01話 勇者誕生
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「あぁ…今日も残業か…」
カタカタと無意識にパソコンで資料を作りながら、
俺は思う。
気が付いてみれば働きだして8年目。
給料も特に上がらないのに俺はサービス残業を強いられている。
「あのクソ部長が…」
部長に対する文句を垂れながらも俺はなんとか明日の企画資料を完成させ、パソコンを閉じた。
「さて、帰るか」
俺はデスクを片付け、いつものルートで帰ろうとした。
もう既に深夜の2時だ。
辺りは真っ暗で視界が悪い。
その時だった。
キィィィィ。ドンッ
という音と共に俺は意識を失った。
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「…目覚めなさい。異世界のものよ」
「ん…なんだ?」
目を開けるとそこには綺麗な女性がいた。
まるで、女神のような風貌である。
なんだこれは。
夢か?
「あなたは死んだのです」
俺が死んだ…?まさか車にひかれて転生するというあの定番中の定番で?
「まじかよ…」
痛みは一切感じない。
本当に死んだのだろうか。
だが、この状況から察するに本当なのだろう。
「あのもしかして、俺はここから異世界に飛ばされるんですか?」
なぜ知っているのか少し驚いたような顔をしながらも女神はそのまま話を続けた。
「その通りです。あなたは異世界へ行き、世界を平和に導くのです」
やっぱり。ってことは。
「強い武器やスキルを今から貰えると」
「いえ、そんなものはありません」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
だって王道パターンならここで強い武器やスキルを貰える展開である。
あぁそうか。
俺をからかっているんだな。
困ったお嬢さんだ。
「いやいや嘘は良いですって。これから強いスキルを貰って俺つえええができるんでしょ?」
すると今までおしとやかに話していた女性は、身体を震わせながら俺にこう言った。
「あんたたち人間は本当にうるさいわね…」
「え?」
「毎回毎回装備やスキルをねだってきて!!!あれいくらすると思ってるのよ!!毎回他の神にお願いして値段を下げてもらうの大変なのよ!!!それよりも私の給料あげてよ!」
めちゃくちゃに怒っている。
てか女神も給料制なのかよ。
どうやら女神も女神で大変らしい。
「いや…そんなこと言われても。
じゃあ俺はどうすれば?」
「そのまま行ってもらいます」
「いや、それは無理でしょ。どうせ強いモンスターとかいるんでしょ?」
「良いですか?ライオンは子供を崖から落とし生き残ったものだけを我が子とします。
辛い世界で残ったものこそ、本当の勇者なのです」
ライオンと人間は違うぞ何を言ってるんだ
この女神は。
「では、転送魔法を使います」
「嘘だろ!?本当にこのまま!?」
俺の言葉が言い終わるか言い終わらないかのうちに俺の身体は白い光に包まれながら、天空へと上がっていく。
「貴方の人生に幸運がありましゅ…ありますように」
「そこ大事なとこだろ!」
ツッコミをいれた俺はそのまま天空へと身体が
運ばれ、なぜか眠りについた。