03話 ザンギョウの力
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「…昨日は全然寝れなかったな」
時刻は朝7時。
天気は晴れ。
鳥達のさえずりが聞こえる気持ちのいい朝だ。
「まさか異世界に来ることになるとはなぁ…」
異世界に来て2日目、今日は何をしよう。
そういえばエルザは…?
右を向くとまだエルザはスヤスヤと眠っていた。
昨日は色々とこの世界について教えてもらっていたのできっと疲れたのだろう。
起こすのも悪い気がしたので、俺は少し村を探検することにした。
宿を出て、少し歩いた俺は、村をゆっくりと見回してみる。
「本当に色々なものがあるな」
昨日、エルザに聞いたのだが、
この村は、コルカタ村というらしい。
だが、村といってもかなり栄えている。
大昔、鬼神という者達がこの村を訪れた際に、武器や防具の知識や建物の知識を授けたことでそこから文明が発展し、この村は栄えたと伝承にはあるらしい。
実際に鬼神を見た者はいないので、定かではないらしいが。
「さて、そろそろエルザを起こしにいくとするか」
宿屋に戻ろうとしたその時だった。
「グーロがでたぞおおおおおお」
村の者が大声で叫ぶ声が聞こえた。
それに伴い、村の者達も一斉になんだなんだとばかりに出てきて、騒がしくなる。
中には武器を持ち、声の元へ駆けつけようとする
村人もいる。
何か化け物でも出たのか?
どうしよう俺も向かった方が良いのか?
ただ武器や防具がない。
足手まといになりそうな気もする。
でも一応勇者だしな…。どうしようか考えていると今度は真後ろから声がした。
「グーロはこの村の食べ物を食い尽くしにくる魔物です」
「おわ!」
振り向くとエルザがいた。
「驚かせて申し訳ありません。先程の村人の声で目覚めたので出てきました。私は短剣を持っていますので、グーロを討伐しに行きます。勇者様も安全の為、私についてきてもらえますか?」
「わかった」
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声がする方へ走って向かうと、村人たちがグーロであろう魔物と戦っている。
グーロは、四足歩行。大型犬ぐらいの背丈だった。
しかし、背丈が犬といってもルックスは全然違う。
お世辞にも可愛いとはいえない顔をし、
鋭い二本の牙を持ち、村人を威嚇している。
その姿から獰猛さが伺える。
「エルザ、あいつは強いのか?」
「そうですね…魔物には警戒レベルが1〜10まであるのですがグーロは4。かなり動きの速い魔物で、あの牙に噛まれると千切れるまで離さないと言われています。なので注意が必要です。」
確かにあの牙で噛まれたらと思うと恐ろしい。
村人達もそれを知っているのか、迂闊に近づけないでいるみたいだ。さて、どうしたものか。
ん?そういえば、昨日エルザが俺にはスキルがあるといっていたな。
「エルザ、スキルを使うにはどうすれば良いんだ?」
「まさか戦うつもりですか?スキルはスキルの名を勇者様が頭の中で思い浮かべれば、使えるスキルが出てくるはずですが…グーロは危険ですよ」
俺は、スキルの名前であるザンギョウを
脳裏に思い浮かべた。
すると、白い文字で何か浮かび上がってきた。
スキルツリー:ザンギョウ
スキル1ージョウシノアツリョク
これがスキル名か…。ん、何かおかしいな。
日本語に直してみる。ジョウシノアツリョク…ジョ
ウシノアツリョク…上司の圧力。
なんだこれ。なんだこの弱そうなスキルは。
俺にぴったり…ってやかましいわ!
もう知らん!
勢いで使ってみることにした。
いっけーやったれー(棒)
「ジョウシノアツリョク!」
すると先程まで村人に威嚇していたグーロがスキル名を叫んだ俺の方を向き、襲いかかってきた。
しまった!やっぱりこんなダサいスキル名じゃ何も出なかったか!俺は目をつぶり、死を覚悟した…。
が、いっこうにグーロが襲いかかってくる様子はない。
なにより痛みがない。
何かがおかしいと思い、ゆっくりと目を開けると
俺に襲いかかってきたと思ったグーロはピクピクと
足を震わせながらその場で棒立ちしている。
なんだ…?
まさか硬直している…のか?
そうだ、今なら。
「エルザ!攻撃を!」
「か、かしこまりました勇者様!」
エルザも何が起こったのかわからなかったようだが持っていた短剣でグーロに切りかかった。
グルル…。バタッ。
そしてグーロがこれ以上、襲いかかってくることはなかった。