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3、驚愕の・・・玲美

本当に、驚愕以外の何ものでもなかった・・・。

突然の、仁さんからの告白・・・と、ほぼ同時に行われた、行為。

抵抗する間も与えず、気が付いたら・・・そうなっていた、訳で。

で、何故か。

次の日仕事が終わっても、なんだかんだと言われ、家に帰してもらえず仁さんの家に泊まることになって・・・次の日も。

えーーーーー!?・・・っと、思っていたら。

私のマンションの部屋は解約されていて、私の荷物が、仁さんの家に届いていた。

確かに、私が住んでいたマンションは社宅扱いで、契約者はオフィスブルドッグだったけれど・・・って・・・これ。


「仁さん、どういうことですか?」


そう訊いたんだけど。


「まー、ゆうなれば、経費削減?だって。もう離れている意味はないし?それにー、玲美のベッドシングルで、2人じゃ狭いし?風呂もユニットだし、2人で洗いっこできな――「仁さんっ!!」


人前でとんでもないことを平気でいう仁さんの口を、両手でふさいだ。

・・・のだけれど、時すでに遅し。


「ええっ!?所長と、犬塚さんっ、やっぱり、恋人同士なんですかっ!?」


愛美ちゃんが食いついてきた・・・。

はあ。


「愛美ちゃん、やっぱり、ってどういうことー?」


仁さんが、にっこりと愛美ちゃんに問いかけた。


「えー、だって。所長、犬塚さんには特別って感じだったけど・・・犬塚さん結構冷たいから、よくわからなくて、恋人なんですか?って聞いたら、違うって犬塚さん即答だったから・・・。」

「ああ、玲美はツンデレで恥ずかしがり屋さんだから、気にしないでー。でも、玲美は俺の恋人だから、おいっ、洋介!コー!玲美に手をだすなよっ!!」


だれも、私に手なんて出すわけないでしょ。

なのに、仁さんは私を後ろから抱きしめ、皆に見せつけるように頬ずりをした。

重い・・・。


「仁さん・・・重い。」


つい、口から思っている言葉が出てしまった。

だけど、仁さんはいいように誤解して。


「あー、ごめん。重かったか?じゃあ、玲美。むこうのソファーで俺の膝に乗せてやるから、な?」


いや、決してこの体勢が問題なのではなくて。

いやいや、人前ということであれば、この体勢も問題なのだけれど。

それよりも、重いと言うのは――


「やだー。所長、犬塚さんが重いっていってるのは、所長の態度じゃないんですかー?」


愛美ちゃん、そんなはっきりと良く通る声で、言わなくても・・・まあ、その通りなんだけど。

だけど、そのまま伝えると、何か仁さんスネそうな気が・・・。

仁さんは、すぐにスネるのだ。

そうそう、私が小学校の頃。

仁さんはほっぺにチューが好きで、中学までは良かったんだけど、仁さん高校に入ったら髭が濃くなって痛いから拒否っていたら。

スネたんだった・・・押入れ入って、ご飯も食べなくて・・・アレには参った。

でも、今考えると、完全にロリ●ンだったんだよね。

ちょっと、キモ・・・なんて、考えていたら。

仁さんは、ニッコリ笑って愛美ちゃんに。


「愛美ちゃん、クビ。明日から来なくていいから。」


信じられないことを言った。


「仁さん!!」

「お、おいっ!?仁!!お前何いってんだっ!?」


思わず、私と洋介さんが仁さんに詰め寄った。






で・・・・どうして、こうなる?

いつも、ダラダラ終業時刻を過ぎても事務所に入り浸る仁さんが、ここ最近は終業時刻になった途端、皆を無理矢理帰らせて。

いや、もとい!私以外の、皆だけどね。

つまり、2人っきりになりたがる・・・仁さんが。

で・・・途端に、キス責めや、ベッド強制連行とか。

あと、14年ぶりの一緒の入浴をしたがったり・・・つまりは、オールエッチ関係で。

はあ・・・。

さっきの、愛美ちゃんの解雇回避も、何故か私が仁さんの言う事を聞くという条件にすり替えられていて・・・って、もしかして最初から、それが狙いとか?・・・ま、まさかね。

でも、ありえる?

・・・・・・・・・・・はあ。

何か・・・仁さん、性格変わったよね?

