよ」
「分かってますよお」
(中国に行く度に、彼女に会いに行ってるって言われ兼ねないからなあ・・・)
私達は、既に現地入りしている顧客へのお礼と現地調査のために急ぎ中国への出張を段取りした。約1か月ぶりの中国だ。
シュウリンとは、ほぼ毎日のようにメールをしている。今日こういうことがあった、というような単なる近況報告のみだが、それでも繋がっている感じがして嬉しかった。
早速、彼女にメールをした。今月は私の誕生日があり、出張はその日に合わせた。
何かして貰おうというつもりは無いが、一緒に遊びに行く口実にしたかったからだ。
――――中国到着後、直ぐに顧客の仮事務所に向かった。中心街にある大きなビルのワンフロアだ。工場が建設されるまではここが客先の拠点となる。
顧客に挨拶を行い、今回の出張内容の大まかなスケジュールについて打ち合わせを行った。現地視察や現地業者の選定など、やらなければいけないことは盛り沢山だ。
夜は顧客との食事会で関係者が集まった。以前に食事会した時と同じメンバーなので和気藹々と話が弾んだ。2次会はいつもどおりクラブへ行くのだがシュウリンのいるクラブではなく、違う所だった。彼女に早く会いたいという気持ちを抑えながら1日が過ぎた。
翌日、私と渡辺は朝から工場の建設予定地を視察した。かなり広い敷地だ。
事務所に戻り、施工業者の選定や機材の調達方法など、細部にわたってプロジェクトメンバーを含む中国人スタッフとの打ち合わせを行った。
特に渡辺は工程表の作成に頭を悩ましているようだ。
忙しい時は時間のたつのも早い。あっという間に夜が来た。中国では基本的に残業は無い。
毎日、夜中までやらなければ片付かないぐらいの仕事量だが、諦めて帰ることにした。
いつもの日本料理店に渡辺と一緒に行き、定食を頼んだ。料理を待つ間も、プロジェクトの懸念事項について打ち合わせを行った。
寮に帰ってからも仕事をするつもりだったが、彼女にも会いたい。少しの時間でもクラブに顔を出すことにした。
――――店に入ると、彼女が出迎えてくれた。
「久しぶり」
「うん、久しぶり。いつもの場所空けてるよお」
そう言って、一番奥のボックス席に案内してくれた。
(いつ見てもかわいいなあ)
「今回はどれぐらいこっちにいるの?」
「今週一杯だから後3日かな。日本にも仕事があるから帰らないと」
「大変ねえ」
「渡辺はもうしばらくこっちにいるからよろしく頼むね」
「そうなんだ。渡辺さん、1人でも良いから来てね」
「まだ無理。誰かに連れてきてもらわないと。タクシー乗れない・・・」
「そうだな、これからこっちでいる時間が長くなるから中国語を少しでも覚えた方が良いな。1人で行動することも多くなるだろうし」
「そうなんですよねえ」
「おお、居た居た」
聞きなれた声がしてふと見ると、安西がこちらに近寄ってきた。
「多分、来てるんじゃないかと寄ってみたんですよ」
「そんなこと言って、彼女に会いに来ただけだろ?」
「ははは、バレてますね。何かと忙しくてなかなか来れなかったんですよ。僕は向こうで適当にやって帰りますから・・・あ、そうそう・・・」
そう言いながら、耳打ちしてきた。
(ホステス同士の情報伝達力は恐ろしいから気を付けた方が良いですよ。他の女性を連れてるところをホステスに見られたら、直ぐに彼女に伝わりますよ)
「しないって!」
「ははは、じゃあまた明日会社で」
「東条さんの会社の人達って皆仲が良いね。なんか羨ましい」
「この店の人達は仲悪いの?」
「うーん、悪くは無いけど良くもないかなあ。ライバルみたいなとこもあるし」
「ああ、それはあるかもなあ」
こんな他愛のない会話が、忙しさで凝り固まった頭をリフレッシュしてくれる。私達は1時間ほどで店を出て帰路についた。
(また、明日から大忙しだ)