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禍津神、降臨

 眷属が創れないのなら、新種族をまるごと懐に入れちゃえばええんやないの!という安直な考えだったせいか、辺りは静寂に包まれた。



 あれれ、おかしいな。私の予想だと「イエス、マム! 一生ついて行きます!」みたいなノリになるはずだったのに。もしや、お菓子が足りなかったのか!?でもどうしよう、今ので備蓄しているお菓子は最後だよ!



 「……カナデ様。それは我らダークエルフを奴隷にするということでござるか?」


 「奴隷!? そんな気分悪くなりそうなものは要らないよ。眷属だよ眷属!私の庇護下にある……部下に近い身内みたいな。私はあと半年で人族領の仕事は辞めることになっているし、何十年後かにはこの世界を譲り受けるはずだから、一緒に働いて欲しいな」


 「カナデ。ダークエルフたちの住む場所はどうするのですか?」


 「お兄ちゃん、お願い!」



 私は創造の才能がない。魔法で城を建てるのとはわけが違うため、浮遊島のような新たな領土を作ることができない。かといって、ダークエルフも安心して住める未開の地の心当たりもない。


 

 ここは、お兄ちゃんに頼むしかない!



 「……わかりました。次の神がそう言っているのです。私たち神獣もダークエルフに関与することが許されるでしょう。ダークエルフたちは一時、浮遊島で預かります。そこで外の世界で生きていく術を身に付けさせましょう。そこから先はカナデが考えてください」


 「ありがとう、お兄ちゃん!」


 「で・す・が、カナデ。ちゃんと面倒を見きれますか?」


 「見れるよ! だって、眷属は私の守るべき対象だもん。……そういうことなんだけど、ダークエルフのみんなはどうかな――って、全員号泣!?」



 いい歳こいた大人も、幼い子どもたちも全員泣いている。子どもたちの方はもらい泣きかもしれないが、大人たちは本気で泣いているだろう。


 

 どどどど、どうしよう!?



 アタフタしている私に、涙と鼻水を撒き散らしながらカトラが跪く。……というか、土下座に近い。



 「こんなにも……我らを思って手を差し伸べてくれた方はおりませぬ!」


 「あ……えーと、私の眷属になるってことでいいの?」


 「はぃぃいい! ダークエルフは、カナデ様――いいえ、主様(ぬしさま)に生涯お仕えすると誓うでござる。主様の覇道の礎として、どうぞ我らをお使いください!」


 「「「お使いください!」」」



 控えろ!と某世直し副将軍の部下のように命令された訳でもないのに、ダークエルフたちは私へ頭を垂れる。というか、地面にこすり付けている。



 「私は覇道なんて目指さないからね!? 勘違いしないでよね!? それとその体勢止めて。地面に顔をこすり付けるのは禁止!汚れちゃうでしょ!」


 「さすが主様。お優しい。これはダークエルフが最大級の感謝を伝える作法でござるが、主様がお気に召さぬのであれば、この慣習は現時点を持って廃止するでござる」


 「いちいち、重いな!」



 ダークエルフたちは立ち上がり、姿勢を正す。なんにしても、居心地の悪さからは解放された。



 「……おい、カナデ。なんかエルフたちが近づいてくる気配がするぞ」


 「え、本当? アイル、最初に気付いたのはあんたなんだから、なんとかしてきてよ。吹っ飛ばすとかいしてさ」


 「無理だ。オレのコントロールの下手さは知っているじゃねーか」



 妙に自信満々の困った弟に、私は思いきり顔を顰めた。



 「派手で威力の高い攻撃とかばかりじゃなく、力の加減とか練習しなよ。この脳筋駄竜。だからいつまでたってもメガな究極体に進化できずにアイルのままなんだよ」


 「意味がわからねーよ!?」


 

 無駄話をしている内に、エルフたちが私たちの元へ来た。総勢50人ほどだろうか。まだ日は落ちていないが、手には松明を持っている。



 「ん……ここは……な、何故、私がダークエルフ共の居住地に!?」



 なんという絶妙なタイミングだろうか。イルヤナが目を覚ました。その様子を見て、エルフ軍団の中から声が上がる。



 「許可なく里へ入るとは何事か!」


 「里長を返せ! 人質を取るなど、なんと卑劣なことか!」



 やっべ。許可なく里に入ったのも、人質とったのも事実だ。何か誤魔化さないと……。



 「こ、これは、礼状に基づいた家宅捜索だよ!?」



 この言い訳は苦しい……! というか、この世界に警察ないんだもん。家宅捜索の概念ないよね!? ちょっと考えればわかるじゃん、私。馬鹿、アホ、禍津神!



