3、コミュニケーションしてみよう
オークは喋れる。衝撃の事実だった。
いや、俺は喋れるから別に喋れてもおかしくはないのか?でも治療中のオークはフゴフゴしか言わないしなぁ。
「ナニ、シテル?」
「いや、なにって……」
治療中のオークをちらりと見る。
「怪我してるから手当してるんだけど」
「ナゼダ?」
「なぜって言われてもなぁ」
「ヨワイオーク、シヌ。オレモ、ヨワイ。ダカラ、オトナシクシテル。ソイツ、リーダーニサカラッタ。ダカラ、シヌ」
なんということでしょう。オークの集落は弱肉強食の世紀末であった。
だがなんとなくだが情報が手に入ったぞ。オークの群れの中じゃどうやらリーダー的存在が居てそいつに逆らうとえいってされてしまうらしい。なにそれ怖い。
それに一つ気になることを目の前のオークは言っていた。自分が弱いオークだと。確かに周りに居るオークや俺自身と比べてもこのオークの体格は小さい気がする。
オークにも個体差ってあるんだ。
「ソイツ、モウカリデキナイ。ホウッテオケバ、シヌ」
「マジでか。それは困るな」
何で困るのかは俺にもよくわからないがせっかく助けたのに死なれたら目覚めが悪いもんなあ。
「そっかあ。それじゃ俺が何とかしないとなあ」
「ナゼ?」
「俺がそうしたいからかな」
そう言いながら治療の続きを始める。まだ数か所血が流れている傷があるし一際大きく腫れている足も気になる。触ってみると傷だらけのオークは苦しそうに呻く。
これ折れてますね。どーしよ。
「……オレモ、テツダウ」
「お?マジで助かるよ」
何を考えてるのかわからないが喋るオークが俺を手伝ってくれるらしい。それならばと太くて頑丈な木の棒を取ってきてもらうようにお願いする。
「ワカッタ」
そう言うと喋るオークは森の中に入っていった。
腫れている足以外の傷の処置が終わったところで木の棒をいくつか持った喋るオークが帰ってきた。
その棒を受け取ると折れていると思われる足に添え木し残った最後の布を巻いていく。
「なあなあ。他のオークもお前みたいに喋れるの?」
「イヤ、オレイガイ、イナカッタ」
「リーダーも?」
「リーダーモ、コトバハハナサナイ。オマエガハジメテ」
治療も終えて尋ねてみたらそんな言葉が返ってきた。
体格以外にも知能レベルも差があるみたいだ。それがどうしたって話だが。
「さて、次は寝床か」
一息ついたところで怪我人も居ることだしついでに俺の分の布団も作りたい。固い地面にごろ寝はごめん被る。
「ドコヘイク?」
「落ち着いて寝れそうな場所を探しに、あーっと、そう言えば名前は?」
「ナマエナド、ナイ」
「そうなの?」
それは不便だ。まあ普通のオークは喋れないみたいだし名前は必要ないのかもしれない。
だからと言って名無しのままは今後色々と面倒臭そうだ。
「それじゃお前の事はこれからデニスって呼ぶぞ。いいな」
「デニス……オレハ、デニス」
深い意味はない。なんとなく頭に浮かんだ名前だ。
喋るオークデニスはその豚もどきの表情からはわかり辛いがなんとなく嬉しそうに俺が付けた名前を口の中で反芻している。
「ついでにお前はチャッピーだ」
「フゴ?」
傷だらけのオークもせっかくだから名前を付けてやろう。少し落ち着いたのか苦しそうな表情が多少和らいでいる気がする。
人につける名前じゃない気もするが人じゃないしまあいいんじゃね?怒られたら謝ろう。
「オマエハ、ナハ、ナイノカ?」
「ああ、俺の名前は……」
相良宗吾だ、と言おうとしてやめる。その名前の俺は死んだんだ。今の俺の名前じゃない。
じゃあどうするか。そして俺は思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「俺はザックスだ。よろしくな」