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2-4「戦う理由(中編)」

「わーっはっはっは! ついに追い詰めたぞ、転生者あぁぁ!」


 頭蓋骨が割れるんじゃないかってくらいバカでかい声が響く。

 事実、私たちは500体のゴーレム兵にすっかり囲まれてしまっていた。

 やつらは50メートルくらいの距離を保って、円形の包囲陣を作り上げている。


 ……とはいえ、その辺は正直どうでもいい。

 問題は、なんで私が帝国に狙われているのかっていうことだ。


 キャロルちゃんが狙われるのならまだわかる。というか、納得感しかない。

 でも私はまだ、この世界にきたばっかなのに。

 しかも転生してるってバレてるし! どういうことなの!?


 なんて考えているうちに、ゴーレムたちをかきわけて、長身の男が出てきた。

 顔は整っているけどどこかナルシストくさい奴だ。

 金髪を丁寧に撫でつけていて、自信満々な笑みを浮かべている。


「んんん? どうした? 怯えて声も出んようだなぁ」


 男の声には聞き覚えがあった。

 おそらくこいつが、さっきのゴブリッチとかいうヤツなんだろう。


 それを証明するかのように、キャロルちゃんは彼の名前を呼んだ。


「ゴブリッチ……こんなに大量のゴーレムを引き連れてお散歩ですか? 飼い犬の数が多いとお世話が大変ですね」


「ほう、アップルヤードの小娘もいたのか! ふははは! これはいい! 転生者と一緒に、貴様まで捕らえられるとは実についている!」


「ふふ、これまで何度もわたしを逃がしておいて、まだそんな妄言を吐きますか。これだから脳みそまで帝国色に染まった豚は……」


 ふたりはいきなりバチバチと火花を散らしはじめる。

 気づいたら私はすっかり置いてきぼりになっていた。

 とりあえず転生者の話を詳しく聞きたいんだけどなぁ……。


「ふはは、余裕ぶったところで、貴様が怯えているのは手に取るようにわかるぞ。500体の魔道ゴーレム兵……帝国の偉大なる力を前に、恐れおののいているのだろう?」


「怯える? 恐れる? 何を馬鹿なことを言ってるんですか。わたしの隣に立つこの方は本物の天使。あなたこそ頭が高いですよ頭が! さっさと神の大いなる御業の前にひれ伏すがいいです!」


 私をダシにめちゃくちゃイキるじゃんこいつ……。


 キャロルちゃんは渾身のドヤ顔を炸裂させた上で、下品なハンドサインを連発している。

 こういうのは異世界でも共通の仕草らしい。


 さらにキャロルちゃんは、私の腕に抱きついて言い放った。


「さあ天使さま、ばばーんとやっちゃってください!」


 いやー、ここで私に振ってくるかー。


「……そう言われてもなぁ」


 別にミサイルで蹴散らしてもいいんだけど、ここは森の中。

 自然破壊はよくないんじゃないかなーと思う。


 かと言って、これだけ煽った(私は煽ってないけど)後に、飛んで逃げるっていうのも恥ずかしい。


 どうしたもんかなー、なんてうんうん悩んでいたら……。


「あれ……? 天使さま、腕が……?」


 腕……?


 キャロルちゃんに言われて左腕を見てみる。

 気づいたら、左腕はガトリング砲に変わっていた。


「……は?」


 慌てて右腕を見ると、こっちもガトリング砲になっている。


 ……ちょっと待って。

 いったん落ち着こう。


 目を閉じて、息を大きく吸って吐いて深呼吸する。

 ゆっくりと3つ数えて、再び目を開ける。


 両腕は、相も変わらずガトリング砲のままだった。


 直径にして20cmはあるだろう砲身に、5つの銃口がついている。

 その大きさから察するに銃弾は9cmくらいだ。

 銃については詳しくないけど、昔マンガで読んだめちゃくちゃ強い大砲がちょうどそれくらいの弾だったはず。

 それを連射できるこのガトリング砲は、さらにめちゃくちゃ強いのだろう。


 でも……でもさぁ。


「なんでもありかよこの身体!!」


 変な機械の翼ははえてくるし、ミサイルは撃てるし、耳はレーダーみたいに感度が良くなったし、挙句の果てにはこの腕ときた。


 これじゃまるで全身兵器女だ。

 まるでっていうか、そのものだ。

 うぅ……魔法使いとかもっとかわいいのになりたかったのに……。

 なんでこんな……神は死んだのか……。


 憎たらしいことに、神は死んでいないことを思い出す。

 今度あの女神に出会ったら、このガトリング砲のサビにしてやる!


