8、女の子、ひろいました
「うぇっ、ぐす、うわぁ~~ん」
「えぇ~」
呆然と泣きじゃくる女の子を見る。オークの群れに襲われたこの惨状でただ一人残された生き残り。見た感じ4~5歳くらいか?少し汚れているが綺麗な顔をくしゃくしゃにして肩までの茶色の綺麗な髪を揺らしながら泣いている。身なりからして貴族って感じじゃないけども。
この世界に貴族が居るのかは知らん。
「え~っと、だ、大丈夫か?」
「ひいっ!」
俺が声を掛けるとびくっと身をすくめる女の子。そりゃそうだ。俺オークだもん。しかもこの状態を作り出したやつらの仲間だもん。
わぁ、へこむ。
「怖がらなくても大丈夫だから落ち着いて、ね?」
「ドウシタ?クウノカ?」
「食わねえよ!」
「ひっ、もうやだ~」
俺もやだぁ~。
遅れて合流してきたデニスが余計な事言うからもっと泣き出しちゃったじゃないか。
しかし本当にどうしよう。おそらくこの子の両親はもう生きてはいないだろう。破壊された馬車を見る限り商人の馬車っぽい。食い物は根こそぎ奪われてるけど他の物には目もくれなかったのか結構なものが残ってるのが見て取れる。
衣服やら本やら雑貨やらが散らかっている。
商品を仕入れて戻る途中にオークに襲われて護衛の人たちもろとも殺されてしまったってところか。そしてこの子の両親はこの子をオークに見つからないように隠して守ったんだろう。
「ひっく、ひっく」
俺がやったわけじゃないのに罪悪感がすごい。押しつぶされてしまいそうだ。
とにかくここで狼狽えててもしかたがない。何とかして女の子を落ち着かせないと。
「とって食べたりしないから、とにかく泣き止んでくれよ」
「やだぁ、オークやだぁ」
俺だってオークやだぁ!人間がよかったぁ!
などと心の中で叫んでも仕方がない。
「大丈夫、俺は何もしないから大丈夫」
「おとうさん……おかあさん……ひっく」
「ごめんな……」
しゃくりあげる女の子にゆっくり近付き恐る恐る頭をなでる。俺に触られた女の子はびくっと身をすくめたが取り乱すことはなく俺の太い指になでられながらそのまま泣き続けた。
「ザックス、ドウスルンダ。クウノカ?」
「だから食わねえっての。どうしようか俺も考えてんだよ」
落ち着いて考えてみる。女の子をここに残して戻る。却下。
数日だがこの森にいてわかったことだけど俺たちオーク以外にもデカい猪やらデカい狼やらさっき見たゴブリンやら危険な生き物がわんさかいる。そんなところに残していけば救助が来る前にこの子はご飯になってしまう。
町まで送る?却下。
俺が死ぬ。討伐されちゃう。町の近くまで送っていけばとも思ったけど剣を持った護衛が居るくらいなんだから俗にいう冒険者がそこらへんをうろついてないとも限らない。
小さな女の子を連れた豚の魔物。
うん、アウト。事案発生どころじゃない。俺が何を言おうが問答無用でころころされちゃう。
それ以前に町がどこにあるのかさえ俺には分からん。どっちの方にどれだけ歩けばいいのか検討もつかない。
連れて帰る?却下。
人間の女の子なんぞをあんな場所に連れて行けば結果は火を見るより明らかだ。
くっそ、詰んでるじゃんよ。
「ひぐっ、オークの、おじちゃんは、ミィにひどいこと、しないの?」
「お?しないしない。でも怖かったよな。ごめんな」
「ひっく、おとうさん、おかあさん…」
精神年齢高校生の俺はおじちゃんと言われ心に致命傷を負ったが強引に無視する。見た目豚だししょうがないね。
これはもう悠長に構えてる暇はないな。集落のオークどもに肉と火を奪われてぼこぼこにされた後から考えてたことがあったがもう迷ってる暇はない。
「なあデニス」
「ナンダザックス」
「お前、あの群れにこれからも居たいか?」
「・・・ソウダナ、オレハドウデモイイ」
「そうなのか?」
「ムレルノハ、オークホンノウダガ、オレニハカンケイナイ。イキテイケレバソレデイイ」
「デニス、俺はあの群れから離れようと思うんだ」
あそこにいてもやれることが何もない。まだ肉を焼いただけだが今後便利にしようと工夫をしてもおそらく全て他のオークに奪われてしまうだろう。
俺があのリーダーオークより強くなればあるいはとも考えたがこの子を前にそんな暢気なことは言ってられなくなった。
「ソウカ。ナラオレモオマエニツイテイク。ソノホウガオモシロソウダ」
「面白そうって。まあいいや。サンキュー」
「チャッピーハ、ドウスル」
「あぁそうか。なあ、チャッピーはあのままあそこにいたらどうなる?」
「オマエガチリョウシタガ、マダウゴケナイ。カリモデキナイ。イズレシヌ」
「そうか。ならチャッピーも一緒だな」
そうと決まればさっそく行動しないと。まずはこの子の意思の確認だ。
「えっと、ミィちゃん……でいいのかな」
「ミリア……ミリア・メイスン……ひっく」
「ミリア、だからミィか。よし、ミィ。よく聞いてくれ」
「うん」
「ここは危ないんだ。だから安全な場所に行こうと思う」
「おじちゃん、行っちゃうの?」
「ああ、だから。ミィも一緒にくるか?」
「……うん」
「いいのか?俺は人間じゃなくてオークだぞ?」
「ひとりは……ひとりはやだよぉ」
そこまで言うとミィはまた泣き始めてしまった。
なんかもっと良い方法があるんじゃないのかとも思うけどここじゃなにも考え付かない。だったら悩む前に行動してしまえ。
それにこんな小さな女の子をほったらかしにすることは俺にはできない。
「よし、それじゃさっそく準備だ。デニス、手伝ってくれ」
「ワカッタ」
これから忙しくなるぞ。