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種族会合 中編

 うわぁ……初対面でこれはないわ。



 残念エルフを半目で見ていると、ティッタお姉ちゃんがニコニコと笑いながら黒オーラという名の殺気を放っている。



 「わたくしの可愛い妹になんて口を利いているのかしら? それとわたくしのことはティターニアじゃなくて、ティッタと呼ぶようにといつも言っているでしょう、イルヤナ坊や?」


 「うぎゃぁぁあああ!」



 残念エルフ――もとい、イルヤナはティッタお姉ちゃんが作り出した闇魔法の鎖で宙づりになった。イルヤナは魔法を使おうとしているようだが、ティッタお姉ちゃんのほうが上手だ。詠唱が出来ないように、口も鎖で覆われている。

 

 最近知ったのだが、無詠唱というのは修行すれば誰もが必ずしも出来るものではない。端的に言えば才能――イメージ力や魔力の扱いが上手くないと何年経ってもできないのだ。私のような例外を除いて。いかにも柔軟な発想ができなさそうなイルヤナには荷が重かろう。



 「イルヤナ坊やはいくつになってもダメダメね。エルフ族は自分たちが優れているとかつまらないことを考え過ぎだと思うわ。……なんにせよ。お仕置きが必要よね。アイル、あなたも手伝いなさい」


 「なんでオレが……」


 「爆発させるわよ?」


 「姉貴のためなら喜んで!」



 ティッタお姉ちゃんが亜空間から、ギリギリ黒く長いロープに見えないこともない鞭を取り出した。



 あれ、御爺ちゃんが珍しい素材を手に入れたとかで作った魔物調教用の鞭じゃん! なんでティッタお姉ちゃんが持っているの? なんでよりにもよってティッタお姉ちゃんに渡したの、御爺ちゃん!



 「えいえい~!」


 「ふごぉっ、ぐがぁっ」



 可愛い掛け声とは真逆に、一撃一撃が強烈な威力の鞭で叩かれるイルヤナ。アイルはそれを補助するようにイルヤナに軽い水魔法をぶっかけて水責めをしている。周りを見渡せば、あのオネエ竜でさえ唖然としていた。唯一の救いは、イルヤナに特殊な趣味が無さそうなところだろうか。まあ、イルヤナにとってそれが本当によいことなのかはわからないが。



 「美少女とワイルド系イケメンに鞭打たれる美青年エルフ……こういう時って、年頃の乙女としてどう反応するのが正解なの? 喜ぶべき?ドン引きすべき? 教えて、オネエ竜!」


 「なんでアタシに話を振ったの、小娘!」


 「自称中立な存在だから?」


 「ふざけるんじゃないわよ。アタシの心は女! それと、アタシの名前はメンデルよ!」



 オネエ竜はふんがふんがと怒っているが、大した問題ではないだろう。目下の問題は、笑顔で鞭を振り続けるティッタお姉ちゃんだ。どう見繕っても狂気の沙汰である。



 ……まあ、おかげでイルヤナへの怒りとか湧き上がる前に消えたけど。それがティッタお姉ちゃんの目的だったのかな?



 「それにしても、ティッタお姉ちゃんの本名ってティターニアだったんだね。知らなかった」


 「ティターニアは妖精族の女王種に名付けられる名です。だから、カナデはティッタと呼んであげなさい。愛する者には……そう呼ばれることをティッタは望んでいるでしょうから」



 うおおい。ティッタお姉ちゃんが妖精族の女王とか、さらっと重大発言!? というか、ティッタお姉ちゃんが妖精女王なら……アイルも特別な竜――たぶん魔素竜なんだよね? 私、こんなとんでも兄弟がいるのに自分のことを普通だと思っていたのか。馬鹿だろ、私、馬鹿すぎだろう!


