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エルフとダークエルフの現状

 カトラに案内されて、エルフとダークエルフが住む里へと向かう。一応、交通証代わりになりそうなエルフの里長イルヤナも連れて来ている。気絶したままアイルに俵担ぎされているけど。



 「いやー、アイルが珍しく便利だね」


 「……おいこら」


 「おおっと、心の声が漏れてた」


 「カナデの中のオレの扱いって……」


 「感謝してるよ。アイルってば力持ち!凄いねぇ!」


 「フフッ、そうだろう。力仕事においてオレの右に出るものはいねぇ!」



 ……アイル、マジでチョロ竜すぎだろ。大丈夫かな。将来、悪い雌竜に騙されたりしない? お姉ちゃん、すごい心配だよ。



 「カナデ様。あれが里の関所でござる」


 「うぉおお! 木の杭で覆われているとか、昔ながらの城柵って感じ。さすがエルフの住む里」



 ちょっと興奮気味で城柵を見る。同じく興奮しそうなアイルは、意外にも酷くつまらなそうな顔をしていた。



 「あんなん、カナデの魔法で一発粉微塵だろ」


 「そうだけど! お前には情緒がないのかぁぁあああ!」


 「……い、一発で粉微塵なのは事実なのでござるね」



 あれれ、おかしい。カトラちゃんにドン引きされた。解せぬ。



 「カナデ、アイル。遊んでいないでさっさと入りますよ」



 お兄ちゃんに従い、私たちは関所へと近づく。そこには門番らしきエルフが二人、武装して立っていた。最初はお兄ちゃんとティッタお姉ちゃんを見ていたようで特に問題はなかったが、私を見た瞬間、あからさまな嫌悪と警戒を見せた。



 まあ私の髪は、褐色肌とは比べ物にならない純粋な黒だからね。



 「止まって頂こう。これより先はエルフの隠れ里。身分の保証されぬものは通せぬ。それがたとえ神獣の長と妖精女王の連れだとしてもだ」


 「こ、この方は……」


 「黙れ。エルフの成り損ないが。お前の言葉など、聞くに値しない」



 門番のカトラへの仕打ちから見て、普段のダークエルフの扱いが垣間見えた。



 ……なんか、すんごいムカつく。でもこっちには通行証があるもんね。



 「アイル!」


 「おうよ!」



 私の意図を察したアイルが、イルヤナをぶん投げた。イルヤナは空中で3回転すると、テディベアのようなポーズでボスンッと着地する。もちろん、気を失ったままで。



 「このもんど――じゃなくて、里長が目に入らぬかぁぁああああ!」


 「目に入らねェーか!」


 「「里長ー!?」」



 うんうん。良い反応だ。一度やってみたかったんだよね。ただそれだけ!



 さすがにこれで中に入れるなんて思っていない。私はイルヤナの背後に回り、裏声を使って喋りはじめる。



 「ボク、イルヤナ。コノヒトタチヲ、サトニイレテアゲテ。サトチョーメイレイダヨ!」


 「「貴様……」」


 「あらあら。カナデちゃん上手ね。雰囲気をもっと出すために……着せ替え魔法いっちゃう?」


 「頭にきているからといって、悪ふざけをするのは止めなさい、カナデ。それとティッタ。その魔法は目の毒だから使用禁止だと言ったはずです」


 「「ぶぅー」」



 私とティッタお姉ちゃんの抗議も溜息1つで流され、お兄ちゃんは門番たちの元へ近づく。そして魔力を練り始めていた門番たちの腹に一発ずつ拳を叩きこんだ。門番たちは呆気なくその場に崩れ落ちる。



 「ナッサンだって怒っているじゃねーか」


 「当たり前です。妹を侮辱されて黙っている兄がいると思っているのですか? 謂れのない言葉で傷つけられると思ったからこそ、カナデを隠れ里の存在は伏せていたのです。それなのに……あの、クソ野郎は……」



 一番怒っているの、お兄ちゃんじゃん。


 

 「……細かいことはいいか。よぉしっ、里に入るよー。カトラ、案内よろしくぅ!」


 「しょ、承知!」



 私たち兄弟とカトラ、そして気絶したイルヤナは里に入る。



 オネエ竜? アイツは邪魔だし、お兄ちゃんに迷惑かけるから、会合場所の近くにあった手ごろな木に強力な魔法で縛り付けておいたよ。監視は精霊王にお願いした。報酬はお菓子だよ!



