1-5
電車の窓を流れる景色、そんな風に森を追い越していく。
大樹の隙間を器用に駆ける大型犬。
少し両腕が疲れたので、器を持ち直す。
『もうそろそろ、洞窟かな。』
「××!」
突如、喚くに近い大声が降り注ぐ。
「バウ!」
「止まろうか。」
大型は警戒するように、鼻を鳴らす。
見上げると、木の上に人影が。
「××××!」
ザッと、大樹の上から降り立つ影。
緑系統の色合いで纏められた布製の服が、それを後追いする。
緩やかに靡く衣は森に溶け込み、妖精的なイメージを齎す。
『まじかよ。』
助けた女性と違わぬ美形に驚く。
凛々しい顔付きは綺麗とも例えられ、その低い声が無ければ男だと思えなかった。
モデル体型と呼ばれる、細身の高身長。
日本人や外国人でも見ない、先の尖った長い耳。
絹糸の様な艶のある金髪に、翡翠色の瞳が非現実的要素を付加させる。
「×××、××××××××××!」
焦るように言葉を重ねる彼。
その言語は、あの女性と同様ちんぷんかんぷん。
「正直、何を言ってるのか分からないのだが。」
「!?」
愕然とした表情。
背中から弓を取り出し、矢を構える。
『おいおいおい。』
俺も対抗して、ベルトに手を掛けようか考える。
バシュン。
矢は空高く真上に飛ぶ。
そして、矢の先に何か付いていたのか、小さな爆発を生む。
「×××××!」
男は背を向けながら、片手を振る。
招き猫とは逆で、背後に向けられた手の平を引いている仕草。
来いって事なのだろうか。
正直この水を彼女に届けたいのだが、面倒な事になるのも嫌なので大人しく従う。
「クゥーン。」
「心配するな。」
プルプルと疲労が溜まってきた両手も心配しつつ、大型に乗って彼の後に続いた。