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夜も更け、鈴虫みたく昆虫の鳴き声が穴の中まで響いてくる。
「さてと、これからどうすっかなぁ。」
裸体の女性はまだ起きず、学ランの上着を羽織って横になっている。
「はぁ、なんていうか現実は小説よりも奇ってことか?」
荒地と化した戦場から、彼女を背負って歩いた。
野原を越えた先には、また森があり、犬の案内の元、彼らの巣にやってきた。
「バウバウ!」
食べろとでも言うのか、真っ赤な果実を置かれる。
手に取って口へ運ぶと、「ワンッ。」と鳴いたので、まぁ正解なんだろう。
死んでいるかに見えた犬達は、粒子になっていなかったように、まだ生きていた。
気絶状態ってことだろう。
とりあえず放置するのも居心地が悪かったので、女性含め野原の端に集めていた時だった。
「バゥ…」
…ガルル、唸りながら起き上がる大型犬。
辺りを見回し、俺を確認。
豚が居ない事に「ガウ?」と小首を傾げる。
「あいつなら居ないぞ、俺が倒した。」
人の言葉が分かるのか知らんが、犬に伝える。
「ガルル……。」
鼻先をこちらに近付け、嗅いでくる犬。
そして、ペロリと俺の指先を舐めた。
「お前、臭いで把握したのか?」
「バウバウ!」
どうやらそうらしい。
まぁ危害を加えられないなら、それでいい。
「さてと、これからどうすっかなぁ。」
食べ物も、寝る所も無い。
こんな地獄みたいな場所で、何をすればいいのか。
「バウバウ! バウッ!」
学ランの袖を口で挟んで引っ張られる。
犬が尻尾を激しく振って、どこかへ行きたい様子。
「付いて来いってか?」
「バウ!」
それから、この犬達の巣に辿り着いた。
岩山に開いた洞窟。
稲穂が乾燥したような、植物の敷物の上で胡座をかいていた。
「クゥーン。」
手の甲を滑る、ザラザラとした舌触り。
膝の上には、小型犬が5匹乗っかっている。
俺は昔から動物に何故か好かれる事はあるが、こんな眼が赤い魔物と違わぬ犬にも好かれるとは思わなかった。
「×…×××。」
女性の呻き声。
被せていた学ランがずり落ち、彼女が目を開く。
「×!? ××××××!」
何を言っているのか全く分からない。
日本語は勿論、英語でもなく、フランス語や韓国語でも無さそう。
「××、××××!」
俺が立ち上がったのを見て、彼女が叫ぶ。
まぁ、あの豚に、裸であった事を加味すると何があったかは予想できる。
それで、見も知らぬ俺に心を許せと言うのは酷な話だろう。
「言葉は分からないと思うけど、見えてるぞ。」
俺のカッターシャツを引っ張り、そして、彼女の落ちた学ランを指差す。
「×××!?」
大層元気な女だことで。
耳を押さえながら、また胡座をかく。
「クゥーン。」
「ごめんな、お前ら。」
足の枕から落ちた小型犬達が頬擦りするのを、両手で撫でていく。
「……××××××。 ×××××××××。」
決まりの悪い顔して、頭を下げる彼女。
まぁ何言ってるのか分からないが、謝ってたりするのだろう。
「別に気にしてないからいいよ。」
手を2度振って、ジェスチャー。
「怒涛の肉体労働で疲れたし、もう寝るか。」
彼女には、大型犬が用意した果実を渡し、口に含んで安全を示した。
疲労がまだ残っていたようで、すぐに、大型犬のふわふわな毛を抱き枕にして眠った。
「服も用意しないとな。」
俺の学ランでは、その肌を隠し切れていない。
冷めた人間の俺だけど、思春期の端くれであったらしく、緊張が下腹部を走っていた。
しかも、運んでいた時に伝わる柔らかな肉感や、改めて確認した、日本人離れした外国人女性の端正な表情はグッとくるものがあった。
「……さっさと寝よう。」
【○○は、“ポーカーフェイス”を得た。】
目を閉じた俺は、朝になってそれに気付くのだった。