 「な、何を意味の分からないことを……」


 「ダークエルフの味方をするような連中だ。頭がおかしいのだろう」


 「わ、私は必死に抵抗したんだが、数に物を言わせて、この人族の娘に無理やり従わせられていたんだ!」



 目を離した隙にイルヤナがエルフ軍団の元へ逃げていた。まあ、元の場所に戻したことだし、これで私に対する落ち度が消えただろう。



 「あのさ、イルヤナ。私と話したこと忘れたの?」


 「ふん。お前が創造神の娘だということか? 嘘に決まっているだろう。神獣や妖精まで騙しおって。さすが卑しい人族だ」



 今や数はエルフ軍団が上。それ故にイルヤナは強気な態度だ。それでもこちらには、ティッタお姉ちゃんとお兄ちゃん、ついでにアイルがいる。エルフとは、そんなにも強い種族なのだろうか?



 「神獣の長タナカ様、妖精女王ティターニア様。その忌まわしき色を宿す人族とダークエルフ共をこちらに渡していただければ、此度の其方らが勝手に里へと侵入したことは不問にしましょう」


 「こういうのなんて言うんだっけ……あ、そうだ。お山の大将だよ!」


 「あら、カナデちゃん。それはどういう意味なのかしら?」


 「えっとね。小さい集団の中で一番に立って威張り散らしている……まあ、イルヤナみたいな可哀相なヤツのことだよ」


 「適格ですね、カナデ」


 「馬鹿にするのも大概にしろぉぉおおお!」



 お兄ちゃんとティッタお姉ちゃんとにこやかに話していると、イルヤナが突然、地団駄を踏み始めた。カルシウム足りてない?



 「もう我慢ならん! 今まで慈悲をかけて生かしておいてやったが、ダークエルフの害獣共を駆除しろ! やはり我らエルフの害悪だ!」


 「そうだ、殺せ! やつらのせいで、俺の娘は……」


 「黒腐病の元凶だ。あの娘は更に黒を宿している! エルフに災いをもたらすために来たに違いない!」



 集団心理というやつだろうか。イルヤナの声に続いて、エルフたちが罵る。松明を持った手を掲げ、武器を持った者たちは徐々にこちらへ進んできた。


 ダークエルフの女と子供は寄り添うように固まり、それらを守護するように男たちが立ちはだかる。しかしダークエルフは、ほぼ丸腰に近い。武器を持っていたとしても、棍棒ぐらいだ。



