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ジブンガタリ。  作者: M'y
2/7

1-1

 カサカサと顔面を這う、不愉快な虫。

 その足は百足のようで多足。


『気持ち悪りぃな。』


 重い瞼より先に、片手でその虫を払う。


「痛ぇ!」


 人差し指に噛み付かれた。

 ドクンドクンという、疼く血管の流れ。

 瞼なんて見開き、その場から飛び退いた。


「って、ここどこだよ……。」


 the 自然。

 陽の光を隠す大樹に、青臭い雑草が地に生い茂る。

 さっきの多足虫も、どこに行ったのか分からない。


「ッ。」


 視界が揺らいで、頭がガンガンと煩くなってきた。

 痛みの発生源の右手を見ると、案の定人差し指が紫色。


「毒かよ。」


 2度死んだ男なんて、俺だけだろうな……そんなしょうもない自慢が漏れた。

 そして、ブラックアウト。


『………』


 あれから、何時間が経ったのだろうか。

 気が付いたら、痛みが無くなっていた。

 そして、意味不明な小窓が目の前にあった。


【○○は、“毒耐性”を得た。】


 はぁ? という文句に近い疑問が生まれ、その小窓を眺める。

 人差し指の変色はすっかり治まり、肌色に。


『まぁ、いいか。』


 俺は今日、屋上から飛び降りて死んだんだ。

 この意味不明な場所も、恐らくは天国…でなくて地獄なのだろう。


 妹を奴から守らずに死んだ兄貴。

 そんな奴が天国に逝ける訳ないよな。


 ザクザクと腰まで伸びた草を踏み締めながら、そんな思考を続けた。


「おいおいおい、まじか。」


 背丈は、幼稚園児。

 禿げた頭の天辺に、小さな角。

 尖った耳、不揃いな牙、厭らしく弛む眼。

 深緑色の肌に、焦茶色の腰蓑。


「やっぱり、ここは地獄だな……。」


 鬼というよりは、ゴブリンとでも言った方がいい見た目の小鬼。

 そいつが、小型犬の死体を漁っていた。


『臭ぇ。』


 犬っころの死体は新鮮な物では無いらしく、腐敗臭を発生させている。

 そんな物を平気で食べるとか、正気の沙汰でない。


「キキッ!」


 甲高い声に驚き振り向くと、同種の小鬼が。


「なんでこっちにも、」


 小鬼は、草葉の陰から飛んで現れ、手には棍棒を所持。

 その撒き散らされる涎は、粘ついて流線を生む。


「くっ、こんにゃろう。」


 小鬼のジャンプが思ったより高くて、落下が遅れたせいか、その場から避けれた。


「キキッ! キキッ!」


 当たれ! 当たれ! とでも言ってそうな小鬼の鳴き声。

 耳がキンキンして、精神を削られる。


「キキッ!」


 死体を漁る小鬼が立ち上がり、こちらを向くのを確認する。

 なんだか、間抜けな餌が罠に引っかかったみたいじゃねーか。

 いや、引っかかったんだろうな。


「くそっ、こんなの只の高校生にどうすりゃってんだよ。」


 学生鞄は教室に置きっ放し、靴は脱いだ。

 上下の学ランに、カッターシャツ。

 武器になりそうなのは、このベルトぐらいか?


 他の男子が付けてるから、空気を読んで付けていたベルト。

 真っ黒な革に、真鍮のバックル。

 留め金を抜き、ズボンのループからスルリと引っ張って、鞭のようにバックル部分を持つ。


「って言っても、これで戦えるか?」


 どうせ死んだ後の世界だからか、俺は普段ならしない行動を取っていた。

 自分が危機に瀕しても、面倒だからと流れに任せる俺が、どうこうしようだなんて。


「「キキッ! キキーー!」」


 前と後ろ、挟み撃ちで跳ねてくる小鬼。

 俺は糞食らえと言わんばかりに、鞭を頭上で回転させた。


【○○は、“操鞭術”を得た。】


 己の手が、己の物でないような身軽さを覚える。

 回転は速度を上げ、扇風機を超えた風を生む。


『涼しいなぁ。』


 そんな現実逃避を挟む余裕があった。

 小鬼らは鞭で捕らえられると、バチン! という痛々しい音と共に、地に伏した。


「「キ…キィ。」」


 こちらを恨みがましく見てくるが、スマンとしか言えない。


「「キ…ィ……。」」


 光となって、霧散。

 手に持っていた棍棒含め、跡形もなく消えた。


「ゲームかよ。」


 ここに来て、それが言い得て妙だと感じた。


【○○は、Lv 0からLv 1に上がった。】


 うん、どうやらここは地獄でなく、ゲームのようだ。

 そう結論付けた。

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