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ジブンガタリ。  作者: M'y
7/7

1-6

「被告人、前へ。」


 地に着けた膝を擦って、木製の床を進む。

 目の前には、格子に組まれた植物の扉。


「弁護人を許可する。」


 目配せを飛ばし、頼りになる相棒を呼ぶ。


「バウ。」


「被告人よ、弁護人は人語を(かい)さない様だが?」


「ハッ、そこは問題ございません。 人語は勿論、計算まで可能としております。」


 相棒の正面に立ち、左手の指を4つ、右手の指を3つ立てる。


「先生、左引く右は?」


「ワン!」


 改めて、裁判官たる門番様に顔を向ける。


「いかがでしょうか。」


 兼ねてより練習してきた舞台が成功したかの様な喜びが溢れ、思わず、背筋がピンと伸びる。


「×××?」


 呆れたように呟いた、体格の良いお兄さん。


「おっしゃあ!」


 俺は握り拳を高くして、勝ち鬨をあげる。

 言葉も通じない、無口な門番に発声させる。

 今日のデイリークエストは達成だ。


「クゥーン。」


 褒めて褒めてと、大型犬が頭を垂れる。

 おぉ、よしよし。

 耳の裏やら、フサフサな柔毛を愛でてやる。


「……はぁ。」


 しかし、一向に出れる様子が無いな。

 無理矢理なテンションに疲れて、尻が落ちる。


 長耳達が住まう、神秘的な里に連れてこられたのは夜が3度来る前。

 バオバブの木なんて比較にならない大樹が並ぶ、森の奥。

 ツリーハウスが散在しており、器用に彼らは行き交っていた。


 そんなファンタジーな情景に見惚れていたら、この大樹の虚にぶち込まれた。


『こいつと別れてないだけマシか。』


 竹の様に硬い植物で出来た牢屋の扉に柵。

 その逆側の窓たる隙間にも、同じくそれはある。

 間から射す光は薄くなっており、今夜の到来を教える。


『暇潰しするしかないよな。』


 1日2食の豆スープに、トイレはバケツの様な鉄の容器。

 申し訳程度に床へ敷かれた、獣の毛皮が大樹の硬さを和らげる。


「バウ……。」


 大型が寂しげに鳴く。

 どうやら、俺の暗い雰囲気に感化されたらしい。


「心配するなよ、大丈夫だって。」


 牢屋に捕まった初日。

 大型は“遠吠え”を発動した。

 それは俺にも聞こえない音だったが、同種族には伝わるらしい。


 後は、片足を怪我する彼女が動けるか。


『治療できたら、本当は良かったんだがな。』


 彼女の鬼に掴まれた右足は、青紫色の痣が広がり、触診すると苦い表情を浮かべた。

 明らかに骨折かそれに近い症状。

 淡い期待はしない方がいいだろう。


『裏目に出ちまったな。』


 やることも無くなったので、その身を後ろへ倒し、そのまま夢の世界へ旅立った。

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