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種族会合 後編

 「げほっ……こ、の私が、忌まわしい色を持った者に、ほど、こしをう、げぇぇえええ」


 「ほらほら。無理して話さなくていいから」



 地べたに這いつくばるボロボロ濡れ鼠と化したイルヤナに治癒魔法をかける。イルヤナが嘔吐して辺りに嫌な臭いが充満したので、ついでに洗浄魔法もかけておいた。



 「カナデ。このような愚か者に慈悲などいりません」


 「タナカの言う通りよ。ちょっと反省が足りなかったようね。二回戦いっとく?」


 「ひぃっ」



 神獣の長と妖精女王に凄まれたイルヤナは、恐怖でガタガタを震えながら頭を押さえて縮こまる。やっぱりエルフの里長といえど、この世界で最強クラスにヤバイ戦闘力を持つ二人は怖いみたいだ。



 斯く言う私も怖い。二人にはお怒られたくないもん。



 「死にたくないならそれ以上言うのは止めなよ。あんまり言い過ぎると、お兄ちゃんとティッタお姉ちゃんの他にラスボスが喜んで出てくるから」


 「らすぼす……?」



 私なりのアドバイスをしたらイルヤナが首を傾げた。ラスボスは日本語なので通じなかったようだ。なので、私は分かりやすく説明することにした。



 「簡単に言うとね。オリフィエル……創造主が出てくるから」


 「な、創造主様!? 人族のくせに創造主様を呼び捨てにするなど……」


 「別にいいじゃん。私はオリフィエルの娘なんだし」


 「娘!?」


 「そうそう。それにオリフィエルも人型だし、私と同じ黒髪だし。あんまり下手なこと言うと殺されると思うよ。オリフィエルは私と偶然お揃いになっただけの黒髪をすごく喜んでいたから。ぶっちゃけ、娘ラブだよ、アイツ。しかも、傍迷惑な方向にね」



 そこまで言うとイルヤナは気絶した。そんなに酷いこと言っていないと思うんだけど。もっとガッツ見せろよ。



 「さ、里長殿!?」


 「ねえ。忌まわしい色って言ったとき、イルヤナが貴女を憎しみの籠った瞳で見ていた気がするんだけど。気のせいじゃないよね?」



 イルヤナに駆け寄って来たダークエルフの娘に私は問いかける。終始、イルヤナは私と彼女を敵視していた。今回の種族会合の目玉議題がダークエルフについてならば、私が協力して早く解決しなければならない。



 休暇は1週間だからね。それ以上種族会合で休みを延長したら、破滅が待っているよ。マジで王太子と宰相補佐様が怖い!



 「あっ。そう言えば、自己紹介していなかったよね。私はカナデ。貴女は?」


 「……カトラと申す」


 「カトラね。で、私の質問に答えてくれる?」



 言いにくそうにしているカトラだが、私は答えを求めた。種族会合の議題にまでなっているのだ。結構深刻な問題になっているに違いない。煩そうなイルヤナが寝ている内に話を聞いておきたいのだ。



 「……1500年前。エルフ族にある病が蔓延したでござる。皮膚や髪が黒く染まりやがて生きながら腐り落ちる病で、黒腐病と名付けられたそれは瞬く間に里を蝕みエルフの1/3が亡くなり申した。しかし、薬の開発により死者の数はかなり減ったのでござる。黒腐病を完全に克服した訳ではあり申さぬが、漸くエルフは安心したのでござる。だがそれもつかの間。エルフ族に褐色肌の子が時より産まれるようになったのでござる」


 「褐色肌、ね」


 「生物は進化します。たとえ元が創造主の作った種族だとしても、子を産む種族であるエルフも例外ではありません。ダークエルフはおそらく黒腐病の抗体が出来たエルフなのでしょう。そう、私もエルフに告げたのですが……」



 カトラはお兄ちゃんの言葉に頷いた。



 「タナカ様の言う通りでござる。しかし、エルフは排他的な種族。黒腐病の存在を思い出させる我らを差別するようになったと伝え聞いているでござる。黒腐病は我らのせいだと……。次第に自分らと分けるように、ダークエルフと我らを呼ぶようになり申した。そして我らを虐げる最大の理由が、片親がダークエルフだった場合、子は必ずダークエルフとして産まれることでござる」


 「うわぁ……。つまり、種としてはエルフよりもダークエルフの方が強くなっちゃったわけか」


 「左様。いつかダークエルフによってエルフは駆逐されると、エルフたちは我らに対する敵意を隠しませぬ。同じく里に住む妖精族は良くしてくれるのですが、我らとは生活形態が違うため、やはり身近に接するのはエルフなのでござる。里の隅に追いやられ、ダークエルフはずっと虐げられているのでござる」


 「世界の管理者と言っても、神獣は種族間の争いに関与できません。ですから、ティッタたち妖精族にダークエルフを気にかけるようにとしかお願いすることができませんでした」



 これは中々深刻な問題のようだ。エルフからすれば、ダークエルフは潜在的恐怖対象。だからと言ってダークエルフを差別するのはよろしくない。それならば仲良くすればいい。しかしそうすれば、いずれエルフという種は死に絶える。……考えただけで頭が痛くなる。



 「エルフはさ、自分たちに誇りを持っているんだよね?」


 「そうよ。世界樹の世話をする役目を任されている自分たちは、一番創造主から寵愛を受けているとかなんとかって。エルフは保守的で妖精族みたいに里の外に出ようだなんて考えないの。だから世間知らずの真面目ちゃんが多いのよ」


 

 困ったちゃんねと溜息を吐くティッタお姉ちゃん。色々パネェ。



 「カトラはさ、ここに居るってことはダークエルフの代表ってことでいいんだよね」


 「左様でござる。拙者はダークエルフ一の戦士ゆえ!」


 「めっちゃ元気だな……。カトラ、ダークエルフの望みを聞かせてよ」



 エルフと友好的な関係を築きたいのか、復讐したいのか、それともまた別の望みがあるのか。聞いてみないとわからない。下手に手を出して、余計なお世話とか言われたくないし。それにエルフ側と問題を起こされても困る。



 ……今はまだ、エルフ族の役目は世界に必要だしね。



 「ダークエルフは……この里を出て暮らしたいのでござる。慎ましやかでもいい。奪われることも虐げられることもなく、平穏に暮らしたい。外の世界を見てみたいのでござる。我が儘で贅沢な夢でござるが……」


 「……我が儘でも贅沢なんかでもないよ、カトラ。幸せになりたいというのは、生物なら誰もが持っている当然の欲求だもん」



 ダークエルフはそんな小さな幸せすら許されることなく生きてきたのかと思うと、胸の奥が酷く痛んだ。







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