滅茶苦茶、甘い・・・スキンシップは以前から過剰だったけれど。

でも、優しくて、私が嫌がったらそれでやめてくれたのに・・・一旦こういう関係になったら・・・強引で。

草食系と思っていたのに・・・実は肉食系って、笑えない・・・。

そう。

笑えないほど、ガッツリ系。

毎晩・・・。

あり得ない程・・・。


なんて、信じられない現状にガックリ疲れていたら。


グイッ――


仁さんが、私の手を引いた。

座っていたから、立ちあがっただけなんだけど。

って、あれ?


「仁さん、何でそんなスーツ着ているんですか?」


いつもジャケットとかは着ているけど、お洒落な替え上着とかで。

こんな黒のスーツでピシッとしている姿なんて、いつ振りだろう?

ふと。

仁さんが学生時代に、学生主催のチャリティの舞台で、インスペクターを務めた時のことが思い出された。

あの時の、コンサート当日の仁さん・・・格好良かったな。

結局、私が表舞台に立つことよりも、こうやって裏方に魅力を感じたのって・・・アレがきっかけだったような・・・。





連れて行かれたのは、古田先生がお気に入りのフレンチレストランだった。

古田先生は、顔こそああだけれど(本人には絶対に言えない!!)、洋服もとてもセンスがよく上品で、使うお店も素敵なお店が多い。

私もたまに連れてきてもらうレストランで、多分創業50年以上はたっていると思われる、老舗だ。

仕立てのいいタキシード姿のお店の人は、皆優雅で控えめだけれど、にこやかでフレンドリーだ。

つまり、高級なのに、居心地がいいお店。

ちょっと、古田先生に似ていると思う・・・まあ、仁さんに言ったら、絶対に否定するだろうけれど。

私もこのお店が好きだ。


仁さんに手を引かれ店内に入ると、個室に案内された。

で・・・。


「じいさん!今日は、マジ祝いだからな~!!」


歌うように、上機嫌で仁さんが部屋に入った。

今、ようやく分かった・・・。

この間、ステーキを食べている時にお祝いって言っていたのはつまり、私と仁さんが恋人同士になるってことで・・・。

今、高らかに宣言した仁さんの言葉は、私たちがそう言う関係になったと・・・公言しているってことでっ・・・!?


「仁さん!ちょっと、恥ずかしいからっ。やめて――」


はしゃぐ仁さんを、慌てて止めようと続いて部屋に入ったのだけれど。

そこには、古田先生と。

そして・・・あの、香田蘭子さんがいた――

香田さんとは、あれ以来・・・2年半ぶり、だった。


「げ。何で、お袋がいるんだよ。呼んでねぇし。」


香田蘭子さんを見て、しばらく呆然としていた私は、嫌そうな仁さんの言葉で我に返った。


「え・・・あの・・・。」


驚きすぎて、言葉が続かない。

そんな私に、仁さんが不機嫌な顔で仕方がなさそうに。


「ピアニストの香田蘭子。J音大にもたまに臨時講師で顔出してたから知ってるよな?・・・はぁ、言ってなかったけど・・・俺のお袋。」

「・・・・・・。」


ここに、香田蘭子さんがいるだけでも乱れた心が、仁さんのお母さんという事実を理解できなくて。

冷静に考えれば、仁さんのお母さんなのだから、ちゃんと挨拶をしなくてはいけないのに・・・私は、何も言葉が出てこなかった。


「玲美?・・・どうした?」


そんな私に、古田先生が心配そうに声をかけてきた。

心配をかけていると申し訳なく思うのに、ただ、肩をピクンとさせるだけで。


「玲美?」


仁さんの声を聞いても、そう。

ただ、俯くだけ。

どうしよう、と思った時。


「とりあえず、座ったら?」


と、香田蘭子さんが声をかけてきた。


「先に、報告する。俺たち、近々結婚するから。」

「ええっ!?」


香田蘭子さんに勧められるまま席に着いた途端、仁さんがいきなり、私が了承もしていない結婚宣言をした。

いや、その前に・・・結婚の、け、の字も出ていない。


「じ、仁さんっ!?私、結婚するなんて言ってないですよっ!?」


私が慌ててそう言うと、仁さんはムッとした顔をした。


「OKはもらったし。」

「はっ!?」


いやいやいやいやいや・・・記憶喪失じゃない限り、してないけど?