 「おいおい……こりゃ、ヤルしかねーな」


 「そうねぇ」



 殺気を出し始めたアイルとティッタお姉ちゃんを私は手で制した。これは私とダークエルフの問題だ。二人に手を出してもらっては困る。


 お兄ちゃんの方を見ると、私にすべてを任せ静観を決め込むようだった。



 「主様、危ない!」



 カトラが庇うように私の前に出る。目の前には風魔法を帯びた十は超えるであろう矢の数。刺さったら確実に死ぬだろうに、カトラは迷いもしなかった。



 「カトラ。自己犠牲はなるべく止めて。死ぬ直前に後悔しても遅いからね?」



 私は万能結界を張り、すべての矢を弾く。



 「本当に、主様は……」



 目を見開き、カトラが呟く。私は首からオリフィエルから貰った制御ペンダントを外した。



 「ちょろっと、エルフを懲らしめてくるからね。これを持って、大人しく待っていて?」



 カトラに制御ペンダントを渡し、エルフたちの前へ私は立った。



 「怯むな! 前衛は近距離攻撃を。後衛は魔法と矢を絶え間なく続けろ!」



 武器を振りかざす男たちや、平均的な人族の魔法使いよりも強力な攻撃魔法を放つ者。手練れであろう歴戦の弓使いたち。声を張り上げ、見方を鼓舞する指揮官。



 ――私は、その全てを容赦なく薙ぎ払う。



 私は手を振りかざしただけだ。

 しかしそれだけで瞬間的に竜巻が起こる。武器はへし折れ、死んでこそいないが、多くの者が怪我を負っていた。エルフ軍団はもう戦える状態ではない。



 「ねえ。私と可愛い眷属たちを殺そうとしたよね。それって……自分たちが死ぬ覚悟があってやったことなんでしょう?」



 自分でも驚くぐらいに冷たい声が辺りに響く。

 今の私は制御も外れたため、禍津神の身体から力が溢れだしているだろう。エルフの中には恐怖の表情を見せている者も多い。



 ……でも、私は怒っているんだよ。だから、この程度で済むなんて思わないでね。



 ぶわりと力が解放される。それは黒い霧のようで、辺りに充満する。おそらく、瘴気と呼ばれるものだろう。



 「……くっ、ああああ……」


 「これは、黒腐病と同じ痛み……」



 エルフたちはのた打ち回る。それに反して、ダークエルフたちは誰一人苦しむ者はいない。



 ……やっぱり、エルフは穢れに弱いんだね。



 「ふふっ。驚いた? 黒腐病はね……私がエルフへ与えたものなの」



 笑う私に、エルフたちは驚愕と憎悪、そして深い恐怖の表情を見せた。



 ……まあ、嘘なんだけどね! でもここで恐怖を煽っておくのは効果的だと思うんだよね。これからのことも考えてさ。




 「ば、化物がぁぁああ!」



 充満する瘴気に耐え、1人のエルフが叫びを上げる。しかし私は、きょとんとした後、心底嬉しそうな顔を向ける。



 「ありがとう。異世界を崩壊寸前まで壊しまくった私を、化物だなんて可愛い呼び名で呼んでくれて」


 「な……あ、あああ……」


 「私が傷つくとでも思った? 残念でしたぁ。破壊と呪いを司る私は、厄災の象徴である禍津神だよ。褒め言葉にしかならないよね」


 「ま、がつ、かみ……」


 「そそ。禍津神」



 エルフたちに私という存在を周知させるように、禍津神の言葉を強調する。恐怖の許容量を超えたのか、エルフの中には気絶や失禁をした者がちらほらといる。


 だが私は止まらない。エルフを追い詰めていく。



 「そうそう。エルフは自分たちがよほど特別だと思っているようだけど、それは勘違いだから。だって、貴方たちは人族や魔族、それに巨人族には勝てないから」



 私は御高説を唱えるように、機嫌よく言葉を紡ぐ。



 「数の暴力って知っている? 多少、個々の戦闘力が強くとも、休息なしに攻められたんじゃエルフも苦しいよね。それに魔族って強い人多いし、個人戦でも厳しいかな。でもね、エルフが彼らに勝てない最大の理由は……貴方たちがエルフ(・・・)だからだよ」



 きっとエルフたちには訳が分からないことだろう。しかし、それこそがエルフの怠慢。現実から目を逸らし続けてきた結果。



 ……1000年以上の猶予だあったんだもん。今更、エルフを助ける義理はないよ。どうせエルフを追い詰めたのは、エルフ自身だということに一生気づかないよね。私はダークエルフたちが可愛いし。



 「私はエルフにとっての禍津神。そしてダークエルフは、私の愛すべき眷属。……もしも、これから生まれる私の愛し子に手を出して見ろ。エルフ全員の毛根を死滅させたうえで、種族滅亡の呪いをかけてやるからね」



 禍津神オーラ2割増しで睨みつけたおかげか、エルフたちは残らず意識を失った。それらを転移魔法でエルフの居留地に飛ばし、私は振り返る。



 「これにて、一件落着!」


 「主様……素敵でござった!」


 「「「主様!」」」



 その体質故に私の力を受けても何も感じないダークエルフは、非常に喜んでいた。



 「 カ ナ デ 」


 「おにおにおにお兄ちゃん。……どうしたの?そんなに怖い顔して」



 私は目を泳がせながら、一歩また一歩と後ずさる。そんな私を見ながら、お兄ちゃんは微笑みながら先程までエルフたちがいた方向を指差す。



 「カナデ。片付けが終わっていませんよ?」


 「あっ、瘴気のこと忘れてた! でも私、浄化なんてできないよ!? 呪うの専門だし!」


 「威張って言うことではありません! そこに座りなさい!」


 「い、イエッサー!」



 私はすぐさまその場に正座した。お兄ちゃんは深く溜息を吐いたかと思うと、手を振り上げて力を解放した。あたりが白銀に光り輝く。おそらく、オリフィエルの肉体の一部から生まれたお兄ちゃんにしか出来ない浄化の力。私が生み出した瘴気は、瞬く間にお兄ちゃんの光で浄化されていく。



 ……綺麗。



 思わず見惚れていると、お兄ちゃんが般若の面相で私を真っ直ぐに見る。ゾワリと恐怖で鳥肌が立った。



 「んじゃ、カナデ。オレたちは、あっちで酒盛りしてっから」


 「ほらほら、ダークエルフちゃんたちも行くわよ~」


 「あっ、しかし……主様が――」



 ダークエルフたちはアイルとティッタお姉ちゃんによって連行されて行った。残されたのは、確実にお説教モードに入っているであろう、お兄ちゃん。そして逃げられない私。



 う、裏切り者ぉぉぉおおおお!



 「カナデ。何をよそ見をしているのですか」


 「し、してませぇん! お兄ちゃんしか見てませぇん!」


 「そうですか。では、お説教です。カナデ。後先を考えないのは貴女の悪い癖です。昔からカナデは――」



 お願いだから、早く解放してぇぇえええ!





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