1-1「よいこのための異世界転生」
――目が、覚めた。
「転生成功……なのかな」
あたりを見渡すと、だだっ広い草原のど真ん中だった。
人工物の一切無い、剥き出しの自然がどこまでも続いている。
「ここが……異世界」
高揚に手が震える。
なかば騙されるかたちで来てしまったところだけど。
あのクソ女神に言ってやりたいことは山ほどあるけど。
それでも異世界。
剣と魔法のファンタジックな世界。
誰もが夢見た憧れの世界……なのだ。
落ちつくために深呼吸する。
若草の香りがする爽やかな空気が、肺を、全身を洗う。
「さて、これからどうしようかな……」
クソ女神は魔王を倒せとか言ってたけど、絶対に従ってやらない。
だいたい、2万人も転生して誰も倒せてない時点で無理ゲーだし。
私が目指すべきは、どこか田舎の村に住み着いて、チートな能力を活かしてみんなにチヤホヤされること。
脇に美少女をいっぱいはべらせて、一生安泰に過ごすのだ。
「……だけど、そもそも」
私に与えられた能力って、いったい何なんだろう。
チートで最強でドカーン、なんて雑な要求しちゃったけど……。
あの女神の選んだ能力となると……ちょっと不安だ。
「――っ!?」
なんてことを考えていたら、草原の向こうにたくさんの人影が見えた。
ここからではよく見えないけど、10人や20人ではきかない数の、人影。
「こっちに向かってきてる……」
周囲に隠れるところはない。
ただの旅人とか、冒険者集団だったらいいんだけど。
盗賊とかゴブリンの群れとかだったら最悪だ。
目を凝らして、人影の正体を確かめる。
……と、人影たちの近づく速度が、やけに早いことに気づいた。
「走ってる……? いや、これは……」
歩いていた。
ただし、とんでもない速さで。
見た感じ普通に歩いてるだけなのに、それぞれの動作が尋常じゃなく早い。
まるで、暴走したロボットみたいな動きだった。
「なにこれ……ヤバ……」
人ならざるモノの動き……それは、本能的な恐怖を呼び起こす。
私は彼らから逃げることを選択した。
が……。
「な、なんで? なんで追いかけてくるかな!?」
人影たちの狙いは……私のようだった。
速度も段違いで、逃げられそうにない。
「こ、こうなったら……!」
戦うしか、ない。
覚悟を決めて、その場に居直った。
私には女神にもらった能力があるはず。
あんな奴らに負けるはずがない……!
と、思う。多分……。
「いやいやいやいや!」
ブンブンと首を振る。
こんなところで弱気にかられてる場合じゃない。
逃げられない以上、あいつらをぶっ倒すしか道はないのだから。
今こそ私の第2の人生……キャッキャウフフなほのぼのスローライフを勝ち取るのだ!
「さあ来い!」
人影が近づいてくるにつれ、その正体も判明していく。
それは、人間ではなかった。
土や鉱物で出来た身体。その隙間から漏れ出す、魔法っぽい神秘的な光。
――ゴーレムだ。
ゲームとかだと、よくダンジョンの奥地で財宝を守っているようなヤツ。
所詮は中ボスクラス。大きさも成人男性くらい。
私にちゃんとチート能力があるなら、苦戦はしないはず。
だけど、あまりに数が多すぎる。
100体……くらいはいるかも。もしかしたら、もっとたくさん。
……勝てるのか?
いや、勝つしかないんだ!
「やるぞおおぉぉぉぉぉぉっっ!!」
気合いを入れるため、雄叫びをあげる。
ゴーレムたちのガシャンガシャンという駆動音が聞こえてくる。
だけど、負けてはいられない。
戦うため、私は拳を握りしめ――
ビリッ!!
服が破けた。
背中のところだ。
改めて自分の格好を見ると、死ぬ前に着ていたセーラー服のまんまだった。
確かにこれじゃ破けても仕方がない。
なんといっても、私の背中には、機械の翼が生えつつあったのだから。
「……は?」
翼といっても、羽毛がついてるような動物的な翼ではない。
鋼鉄で出来た、無骨なデザインの翼だ。
ロボット物とかで、よくみるタイプのアレ。
かなりの大きさで、背中がずっしりと重い。
完全に伸びきったらしいその翼は、羽ばたくような動作を入れる。
そして……。
全ての羽先から、無数のミサイルを射出しはじめた。
「なっ……!?」
飛翔するミサイルたちは、その軌跡によって美しい幾何学的模様を描き出す。
その圧倒的速度と物量の前に、ゴーレムたちはなすすべもない。
ミサイルは次から次へとゴーレム軍団に降り注いでいく。
降った先から爆発が起こる。
その轟音は、耳どころか全身を引き裂かんばかりだ。
ボコボコにやられていくゴーレムたちの姿も、ぶ厚い爆焔と真っ黒な煙に覆い隠されていく。
「なあぁぁ!?」
全てのミサイルが射出され、命中しきるまで、たった数秒。
その数秒が終わった後……。
あれだけいたゴーレムたちは、一体残らず、グチャグチャの木っ端微塵にされていた。
……地形ごと。
さっきまで目の前に広がっていた美しい草原は、今ではすっかり荒野と化している。
「なっ……ななっ……」
その荒野に向かって、混乱をぶつけるように、全力で叫んだ。
「なんだこれええぇぇぇぇぇっっ!?」