驚く私に、仁さんは拗ねた顔で答えた。


「愛美ちゃんの話で・・・OKするって言ったろ。」

「・・・・・。」


驚愕の、プロポーズだ。

まさか、愛美ちゃんの解雇回避の条件に私が仁さんの言う事を聞くって・・・ええっ、人生までかけなきゃいけないの?

いや、愛美ちゃん申し訳ないけど・・・今回は愛美ちゃんに諦めてもらおう。

付き合いだしたばかりで、結婚なんてまだ考えられないし。

それに・・・。

チラリ、と香田蘭子さんを見る。

やっぱり悪いけど・・・無理だ。

そう思って、断ろうと口を開きかけたのだけれど。


「私が仁の母親だから、ってことで結婚を断るって言うのは、無しよ?そんなことしたら、あなた。また、逃げることになるわよ?」


私は、香田蘭子さんのストレートな物言いに、ビクリ、と体を震わせた。

美しい、ローズピンクの口がまた、私を追い詰める。

私は、思わず香田蘭子さんから目をそらした。


「え・・・玲美?お袋と、個人的に知り合いなのか?」


仁さんが、怪訝そうな表情で私に問いかけてきた。


「・・・4年の時・・・大山先生のゼミに・・・たまに、いらっしゃってた・・・から。」


私が何とかそう答えると、仁さんは眉をひそめた。


「大山か・・・お袋、まだあいつと付き合ってんのか?」

「あら、もう付き合ってないわよ?彼、昨年、結婚したから。お見合いで。もう、恋愛は懲り懲りだって言われちゃったわ。」

「どうせまた、振り回したんだろ。」

「人聞き悪いわねぇ。単に、彼の器が小さかったってことよ。」


ぼんやりと、仁さんと香田蘭子さんのやり取りを聞いていた。

世界でも活躍の場をもつ香田蘭子さんは、実力はもちろん、いつも美しく輝いていてとても50代には見えない魅力的な人だ。

多分、ずっと、自分の思う通りに生きてこられた人・・・。

だから、彼女の言葉も、自信にあふれていて。

いつもストレートで・・・。


「玲美。お前が大学卒業前、ピアニストにならないって言いだしたのは、蘭子と関係があるのか?」


突然。

自然と俯いてしまった私に、古田先生がそう問うてきた。

古田先生の言葉に、何も答えられない私。

それは、そのまま肯定の意味を示して――


「玲美?・・・っ!?お袋っ、玲美に何したんだよっ!?」


仁さんが、黙り込む私を見て、香田蘭子さんに詰め寄った。


「あら、嫌だ。人聞きの悪い。ただ、大山君の授業に呼ばれて。卒業前のプロになるゼミの子たちに、1人ずつの感想を言ってくれって言われたから。彼女の演奏は、一見お上手だけど人の心を揺さぶるものがない、プロとしてはダメだ、って。思ったことを言っただけよ。」

「何だって!?」

「何だとっ!?」


驚愕の表情で、仁さんと古田先生が立ち上がった。

私は、俯いたままだった。

あの、ピンクローズの口から・・・また私を否定する言葉が出るのを、見たくなかった。



「志藤がどうしてっ!優秀でこんなに努力する、いい子がっ・・・何で、こんな目にあわないといけないのっ!?・・・志藤ばっかり!!・・・何でっ!?・・・お兄ちゃんが、こんなに苦しんでるのに、どうして、何をやってもダメな玲美がこんなに元気なの!?」



