表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

夕暮れ時、赤い満月

「この話・・・・・・どう思う?」

 秋川さんの単刀直入過ぎる質問。

「どうって・・・・・・えーっと・・・・・・最後の部分を聞いた限りだと、少年が少女の願いを叶えた代償として、少年は土塊になってしまった・・・・・・ですかね?」

「やっぱりそうなるよねぇ。でも少女の願いがちゃんと叶ってるわけじゃないよね」

「え? あぁ。確かにそうですね」

 少女は少年と一緒に居たかったのだ。つまり、冬の中でしか生きられないというそんな呪いみたいなモノから解放されるのが、真の願いではない。

「そもそも冬の中でしか生きられないってのがどうなんですかね? 族長のはったりかも知れませんよ。まぁ、これを言ったら話の根本が変わっちゃいますけど。・・・・・・もっと別の視点から見るなら元から少年は土塊からできたゴーレムみたいなモノだったというのもありますね」

「つまり、冬の中でしか生きられないってのははったりで、少年は元から土塊で、タイミングよく崩れただけ。願いを叶えたりはしていない、と?」

「まぁ、ここまでくると最早別物ですけどね」

「確かにそうね。ところで何か思い出せた?」

「あ、いえ、まだ何も。あぁ、でもこの話はかなり似てる気がします。あまり報われずに、むしろ仕打ちを受けて終わるような、少しえぐい感じの話。・・・・・・って、あれ? 俺そういう感じの話だって言いましたっけ?」

「じゃあ次の話ね」

 ぇえっ!?




 この街に今一つの噂が流れている。それは、夕暮れ時に赤い満月が見えるとき、幸福が訪れる。ある人は、病院の屋上で赤い満月を眺めながら検査結果を待ってたら、治らないと言われた症状が治った、とか。またある人は、赤い満月を見て、不意に宝くじを買おうと思い立って、当たったらしい。他にも、自転車と車で衝突したはずが、全くの無傷だったとか。そしてたった今、私の目の前に、赤い満月が。

「告白でもしてみようかな。彼氏の一人や二人出来ちゃうかも。二人も要らないけど。お金も欲しいな。この前見つけたあのかわいい服買いたいし。宝くじ買いに行こうかどうしようか。いや待って。私に貢いでくれるお金持ちと玉の輿で一挙両得じゃない?」

「あれ? 久しぶり」

路地裏の細い十字路に突っ立っていた私の横から声を掛けてきたのは、高校こそ違うものの幼稚園から中学までずっと一緒だった幼馴染みだった。仲は悪くない、位の関係である。

「久しぶり。ほら見て、赤い満月」

「お、本当だ。さっきあっちから見たときは赤くなかったと思ったけど。見る角度で違うのかな?」

「ね、何か願っとこうよ」

「流れ星かよ」

 私は胸の前で手を合わせ、指を組み、目を閉じて、心の中で願い事をする。細やかな幸せを、心から。

 目を開け、ゆっくりと手を下ろす。そして、隣の幼馴染みを見て

「なに願ったの?」

「……そっちは?」

「教えないよー」

 こんな他愛ない話をしながら二人は帰っていく。


 次の日からは凄かった。連日告白を受け、欲しいと思った服やアクセサリーを貢がれる。

 赤い月スゴい! 赤い月サイコー! 噂本当じゃん!

 二週間位経ったある日、赤い月を見た十字路で再び幼馴染みと出会った。そっちはどんないいことがあった? と、聞こうと思っていた。

 聞けなかった。

 左腕の骨折、右足の重度の捻挫、体のあちこちに青あざがあるらしく、登下校も相当辛いんだとか。

 ・・・・・・なんで!?

 赤い月を一緒に見て、彼は不幸な目に遭って・・・・・・私だけ・・・・・・

 私がやるせない気持ちで憮然としていたら、彼はこう言った。

「赤い月の噂は本当だったね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