第三話「神に愛されし者」
興味をもってくれてありがとうございます。
三話はスレイがなぜキラクスに認められたのかという話です。
よろしくお願いします。
司祭スレイは廃墟という表現が相応しい教会の前で
ため息をついていた。
「まあ、殺されなかっただけマシだな」
馬車で待つ従者達に荷下ろしを頼み、
スレイは教会を囲む雑草と虫達の住処に
二度目のため息をつく。
(魔法使えりゃなぁ…)
聖職者が口にしてはならぬ言葉に
思いをはせながら、
スレイは草むしりに勤しむ。
途中、思った以上に大きな蜘蛛の巣と
根がしっかりとした草達に翻弄されながら、
スレイの時間は過ぎていった。
「旦那、あたし達ゃ そろそろおいとまさせてもらいやす」
「ああ、ありがとさん。賃金は明日まとめてな」
従者達に礼を言い終えた後、
スレイは取り終えた草の山と積まれた荷物を見上げながら、
今日の寝床を思案する。
(中で寝るか…)
スレイは荷物から干し芋、ロウソク、寝袋を取り出し、
昼よりはマシになった教会へと足を踏み入れる。
その一瞬。
過去のスレイであれば見逃さなかったであろう殺気のこもる刃が
首筋に煌いた。
(しまっ……)
鮮血が吹き出す首筋を押さえる。
「仕事なんでね、恨まねえでくんな」
聞き覚えのある従者の声が耳元で木霊する。
(しゃべれねえ…)
「騎士団にいたって聞いてたから
それなりに気配消してたんだけどよ、
この程度なら必要なかったな」
他の従者達が一人また一人と周りを囲む。
「スレイ・ベイル。お前はイヴォーク様の寛大なご命令に逆らったゴミくず。
法皇がお許しになられてもオラたちが許さねえ」
(あのや…ろう……)
従者達は剣や斧を握りしめ、
スレイの肉体に打ち込む。
従者達の顔は怒りと愉悦に満ちていた。
スレイは意識が混濁していくなかで
叫ぶこともできぬまま死んだ。
従者達はやり遂げた思いを胸に
死体となったスレイに唾を吐き、
教会へ火を放った。
燃え盛る教会を肴に従者達は
荷物に入っていた葡萄酒を楽しんだ。
夜も深まり、
従者達が去った頃、
完全なる廃墟と化した教会に少女が一人、
足を踏み入れる。
その足取りは軽く、
どこか人の領域から外れた動きだった。
「私の教会で人殺しといて、火を放つとか大罪にも程があるわ」
炭と化した遺体に少女は手をかざす。
すると魂を肉体へと下り、元の形へと混ざり始める。
「イム・ゲルゲ・ズギバザ」
アスレイの意識から放たれた祝紋は炭を元の肉体へ戻し、
魂は元の場所に帰りつく。
(ん…)
スレイの意識が目覚め、
強い光が閉じているはずの目に映る。
「そのまま閉じておいたほうがいいよ、目が視えなくなるからさ」
「あんた…が生き返らせてくれたのか」
スレイは目を閉じた状態で問う。
「そうだよ。スレイ・ぺイル。
君は陰徳を誰よりも積んだし、溺れもしなかった。
本来なら天上で君を祝福するところなんだけど、
厄介ごとができてね、頼まれてくれない?」
スレイは自らに問うこともなく答えた。
「わかった」
少女はニヤリと口元を歪め
「ありがとう。私の名はキラクス・アーブ。
これから貴方を守護する者」
(我等の神か…いや……俺の女神か)
「祝福のバフ与えまくったから、、
その考えでいいわよ」
(思考を読…なら…俺は……)
「ええ、許可します。
ただ、これから伝えることを守りぬくならね」
それから三日が過ぎ、
スレイ・ベイルの名は国の名簿から消えた。
彼を知る者の多くが遺体のない葬儀に参加し、
彼に救われた墓地に入れぬ異教の者達がそれぞれの所作で祈りを捧げた。
その参列者の中にスレイ・ベイルと呼ばれた男がいたことに
誰も気づくことなく、葬儀は終わった。
読んでいただけてありがとうございます