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女魔法使いと空の国

 沈黙。



 

 私の第五王子に向けた発言で、一瞬にして場が凍った。お兄ちゃんなんて、口をヒクヒクさせている。この反応を見ると、私も自分が何かいけないことをしてしまったんじゃないかと思い始める。



 えっと、『ねえ。もしかして……アンタ、私のことが好きなの?』って言ったんだよね。……これ、普通にダメじゃない? オリフィエルと話していた影響で、王族に乱暴な口調で不敬なこと言っちまったよ!



 ルナリアにいたときとは違い、今は特別な措置はない。身分は絶対。たとえ、私の正体が禍津神だったとしても、今は人族の平民として生きている。郷に入っては郷に従えだ。私の命を狙わないかぎり、暴れる予定はない。つまり私については、さほど問題ではない。今問題なのは……。



 第五王子のメンツ丸つぶれにしたことだよ!



 「か、カナデ、俺は――」


 「ストップ! ちょっと待って、第五王子!」



 意を決したように、私を見据えて口を開いた第五王子。私は更なる不敬を重ねるのを覚悟して、第五王子の発言を止めた。



 不敬罪で投獄とか処刑とかはマジ困る。もしそうなったら大人しくしているつもりはない。国外逃亡上等だ。でもそうなると、私という規格外な魔法使いを失った空の国は、他国への守りが弱くなる。いつか国を出るにしても、粛清の影響が色濃く残り、常に暗殺の危機にいる王太子を放っては置けない。王太子がいなくなれば、後を継ぐのは、魔王討伐の英雄と言う実績を持ち、ネームバリューもある第五王子だ。そんなことになれば、すぐに国は傾くだろう。そんなの目覚めが悪すぎる。



 ……第五王子は甘言に騙されそうだもんね。せめて王太子が王位を継ぐか、後宮小町の誰かが後継ぎを産んで正妃になって強固な地盤を作らなきゃ。王太子を害する過激派は消えたとしても、第五王子擁立派は、まだいっぱいいるみたいだしね。……なんだかんだで、王太子の職場を気に入っているんだね。私は。



 「ごめんなさい、不敬でした。そもそも、私のことなんて好きじゃないですよね。自惚れですよね。……という訳で、投獄と処刑だけは勘弁してください!未来の為に!」



 だいたい良く考えれば、18歳の健全な男子が小学生みたいな精神をしているはずがないよ。地球世界の男子だったら、モテるために色々やり始める時期でしょう? そんな、好きな子苛めちゃうなんて、あり得ないよ。深読みし過ぎたね。



 「俺がカナデを罰することなんてない!」


 「え? あっ本当ですか。良かったぁ」



 罰するのは王太子の仕事だもんね! 王太子は、私を戦力として離す訳がないし、御咎めはないでしょ。いや~、呪いが解けると、思考が冴えわたるね。



 「……カナデが俺のことをどう思っているのか、よく分かった。覚悟しろよ?俺は……諦めないからな!」


 「処罰を諦めないってことですか!?」


 「違う!」



 なんか噛みあってないなぁと感じながらも、私は頭を切り替え、チーズケーキの箱を見せびらかしながら、ロアナに話しかける。



 「オリフィエルが、黄昏の月って商品名のチーズケーキ持って来てくれたの。みんなで食べよう?」


 「そうね。サヴァリス殿下、茶会の許可をいただけますか?」



 ロアナがサヴァリスに許可を求める。サヴァリスは微笑みながら、承諾した。



 「では、お茶を用意させましょう」」


 「お兄ちゃんも一緒に食べよ! お金を払ったのはオリフィエルだけど、元々は私が注文したやつだから」


 「そういうことなら、美味しく食べられそうですね」


 「俺を置いて行くなぁぁあああ!」



 お茶会をするために歩き出すと、後ろから第五王子の叫び声がした。私は内心でクスリッと笑う。



 お茶会は、王太子に月の王、そして何故かサルバ先輩が加わり、賑やかなものだった。チーズケーキは好評で、また食べたいと月の王にお願いされた。可愛い美中年である。



 また、オリフィエルに買って来てもらおう。いひっひっ。



 内心で黒い計画を立てながらも、私は月の王に笑顔で快諾した。



 私が目覚めてから3日後。お兄ちゃんが浮遊島に帰り、私の治療に関するあれこれについての話し合いや、王太子の外交も終わり、空の国へ帰国することになった。帰りは私の転移魔法を使うので、あっと言う間だ。