ふと、お母さんの・・・あの日の絶叫が、私の頭の中に響いた。

若い頃ピアノが好きで、ピアニストになるのが夢だったお母さんは、お兄ちゃんや私にピアノを教えてくれた。

だけど、お兄ちゃんはどんどんピアノが上手になるのに、私はうまくいかなくて・・・ダメな子って、いつも言われていた。

お母さんも、ピンクローズの口で・・・ダメな子なのに・・・元気な私を、否定した。

否定された私は、どうしたらいいのだろう・・・。



「また、逃げるの?」


ふらりと、立ち上がった私に、ピンクローズの口が問いかけてきた。

私は、ピンクローズの口元を見据え。


「逃げる、ことさえも・・・否定するんですね?」


そう答えると、心配そうに私の肩を抱き寄せようとした仁さんの手を、思いっきり振り払った。

そんな、私の拒絶に、仁さんが信じられない表情で固まった。

否定されることが何よりも辛い事だとわかっている私が、仁さんの存在を否定してしまった。

そのことがまた辛くて。

私は頭を下げると、逃げるようにその場を立ち去った。






驚愕の・・・館だった。

いや、マンションの一室だけど。

言われた通り、仕方がなく玄関のドアの外で。

つまり、マンションの共有の廊下で、自分自身にハタキをかけること、20分。

ガチャリと、漸くドアが開いた。

でも、一瞬にして。


「埃の匂いがまだ残ってる。玲美ちゃん、20分間いい加減にハタキかけてたでしょ?もう一回、20分、死にもの狂いでハタキかけないと、家にはいれないよ?」


常人には絶対に臭わないと思う埃の臭いをかぐために、一瞬ずらしたマスクをまた定位置まで戻すと、 コー君はバタンと玄関のドアを閉めた。

秋とはいえ、夜は中々気温の冷えが厳しく、私はかなりイラッとしながらも。

早く部屋の中に入れてもらいたい一心で、仕方がなくやみくもに自分自身にハタキをかけた。



「じゃ、入って。」


漸く、コー君から入室許可が下りた。

その前に、濡れた雑巾に消毒剤をたっぷりまぶしたタオルの上に乗って、足踏みを100回させられたけど、どうにか終わって。

寒かったので、温かいものでも入れてもらおうと思ったのだけれど。

何故か、靴を脱ぐ前に、コロコロを渡された。


「え?」

「20分、服にコロコロして。で、その後。バケツに水汲んでくるから、雑巾で足ふいて。アルコールスプレーして。この乾いたタオルで拭いてくれればいいから。で、玄関の上り口で、このスウェット貸すから洋服着替えて・・・脱いだ服はこのゴミ袋に入れて、口をちゃんと閉めて。あ、この小さい袋は靴用だから。靴も、この雑巾で拭いてね?ああ、帰るときにまたここで着替えてもらえばいいから。着替える時は俺、奥の部屋に行ってるから、気にしなくていいからね?その後、洗面所に行って、手洗い10分と洗面10分と、うがい30回して・・・イソ●ンのうがい薬あるから。」

「・・・・・・・。」


心が。

こ、心が・・・折れそうになった。

というより・・・うん。

なんか、私の辛い気持ちとか、なんか、そういう今まで苦しんできたものすべてが。

ここへ来て、ものすっごく。

とてつもなく・・・小さく思えた。



それは、突然。


――ゴンゴンゴンゴンッ!!

――ガチャッガチャッ、ガチャッッ!!


コロコロを多分死んだ魚のような瞳をして服にかけている私の耳に、常識では考えられない破壊的なノック音がした。


「おいっ、コー!!玲美いるんだろっ!出せっ!!」


やっぱり、常識では考えられない行動は、仁さんで。

その声に、コー君が舌打ちをした。

そうだよね、こんな大きな物音させて、叫ぶなんて、近所迷惑だよね・・・。

だけど。


「仁さん!除菌シートで拭いていない手で、うちのドアノブを触らないでっ!!」


ものすっごく、キレた口調でどなるコー君。

え、ソコ!?

じょ、除菌シートなんて・・・普通の人、あんまり持って歩いてないよね?

ていうか、今気が付いた。

コー君がドアを開けてくれたから・・・私、ドアノブ触ってなかったな。

そ、そういう事なんだ?

驚いて危うくコロコロを落としそうになった。

かろうじて、落とさなかったけれど。

落としたら、また大変な事になるに決まってるし。

ホッとするのもつかの間。


「おいっ、コーお前っ。玲美に手をだしてないよなっ!?」

「出してないから。」

「じゃあ、早く中へ入れろっ!」

「諸事情により、今すぐは、無理。」

「!?・・・まさかっ・・・玲美、裸じゃないよなっ!?」

「いや、まだ服は脱ぐ前の段階だから。」

「はっ!?脱ぐ前の段階!?・・・どういうことだっ!!あけろっ、ここあけろっ!!」


なんか、ややこしいことになった・・・。

私はため息をつくと、コー君にコロコロを返した。


「ごめん、帰る・・・。」


そういうと、コー君は優しく微笑んで頷いた。


「仁さんは、玲美ちゃんの事、昔から大好きなんだよ?玲美ちゃんいなかったら仁さん生きていけないと思う。玲美ちゃんだって・・・仁さんが一緒にいるのが当たり前になってるけど。一時期仁さんと離れてた時、玲美ちゃんどんな気持ちだった?・・・よく話し合いなよ。」