 だけど次に女神と会うのはいつになるやら。

 だから今のこの怒りは、あいつらにぶつけるしかない。


「な……なんだその奇怪な腕は! お、お、脅しだろ? そうだろう? さすがに500体のゴーレム兵を倒せるとは……」


「ふふふふふ! 言ったでしょう、この方は神の力を授かりし天使さま! この凶悪な形の腕は、神罰が具現化したものと知るがいいです!」


「バカな……! 神など……まして天使など存在するはずが……!」


 好き勝手に言うふたりに、声をかける。


「……ふたりとも頭さげて。危ないから」


「はーい!」


 キャロルちゃんは素直に地面に丸くなる。

 だがゴブリッチは無駄な抵抗を見せた。


「ふ……ふんっ! なぜ敵の言うことを聞かねばならぬのだ! ゴーレム兵よ! 行け! あの妙な女を無力化するのだ!」


「……はぁー」


 思わずため息をついてしまう。


「あんたには聞きたいことあるから、なるべく当てないようにはするけどさ……」


 とはいえ初めて使う武器だから、万が一、ということはありえる。


「お願いだから……死なないでね」


 ゴーレムたちが私たちに向かって走り始める。

 それと同時に、ガトリング砲も火を噴いた。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!!


 息をつく間もなく爆音が鳴り響き続ける。

 嵐の夜のように、銃弾が雨となって降り注ぐ。

 ゴーレムたちは、豆腐を潰すのより簡単に穴だらけになっていった。


「ひいいいぃぃぃぃ!?」


 さすがにこの威力は想定外だったんだろう、ゴブリッチは慌てて地べたに這いつくばった。

 一方でキャロルちゃんは楽しげにイキり倒している。


「わはー! さすが天使さま! 最高ですー! きゃー!! 見てますかゴブリッチ! これが神の裁きですよ!! ふふふふ、豚らしく無様に逃げ回るがいいです! きゃはははは!!」


 うーん……やっぱりこの子、かなりヤバいな……。


 これからの付き合い方をどうすべきか、考え直す必要がありそうだ。


          〇


 ――戦いは数分ほどで決着がついた。

 500体いたゴーレムは、銃弾の雨の前に、みんな単なる土と石の塊と化した。 


「な……なんということだ。帝国の力の象徴が……こうも容易く…‥」


 ゴブリッチは真っ白な顔色で、茫然としている。

 私がその前に立つと……。


「ひいぃぃぃぃ!? お、お許しを……! どうか……どうか命だけは……! 天使さまぁぁぁ!」


 ……そんなに怯えないでほしい。ちょっと傷つくんだけど。

 私だって、なりたくてこんな身体になったわけじゃないのに!


 ゴブリッチは這いつくばりながら必死に懇願してくる。


「く……靴をお舐めしましょうか? それとも裸で踊りましょうか? そ……そうだ、尻から水を勢いよく出す噴水という芸があるのですが……」


「いや、どれもしなくていいから」


 靴舐められるとか、普通に気持ち悪いし……。


「っていうか、よくそんなのぽんぽん思いつくね。逆にすごいよ」


「……それは、この豚が人々にやらせていた事ばかりだからです」


 キャロルちゃんが割って入ってくる。

 さっきまでのハシャぎっぷりはどこへやら、今はすっかりマジモードだ。


「……どういうこと?」


「ゴブリッチは、目に付いた市民に適当な理由をつけて絡んで、下劣なことを強要して楽しんでいたんです。さっきあげたのはまだ軽いほうで、もっとひどい事もいっぱい……」


「……なるほどね」


 それは……絵にかいたようなゲスだ。

 どこに出しても恥ずかしくないクズだ。


「帝国の軍事力には誰も逆らえませんからね。だからこいつらは好き放題するんです。ほんと、ろくでもない豚ばかりですよ」


 キャロルちゃんがここまで帝国を嫌う理由が、すこしわかった気がする。

 強い思いも目的もあるわけじゃないのに、権力を振りかざして他人を平気で踏みにじる。

 自分自身に力があるわけじゃないから、ピンチに陥ったら尻尾を振って媚びる。


 そういう人間がいっぱいいるんだろう。

 そういう光景をいっぱい見たんだろう。


「……」


 銃口を、ゴブリッチの頭に当てる。


「ひいぃぃぃぃっっ!? た、助けてください! お願いしますお願いしますお願いします」


 ゴブリッチのズボンに大きな黒いしみが出来ていく。

 たぶん……おしっこを漏らしてるのだろう。


「わぁーっ!? き、汚いなぁ……」


 まあでも、脅しとしては十分効いただろう。


 正直、私は帝国のこととかどうでもいいのだ。

 スローライフがしたいだけだし。

 面倒ごとは嫌いだ。


 ただ、帝国が転生者を追っているというのなら、話は別。

 こっちが何もしてないのに、向こうからつけ狙ってくるのだ。

 理由くらいは聞いておかないと。

 そもそも、転生者のことを知ってるってだけでもちょっときなくさいし。


 というわけで……。


「いくつか質問があるんだけど……答えてくれるよね?」


「は……はいぃぃ!」


 ゴブリッチは、首がもげちゃうんじゃないかって勢いで頷いた。

 

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