 「ここまで敵意を向けられると、いっそ清々しいね」



 隠れるように様子を窺いながら、エルフたちは私とカトラに殺気を向けていた。もしかすると、ダークエルフは差別なんて次元ではない苦しみを与えられているのかもしれない。なんせ、ここは隔絶された場所だ。自分たちの常識でしか物事をはかれないから、行き過ぎた行為が行われていても不思議じゃない。



 ……悪い予感、というか事実に近そうだよねぇ。



 里に建てられている家々は、藁ぶき屋根に土の壁で作られている。どう見繕っても人族領や魔族領より下の文化水準だ。それにエルフたちの顔を見るとあまり生活に余裕がないのか、頬がこけていたり、あからさまに顔色が悪い。



 こりゃ、心も身体も余裕がなさそうだ。原因は大体分かるけど。黒腐病が流行っているんだろうね。見れば分かるよ。



 カトラは薬はあるけど完全に黒腐病を克服した訳ではないと言っていた。薬は、特効薬と言えるほどの水準ではないのだ。



 ……今の時点でこれじゃ、先が思いやられるね。それにやっぱり理解していないみたい。黒腐病の原因にさ。お兄ちゃんやティッタお姉ちゃんが伝えなかったとは思えないし、自業自得だね。



 「不快な思いをさせて申し訳ありませぬ。カナデ様」


 「いいのいいの。カトラは何も悪くないから」


 「かたじけのうござる。……ここがダークエルフたちの居住区でござる」



 漸く辿りついたそこは、決して綺麗な場所とは言えなかった。家は、組み合わせた木の棒にボロ布をかけたもので、エルフよりも酷い。しかし、そこに住まうダークエルフたちは血色がよく、痩せてはいるが病気が蔓延しているようには見えなかった。



 「カトラねえちゃん、おかえり!」


 「カトラ!」



 あっと言う間にカトラはダークエルフたちに囲まれた。ずいぶんと慕われているようだ。



 「あわあわ……。皆、挨拶をするのでござるぅ!」



 慌てるカトラの言葉を受けて、ダークエルフたちがガバッと一斉にこちらを振り返る。



 「黒髪だ」


 「耳が尖って無い。もしかして、あれが人族?」


 「ティッタ様の他は、見慣れないね」



 興味津々といった感じで、私に対しての敵意はないようだ。トテトテと幼いダークエルフの子が私へ近づいてきた。



 「こんにちは!」


 「こんにちは。私の名前はカナデだよ」



 握手をするために手を出すと、恐る恐るといった感じでダークエルフの子どもは私の手を握った。



 「よーし。君たちに幸せを分けてあげよう!」



 パチンッと指を鳴らして、私は亜空間からお菓子を取り出した。キャンディー、チョコレート、クッキーと定番ばかりだが、ダークエルフたちは皆、不思議な顔をしつつもそれらを受け取った。


 お手本を見せるためにチョコレートを一粒食べて美味しさの余韻に浸っていると、ダークエルフたちも次々とお菓子を食べ始めた。



 ……ぐふふ。未開の地にもお菓子の素晴らしさを広めるのだ! 気分は宣教師だよ!



 「こんなにおいしいの、はじめて!」


 「そうなの? あっ、そう言えばエルフって菜食主義なんだっけ。お菓子食べていいの?バターとか使われているけど」



 ファンタジー娯楽作品だと、エルフって肉は臭くてヤダ!って感じの設定多いよね?



 「平気でござる。ダークエルフは雑食ゆえ」


 「へぇ。逞しいね」


 「畑はエルフの持ち物でござる。ダークエルフは魔物などを狩って食べるしか、生きていく方法がなかったのでござるよ」


 「うふぉ……ヘビィなお話で……」



 カトラから視線を逸らしつつ、私は他のダークエルフたちに視線を向けた。子どもたちはお菓子に夢中だが、大人たちは違う。私へ探るような目を向けていた。



 「カトラから聞いたんだけど、ダークエルフはこの里を出たいんだよね」


 「その通りだ」



 見た目は青年にしか見えないが、おそらく年長者なのだろう。ダークエルフの男が一歩前に踏み出した。皆、男を信頼しているのが伝わってくる。



 「ダークエルフは結束が固いんだね」


 「ダークエルフは全員が家族だ」


 「ふーん。でも、これから生まれてくる家族も捨てて里を出るんでしょう?」


 「なっ」


 「だって、これからもエルフからはダークエルフが生まれてくる。貴方たちが里を出たとして、生まれてきたその子たちはどうするの。守ってくれる人も、同じ痛みを共有してくれる同胞もいない。生まれた瞬間に殺されることだって考えられるよね」



 意地悪な質問だよね。でも必要なことだ。ダークエルフという種族を見極める上でね。



 「先代。カナデ様の言う通りでござる。我らは、エルフの両親から生まれてすぐに捨てられた者も多い。拙者もそうでござる。何度も辛い思いをして、惨めでもなんでも生きてこられたのは家族がいたからでござる。我らが離れれば、たくさんの家族に会えなくなるでござる。それは我らの求める幸せではござらん」


 「……カトラ。……カナデとやら、里を出る話は聞かなかったことにしてほしい」



 拳を握り、歯を食いしばりながらダークエルフの男は言った。他のダークエルフも男の決断に従うようで、反論意見は出なかった。


 粗末な環境。日常的に振るわれているであろう暴力。尊厳を奪うようなこともされているだろう。頑張って頑張って頑張って……それでもダメだった。だから小さな夢を見て、逃げることを選択しようとした。けれどそれだって、家族のためであるならば諦める。未来が明るくないことも分かっているだろうに。



 ……私はダークエルフが好きだなぁ。お菓子も好きみたいだし。ということで。




 「その心意気に惚れた! だからさ、ダークエルフのみんな……まるごと私の眷属になってよ!」



 ポカンと口を開けて唖然とするダークエルフたちに、私はニッコリと笑いかけた。





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