そうだ。

私が中学に入って、仁さんと一緒にいる時間が少なくなって、顔を合わせると今まで通り可愛がってくれたけど。

大学が忙しいのか、古田先生の家も出て1人暮らしになって・・・寂しくて、会いたくなって・・・仁さんのマンションに行ったら、すごーく綺麗な女の人と部屋から出てきた。

仁さんは私に気が付かなかったけれど、彼女ができたから私の相手をしている時間はないんだ・・・そう思った。

彼女はすごく大人っぽくて・・・。

まあ真相は、ロリ●ンだったんだけど。

だけど、その時は私なんてかなわないと思って・・・・って。

え?

かなわない!?

私、もしかして。

その時、その彼女に・・・嫉妬していたとか?

いや、仁さんと会えなくなって寂しかったけど・・・。

まあ、だから。

高校に入って、両親と出かけた仕事関係の人の自宅で行われたバーベキューの集まりで、裕と会って、言われるまま付き合ったりもしたんだけど・・・。

でも。

手をつないでも。

肩に、手を回されても。

抱きしめられても。

キスをしても。

違和感ばかりで。

そして、初体験をした時も。

ちっとも、幸せな気持ちになれなかった。

痛くて、辛くて、気持ちが悪くて・・・。


だけど、仁さんは。

手も肩も腕も胸も唇も・・・。

私に触れるそれらは、全く違和感なんてなくて。

心地よくて。

仁さんに抱かれることも・・・フワフワしていて。

何だか幸せで・・・いや、ものすっごく、ハードはハードだけれど。

でも・・・嫌じゃない。

それって、やっぱり。

私にとって、仁さんは特別ってことなんだろうな・・・。


「うん、よく・・・話し合うよ。ごめん、何か・・・お騒がせしちゃって。」


気がつけば、コー君の家に来て1時間以上も過ぎていた。

この際、まだ靴は脱いでいないという事は、考えないでおこう。

コー君は、私の言葉に優しく微笑んだ。

本当に、コー君は優しい。

まあ、極度の綺麗好きは・・・ナンだけども。

仕事先でのちょっとした愚痴とかも話すと、いつも冷静にアドバイスをくれたり、元気づけてくれてくれる。


「玲美ちゃんが元気になってよかった。」

「コー君のお陰だよ。いつもありがとね?」


そう言うと、コー君は首を激しく横に振った。


「違うよっ!お礼を言うのは俺の方。玲美ちゃんは最初から、こんな俺とも普通に接してくれて。玲美ちゃんと一緒に話をするの、凄く楽しいし!」


ふと、初対面の時のコー君の姿が思い出された。

仁さんにケーキが出るからと言われてついていった、仁さんのお祖父さんのお誕生日パーティー。

真夏というのに、白の上下のウインドブレーカーを着て、大きなマスクとビニールの手袋をして、部屋の隅で俯き、読書をしていたコー君・・・。

最初は、我慢大会だと思って声をかけたのだった。

懐かしいな・・・。


「うん、1人我慢大会してると思ったんだよねー。でも、あの時声かけてよかった。ふふ、私もコー君と話せるの、楽しいよ?」


そう言った私に。


「玲美ちゃん、大好きだ!!」


一生懸命気持ちを伝えてくれようとするコー君だけど、興奮しすぎて声が大きくなり。


「おいっ!?コー!!この野郎ッ!!玲美口説くんじゃねぇっ!!早くあけろっ!!!!」


――ガンッ!!


仁さんが、また変な風に誤解をした・・・。


「と、とりあえず。コー君。仁さんほっとくと、また面倒な事になるから・・・帰るね?」


何をぶつけたか知らないけれど、マンションのドアが凄い音をたてたし。

コー君もヤレヤレという顔で、ドアノブに手をかけた。

そして、本当に優しいコー君は。


「玲美ちゃん、何かあったら。またいつでも来ていいからね?」


と、言ってくれた。

・・・もう、絶対に、来ないと思うけれど。

一応空気を読んで、とりあえず、頷いておいた・・・。


そして、ガチャリとコー君がカギを開けると、外側から凄い勢いでドアが乱暴に開けられ。


「きゃぁっ!?じ、仁さんっ!?」


驚愕の仁さんが、立っていた。





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