 

 私にとってはティッタお姉ちゃんはティッタお姉ちゃんのままだ。妖精女王とか関係ない。それ以外に変わりようがない。だが黒歴史を新たに自覚したことに私は少しばかり落ち込んでいた。しかしそれが表に出ないように平静を装う。



 「わかったよ、お兄ちゃん」




 頃合を見計らって現れたお兄ちゃんに、私は擦り寄る。今日も絹のような白銀の髪と、凛々しい金色の瞳が美しすぎる紳士だ。今は人化しているけれど、お兄ちゃんはユニコーン姿も美しすぎる罪な神獣なのである。


 仲睦まじい兄妹の触れあいをしていると、一瞬オネエ竜が私へ嫉妬の感情を向けた。しかしそれはすぐに収まり、軽く髪を整えた後、こちらへ猛烈な勢いで突進してきた。



 「た、タナカ様……アタシを抱い――へぶしっ!」



 お兄ちゃんから5メートルほど先で、オネエ竜は見えない壁にぶち当たった。十中八九、私が以前に施したオネエ竜への呪いが原因だ。オネエ竜は顔面を両手で押さえつける。そして暫くすると、鼻血を吹出した顔を覗かせた。



 「こ、小娘ぇ……アタシにかけた呪いを、どうにかしなさいよ……」


 「え?嫌だよ。なんか役に立っているみたいだし」


 「種族会合のときは、いつもこの変態竜に付き纏われて困っていたのです。カナデ、よくやってくれました」


 「えへへ。褒められた」


 「タナカ様に褒められるなんて……妬ましい!」



 ……逞しいな、オネエ竜。



 お兄ちゃんはゴキブリよりもしぶとそうなオネエ竜を放置して、私に真剣な顔で問いかけてきた。



 「カナデ、どうしてここに?」



 私の頭を撫でているのは、イルヤナの『呪われた忌まわしい色を持つ者』発言に私が傷ついたのか心配しているからだと思う。でもそんな心配はいらない。元々、化物とか黒魔女とか暴言には慣れている。というか、気にするだけ無駄だ。だって私は禍津神だし。化物なんて目じゃないくらいに、やっばい存在だし。



 「オリフィエルが急に種族会合に出席しろって仕事を押し付けて来たんだよ。これ、菓子折りね。みんなで食べよう? それと巨人島名産のお酒も持って来たよ」


 「なぬ! それは本当じゃろうか!」



 私とお兄ちゃんの間に突然乱入者が現れた。ふわっふわの真っ白い髭に長髪のイケてるお爺さんである。だが着ている赤い服も合わさって、その姿はどう見ても……



 「さ、サンタクロース!?」


 「ふむ。悪くないな。吾輩は今日からサンタ・クロースと名乗ろう」


 「何を馬鹿なことを言っているのですか、精霊王」


 「精霊王!?」



 このイケ爺って精霊王なの!? あの毛玉たちの親玉!?



 「そうは言ってもな、タナカよ。お前さんの妹であるこちらの御嬢さんは……神であろう?」


 「やはり……カナデは神でしたか」



 やはりって何!? 隠していたのにバラされた!



 私を置いてきぼりにして、お兄ちゃんと精霊王は話を続ける。



 「上手に隠しているようだがな。吾輩には筒抜けだのう。神な御嬢さんに名付けてもらえれば、吾輩の力も増すじゃろうて。結局、創造主は吾輩に名を下さらなかったからのう」


 「……あの、精霊王さんってオリフィエルの知り合いですか?」


 「サンタでよろしい。吾輩はこの世界と同時に誕生しておるから、この世界で一番長生きしているのう。だから、今は大人しくなったターニリアスとティターニアが生まれた頃から知っておる」


 「精霊王!」



 お兄ちゃんが声を張り上げる。どうやら、ターニリアスがお兄ちゃんの本当の名のようだ。たぶん、オリフィエルがつけたのだろう。



 「まだ真名で呼ばれるのが嫌いなのかのう? 青いな」


 「私を若者扱いするのは貴方だけですよ、精霊王」



 溜息を吐くお兄ちゃん。どうやら精霊王には頭が上がらないみたいだ。私は軽く精霊王と自己紹介をして、オリフィエルが100回ほど種族会合をサボったことに対する謝罪としてお菓子を渡した。すると、たいそう喜ばれた。



