森の魔物
いつだったか遠い日の夜に、祖母は幼かった私にこう語り始めたのだ。
「これは、遠い遠い昔の話──」
昨晩ふとそんなことを思い出したのか、あるいは夢に見たのか、私は机の上で目を覚ました。教材には涎が垂れていて、服の袖で拭い取った。立ち上がり、部屋のカーテンと窓を開けた。窓から冷えた風が部屋に入り込む。外は一面の銀世界。スコップを持った人がちらほら。少しの間そこに立ち尽くしていた私は窓を閉め、布団に潜り込む。
そういえば、あの話の続きは何だっただろうか? 少し悲しい話で可哀想だと思ったことは覚えてる。
思い出そうとしたところで唐突に、落とし穴にでも落ちたかのように、ストンと眠りについた。
その森には魔物がいる。夜な夜なおどろおどろしい鳴き声が森に村に響き渡る。しかし、その魔物を見たと言う人は誰一人としていない。
ある時村の跳ねっ返りな青年が言った。魔物は本当にいるのかと。それは村の皆が密かに抱いてる想いだった。そこで有志で集まり、朝早くから森の奥深くへと入ってみることにした。
森の中は草木が鬱蒼と生い茂り、陽が高く上っていてもほんのり薄暗く、少し気味の悪さがある。森の奥へと進むごとに段々と陽が差し込まなくなっていくので、村の人々は森の奥には立ち入らない。
その魔物はどうやら夜行性らしく、朝昼には姿どころか声すら聞こえない。なので寝ている姿を見つけようものならその場ですぐに始末しようとライフル銃を担いできた。
しかし、歩けども歩けども魔物を見つけることは叶わず、青年たちは魔物なんていない、という結論を出し、村に戻ることにした。
ふと青年の一人が、一人居ないことに気がついた。4人で森に入ったはずが今は3人で一人居ない。そして何より誰がいなくなったのかがわからない。誰か一人居なくなったことだけが分かっている。手に持っていたライフル銃が手から滑り落ち、それと同時に3人は走り出す。
走って、走って、走って、走って、森の出口が見えてきた。二人は顔を見合わせた。······また一人居ない!
早く、早く森の外へ!
外へ、外へ、外へ、······出た!
振り返る。しかしそこには誰もいなかった。
虚ろな面持ちで村に戻る。そして村の皆に、あの森には魔物がいる、と起こったことを話した。だが、皆の反応が変だ。すると誰かが言った。お前は誰だと。
青年はおもむろに走り去っていった。
そして村には今も森の魔物の言い伝えが語り継がれている。
違う。この話じゃない。
夢から覚めた私はあくびをしながら窓の外に目をやる。先程よりも少し明るい。二、三時間といったところか。二度寝してかなりスッキリした。
そういえば、と少し歩いたところに古びた古本屋があったことを思い出す。今までに一度も入ったことはなかったし、特に興味もなかったが、無性に気になり始めた。
12時少し前。朝飯代わりの昼食を済ませてから行ってみるか。