 別れの時。サヴァリスは私に何も言わず、微笑んでいるだけだった。私はそのことに安堵した。


 サヴァリスの好意に対して、私はどうすればいいのか分からない。私は禍津神だ。いくらオリフィエルの祝福を受けた加護持ちとはいえ、サヴァリスは人族。禍津神である私とは違い過ぎる。それならば、直ぐにでもサヴァリスを拒絶すればいい。だけど、迷宮でのサヴァリスの悲しそうな顔が脳裏にチラつく。



 ……そんなの言い訳だ。



 もやもやとした感情の正体が掴めぬまま、私は空の国へと帰還した。















 空の国帰還して暫く経った頃。私は王太子、そして国王と極秘に面談をしていた。



 「それで、カナデ。その……エドガーの専属魔法使いを辞めたいということだが……。やっぱり止めたりは……」


 「しません」



 瞳を潤ませた国王に怯むことなく、私はキッパリと言い切った。国王の傍にいた王太子は、溜息を吐く。



 「だから言ったでしょう、父上。カナデの決意は固いと」


 「だがな……」


 「私を手放したくない気持ちは分かりますよ。他国への牽制材料になりますし、有事の際には、私ほど頼りになる強力な戦闘力もないでしょう。だから、私に爵位を与えて子飼いにしようとしていたんでしょうし」


 「……なぁ、エドガー。これは本当にカナデか?」


 「カナデです。扱いづらいのは、前と変わりないでしょう」


 「失礼な!」



 私は禿げればいいのにと、もはやお決まりとかした呪詛を心の中で唱える。


 

 ……って、私は禍津神だった!マジで禿げちゃうよ! 国王には何度も心の中でハゲの呪詛を唱えていたよね?これってヤバくない?……いや、禍津神だって知らない頃だったし、オリフィエルの封印は緩くなっていたとはいえ、あったからセーフ! 誰がなんと言おうとセーフだよ!



 「えっと……ごめんなさい?」


 「何故、余の頭部を見ながら謝る!?」



 罪悪感から私が謝ると、本能的に何かを察したようで、国王が両手で頭を押さえつける。その萌え仕草に吐き気がする。



 オッサンがギャルゲーヒロインみたいな仕草をしても、萌えないんだよ!



 「カナデ、辞めるにしても、一年後にしてもらうよ。口外は当分禁止」


 「分かりました」


 「うっ……どうしてもダメか、カナデ?」



 すんなりと辞職を受け入れていくれた王太子とは違い、国王は私をどうしても引き留めたいようだった。しかし、私にも譲れないものがある。



 「ダメです。家業を手伝うことになるので、それまでに色々とやりたいことがあるんですよ。……人生は短いですから」


 「……色々とは?」


 「旅をして、自分の目で世界を見て回りたいんです」



 いずれ私はこの世界を影から支えることになる。それならば、この世界について知っておかなくてはならない。無知な神に世界を預けたいなんて、誰も思わないだろう。そもそも、禍津神なんだが……という意見は無視である。全部、オリフィエルが悪い。



 ……それに、まだ見ぬお菓子たちが待っているし!



 旅をする事には、お菓子の発展も含まれている。オリフィエルを見る限り、神は基本的に世界に干渉できないようだ。まぁ、奴は地球の食文化を浸透させたりしていたけれど、私に出来るとは限らない。新米だし。だから、自由に動ける今のうちに、できるだけお菓子文化を発展させたいのだ。



 目指すは、お菓子の楽園世界だよ!



 「カナデ、君は……いったい何者なんだい?」



 燃え上がる私に、王太子が苦笑しながら疑問をぶつけてくる。オリフィエルを見てから、王太子は私に、身体や呪いに関する質問をすることは無かった。この人は感がいい。私が人族ではないと思っているのかもしれない。



 私は禍津神だ。だけど、人でもある。そして今は力を封じて、人族として人生を送っている。だから――



 「今の私は、空の国のエドガー王太子専属の魔法使いですよ」



 愛する人達と出会う運命をくれたこの国を守る貴方に、今は私の力を預け、仕えましょう。

 それがきっと、私を受け入れてくれたこの国への恩返し。







次からマティアスが本気出す……かもしれない。

カナデの辞職が決定しました。一年後ですけれど。

そして、お菓子に対する情熱はより酷くなっています。



真相編は、奏のいなくなった地球世界の番外編を投稿して終了です。

では、次回をおまちくださいませ。

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