夕暮れ時、赤い満月
「この話・・・・・・どう思う?」
秋川さんの単刀直入過ぎる質問。
「どうって・・・・・・えーっと・・・・・・最後の部分を聞いた限りだと、少年が少女の願いを叶えた代償として、少年は土塊になってしまった・・・・・・ですかね?」
「やっぱりそうなるよねぇ。でも少女の願いがちゃんと叶ってるわけじゃないよね」
「え? あぁ。確かにそうですね」
少女は少年と一緒に居たかったのだ。つまり、冬の中でしか生きられないというそんな呪いみたいなモノから解放されるのが、真の願いではない。
「そもそも冬の中でしか生きられないってのがどうなんですかね? 族長のはったりかも知れませんよ。まぁ、これを言ったら話の根本が変わっちゃいますけど。・・・・・・もっと別の視点から見るなら元から少年は土塊からできたゴーレムみたいなモノだったというのもありますね」
「つまり、冬の中でしか生きられないってのははったりで、少年は元から土塊で、タイミングよく崩れただけ。願いを叶えたりはしていない、と?」
「まぁ、ここまでくると最早別物ですけどね」
「確かにそうね。ところで何か思い出せた?」
「あ、いえ、まだ何も。あぁ、でもこの話はかなり似てる気がします。あまり報われずに、むしろ仕打ちを受けて終わるような、少しえぐい感じの話。・・・・・・って、あれ? 俺そういう感じの話だって言いましたっけ?」
「じゃあ次の話ね」
ぇえっ!?
この街に今一つの噂が流れている。それは、夕暮れ時に赤い満月が見えるとき、幸福が訪れる。ある人は、病院の屋上で赤い満月を眺めながら検査結果を待ってたら、治らないと言われた症状が治った、とか。またある人は、赤い満月を見て、不意に宝くじを買おうと思い立って、当たったらしい。他にも、自転車と車で衝突したはずが、全くの無傷だったとか。そしてたった今、私の目の前に、赤い満月が。
「告白でもしてみようかな。彼氏の一人や二人出来ちゃうかも。二人も要らないけど。お金も欲しいな。この前見つけたあのかわいい服買いたいし。宝くじ買いに行こうかどうしようか。いや待って。私に貢いでくれるお金持ちと玉の輿で一挙両得じゃない?」
「あれ? 久しぶり」
路地裏の細い十字路に突っ立っていた私の横から声を掛けてきたのは、高校こそ違うものの幼稚園から中学までずっと一緒だった幼馴染みだった。仲は悪くない、位の関係である。
「久しぶり。ほら見て、赤い満月」
「お、本当だ。さっきあっちから見たときは赤くなかったと思ったけど。見る角度で違うのかな?」
「ね、何か願っとこうよ」
「流れ星かよ」
私は胸の前で手を合わせ、指を組み、目を閉じて、心の中で願い事をする。細やかな幸せを、心から。
目を開け、ゆっくりと手を下ろす。そして、隣の幼馴染みを見て
「なに願ったの?」
「……そっちは?」
「教えないよー」
こんな他愛ない話をしながら二人は帰っていく。
次の日からは凄かった。連日告白を受け、欲しいと思った服やアクセサリーを貢がれる。
赤い月スゴい! 赤い月サイコー! 噂本当じゃん!
二週間位経ったある日、赤い月を見た十字路で再び幼馴染みと出会った。そっちはどんないいことがあった? と、聞こうと思っていた。
聞けなかった。
左腕の骨折、右足の重度の捻挫、体のあちこちに青あざがあるらしく、登下校も相当辛いんだとか。
・・・・・・なんで!?
赤い月を一緒に見て、彼は不幸な目に遭って・・・・・・私だけ・・・・・・
私がやるせない気持ちで憮然としていたら、彼はこう言った。
「赤い月の噂は本当だったね」




