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「バウ!」
大型犬の背中は思ったよりも、乗り心地の良いものだった。
『よく見たら、こいつも角があるんだな。』
小型犬はチワワ程の大きさで、頭を撫でて分かったが、角なんて無かった。
しかし、土佐犬よりも大きいこいつは頭を撫でると、毛深い中に申し訳程度な角を発見した。
「バウバウ!」
「ん、着いたか。」
目の前に流れるのは、底まで透き通った川。
都会の濁った河川しか知らない俺にとって、なんとも興味深い。
「これって、飲めるのか?」
「バウ!」
大型は川に頭を近付け、ペロペロと水を舐める。
害は無いって事かな。
両手をお椀状にして、ゴクリと飲む。
「悪くねぇな。」
喉に引っかかる感じも無く、気付いたらもう一杯喉を通していた。
昨日から果汁しか水分が無かったから、余計に美味く感じた。
「これなら、喉の渇きは大丈夫そうだな。」
途中で見つけた柏の葉を大きく、硬くしたような葉。
それの両端を蔦で結び、ラグビーボールの半円にして水を汲む。
「果実も採れてるし、帰るか。」
「バウ!」
零さないように跨がり、大型を走らせる。
赤い果実しか無いので、栄養は気になるが仕方ない。
本当ならば、肉が欲しかった。
しかし、俺が倒すとどうやら肉が残らない事が分かった。
『勿体ないよなぁ。』
川への道中、一匹の小鬼に出会った。
大型に周囲を嗅がせたが、はぐれ者らしい。
「俺がこちらからゆっくり近付き、鞭で仕留める。 お前は奥へと回り、注意を寄せてくれ。」
小声の作戦タイムに、「バウ。」と静かに相槌を打つ大型。
草むらの中を音も立てず駆ける大型に感心しながら、俺も抜き足差し足忍び足。
『こっちはおっけーだ。』
挟み撃ちの陣形。
大型に目で合図を送り、「ヴゥ、ガゥガゥ!」という威嚇が届く。
「キキッ!?」
木の棒で地面に穴を掘っていた小鬼が跳び上がる。
バッと声の元を見て、「キキッ!」と棒を持ち直す。
背中から落ち着いてみると、両足が震えてるのが丸分かり。
奴らにも心があるのだと、ふと横道に逸れるが、首を振って、俺はベルトを振り下ろした。
「やっぱり、光になって消えるか……。」
「バウバウ……。」
結果はあっという間の勝利。
しかし、こちらとしては肉が欲しかったので残念。
ジェスチャーを交えながら聞いた限りだと、犬達の主食は小鬼で、この森で負ける事は無いらしい。
生食は気持ち的に無理だったが、火を起こせばまだ我慢できるかなと思っていた。
しかし、それ以前の問題だったようだ。
「朝からありがとな。」
「バウ!」
森を疾走する大型犬。
その柔らかで、温かい背中に乗りながら、風を感じる。
とりあえず、水と朝食代わりの赤い果実をゲット。
5匹の小型犬と女性が待つ家に帰るのだった。