 「小精霊たちが、カナデ様のくださるお菓子が美味しいと自慢してきてのう。吾輩はあまり世界樹から動けぬ。だから羨ましかったのだよ。お菓子じゃお菓子じゃ!」



 精霊王陥落! 順調に精霊族へお菓子の布教が進んでいるみたいだね。ぐふふ。



 「世界樹ってなんですか?」


 「カナデにちゃんと教えていなかったのですか、あの燃えないゴミは」



 苦虫を潰したような顔のお兄ちゃんに精霊王は苦笑しつつも、私に説明をしてくれた。



 「世界樹はこの世界の中心。すべての魔素の地脈の集積地にそびえ立つ大木じゃ。この世界を支え構築している。常駐していない創造主の変わりに世界を動かし続けている機械のようなものじゃ。そして、生命を育む実を付ける」


 「ふむふむ。世界樹はシステムサーバーみたいなものかな。それで、生命って?」


 「世界樹を守護する役目を与えられた妖精族が生まれるのじゃ」


 「マジか! 妖精族って世界樹から生まれるんだ」


 「人のように雌雄が交わり子を為す種族ばかりではないぞ。特に種族会合に呼ばれる種族はな」



 確かに見渡せば、人化はしているけれど人族ではない者しかいない。いったいどういうことなのだろうか? うーんと唸っている私を見かねて、お兄ちゃんが答えてくれた。



 「種族会議に呼ばれるのは、魔素竜と精霊族、妖精族、神獣族、エルフ族の長です。これらの種族は元々、創造主によって生み出された種族で、それぞれに役目を負っています。魔素竜は魔素の循環、精霊族は魔素の生成、妖精族は世界樹の守護、神獣族は世界の管理、エルフ族は世界樹の世話といった感じですね」


 「人族とかは?」


 「人族、魔族、巨人族は、自然発生した種族です。それ以外も昔は居ましたが、滅びましたね。人族は発展して滅びかけてを繰り返していますが」


 「そうなんだ」



 人族はやっぱり逞しいんだね。でもそうか。こういう仕組みなら、この世(・・・)界の・・・にも納得だ。そもそも管轄外なんだもん。



 「でもさ、それなら種族会議って何をやるの?」


 「定期連絡会のようなものです。我々の役目は変わらないですからね。まあ、大きな問題が起こればそれを話し合ったり、創造主へ報告したりします。……肝心の創造主は糞の役にも立ちませんが。おかげで種族会合の出席率が悪いですね。特に魔素竜が」


 「言い過ぎ……じゃないんだよね。非常に残念なことに」



 お兄ちゃんと一緒に遠い目をしてると、褐色肌の女の子が恐る恐ると言った感じで話しかけてきた。耳が尖っているところから、この子もエルフなんだと思う。



 「も、申し訳ないのでござる……」


 「まさかのござるっ子!? いや、それよりも……どうして謝罪?」



 興奮を押さえつつ、褐色肌のござる系エルフっ子に問いかける。しかし、彼女は縮こまるだけ。それを見かねた精霊王が私へ説明してくれた。



 「こやつはここ1500年ほどにエルフ族から派生した新種の種族でな。ダークエルフ族という。今回も種族会議で話し合うことはないと思っていたのじゃがな。このダークエルフ族の処遇について話し合おうと思っていたのじゃ」


 「かたじけのうござる! 我らが不甲斐ないばかりに……」



 エルフから派生した……? そして謝ってばかりのダークエルフ娘さん。なんだか厄介事の気配だね。



 悶々と考えていると、オネエ竜が真顔で私へ言葉をかける。



 「小娘。殺戮妖精のことを野放しにしたままだけど……いいの?」


 「あ、忘れてた」



 振り返ると、ティッタお姉ちゃんとアイルの共同作業はリンチと化していた。

 


 イルヤナ……お前のことは忘れない! 南無!


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