2、治療しよう
情け容赦のない現実に顔を背けつつオークに転生してしまった以上なんとかして生きていかねばならない。
さてどうしたものかと集落っぽいなにかを見渡しているとボロボロになって倒れているオークが一人、ん?一体?まぁ一人でいいや。傷だらけのオークが倒れているのが目に入ってきた。
たぶん、一番最初に見た殴り合っていたオークの片方だろう。しかし手酷くやられたもんだ。
「えーっと、大丈夫ですか?」
「フ、フゴ……」
よかった、生きてるっぽい。でも動けないみたいだ。ほっとくわけにもいかないだろうと肩を貸して立ち上がると比較的太い幹の木の根元まで運んで座らせる。
その時驚いたのが自分が人間の頃と比べてかなり力が強くなっているのか成人男性と比べても凄まじい巨体のオークを支えてもそこまできつくなかったことか。
元々病気のせいで動くこともままならなかった事を考えても比べるのも馬鹿らしくなるほどの筋力だ。
「どうすっかなこれ」
苦しそうに息をするオークを見ながら考える。魔物なんだから放っておいても大丈夫かもしれないなんて考えが頭をよぎるが治療ぐらいはした方がよさそうだ。
何かないかと改めて見回すと集落の片隅にゴミのようなものがうず高く積まれているのに気が付いた。
「これは……」
それは残骸と言ってもよかったかもしれない。血まみれの服に無数の骨。ボロボロの鎧と思われるものや剣。こんなものが無造作に捨てられているのを見て恐怖よりもおぉファンタジーな物体だ、なんて暢気なことを考えている俺も大概だなと思った。
そんな事よりもこの中から使えるものがないか探してみる。
これはヘルメット……、違う、兜か。べっこべこになってるけどとりあえず使えそうだ。他のオークが装備したりしないのかと思ったが何の事はない。人間のサイズだと頭のデカいオークには使えないから捨ててあるのか。
後は血塗れの中から使えそうな服を探す。中身はどこに行ってしまったのでしょうなんて事は考えない。考えないったら考えない。
そうして兜といくつの服を引き裂いた布を確保した俺はさっきの川まで来ていた。持ってきた布の中でも汚れの酷いものをじゃぶじゃぶと洗うときつく絞る。
うほっ、超絞れる楽しい。
調子に乗って力を入れすぎるとせっかくの布がさらにボロボロになりそうだったので自重しよう。
絞った布を木の枝に干し次は兜を洗う。指が太くてちとやり辛いが念入りに洗う。
じゃぶじゃぶじゃぶ。
綺麗になった兜を見てふと気づく。これ、このままだと使い辛くね?と。
ならばと兜の頭頂部を平たい岩に押し付ける。シンプルな半球状の兜だからこのままだとバランスが悪くて地面に置いたら倒れて中身が全部出てしまうじゃん。
力を入れすぎると裂いてしまいそうなのが怖い。モンスターのパワー怖い。
さて、ちと見てくれは悪いが無事に整形できたし準備は整った。兜に川の水を汲み時間が圧倒的に足りてなくて生乾き状態だが干しておいた布を回収する。
集落に戻ると木の根元には相変わらずオークが苦しそうに息をしていた。
「おーい、生きてる?」
「フゴ……」
俺が声をかけると力なくオークが返事をしてくる。こりゃいかん、早く手当してやらんと。
しかし周りのやつらは興味もないのかなんの反応も見せてない。薄情なのか魔物の習性なのかよくわからんが殺伐としてらっしゃる。
「ちょっと痛いかもだけど我慢しろよ」
「フググッ!」
水で濡らした布で腫れた部分を冷やし血が流れる傷口を同じく濡らした布で拭い綺麗にしてから川で洗ってそこそこ綺麗になった布をきつめに巻いていく。
応急措置にもほどがあるがやらないよりましだろう。
「オマエ、ナニ、シテル?」
「うぉ!?」
いきなり声を掛けられて肩がビクンっと面白いように跳ねてしまった。振りえると一人のオークがこちらを見ていた。
あれ?オークって喋れるのん?