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女魔法使いは巨人島へ出張に出かけました  後編

 自警団メンバーは昼過ぎに超級の魔物と接触することになった。そこに行きつくまでに4度魔物と遭遇していたが、いずれも難なく狩っていた。昼前には狩った魔物を調理して昼食をとり、現在の彼らは万全の体調だろう。腹が減っては戦は出来ぬだからね!


 何故、自警団メンバーに一緒に居ない私が彼らの行動を把握しているかと言うと、遠隔透視魔法を使い、見守っているからである。もう一度言おう、見守っているからである。決してストーカーとかではない。だって心配なんだもん!鬼軍曹は実は過保護で心配性なんだもん!


 

 ――――ギシャァァアアアアアアア



 超級の魔物『ワイバーン』の咆哮が森に轟く。ワイバーンは通常緑色の姿をしているが、このワイバーンは青色だ。恐らく変異種……魔物の中で有り得ない成長をした個体のことを言う。変異種にその魔物の種の常識は通用せず、また異常な強さを誇る。しかも魔の森に住み着いたワイバーンは、滅茶苦茶デカい。巨人島の物を食べるとあんなに大きくなれるの?胸だけ大きくなる食べ物とか落ちてない?



 「戦闘準備!!」



 ルイの掛け声がかかる前に、既に配置は完了していた。今までの魔物とは明らかに違うレベルに、自警団メンバーは緊張しているようだ。もちろん恐怖はあるだろう。それでもきっと、仲間への信頼があるから立ち向かえる……と鬼軍曹は考察するよ。いいよね、仲間との絆!少年漫画の王道だよ。皆、ファイト~!!


 先に攻撃を仕掛けて来たのはワイバーンだった。鋭い爪を使い、前衛を薙ぎ払う。ピーター以外の前衛組はその攻撃を食らった――が大きな負傷はないようだ。日頃の訓練の成果だね。



 「放て!!」



 援護射撃の矢がワイバーンに降り注ぐ。その間に薙ぎ払われた前衛組は体勢を整える。矢が突き刺さり、それを抜こうと身を捩るワイバーンに、無事だったピーターは死角から攻撃を仕掛ける。



 「はぁああっ」



 ワイバーンの左目にピーターの斧が食い込む。



 ――――ギシャァァガルァァアアアア



 「弓用意!!」



 ルイの掛け声と共に痛みで冷静さを失い、暴れ狂うワイバーンに追加攻撃が行われる――はずだった。ワイバーンの体内で膨大な魔力が動いたかと思ったら、次の瞬間ブレス攻撃が放たれた。通常の炎のブレスではなく、本来ありえないはずの氷のブレス。やはり変異種には常識が通じない!! 



 「うぁあああああ」


 「ぁあああああ」


 

 ワイバーンのブレス攻撃により辺り一面が氷の世界と化した。自警団メンバーもまともに食らったらしい。普段魔法に馴染みのない彼らにはワイバーンのブレスは予測出来なかったようだ。



 「被害報告!!」



 ルイの冷静な声で他のメンバーが現状を確認する。



 「後衛1名負傷!!」


 「前衛3名負傷!!」


 「負傷者は離れた場所から敵の様子を報告。前衛は1人が囮となって、その後本命の2人が攻撃する方向で、後衛は引き続き援護!!」


 「「「了解!!」」」



 手負いのワイバーンは無秩序だが、素早い攻撃を仕掛ける。それらをピーターが囮役となり、引き付ける。そして残りの前衛組がワイバーンの死角であろう左に回り込み、無防備な背中を思いっきり切り付ける!!



 「おらぁああああ」



 ――――ギシャァアアアアアア



 痛みで動きが鈍くなったワイバーンに、後続から放たれた矢が降り注ぐ!

 


 「ブレス、来るぞぉぉおお」


 「回避!!」


 

 負傷組からの声にルイは即座に指示を出す。

 次の瞬間、のた打ち回るワイバーンから氷のブレスが放たれた。


 しかし狙いは定まっておらず、威力も最初ほどではない。

 今度は負傷者を出さずに全員が回避することが出来た。



 「攻撃か――――」



 ルイが指示を出そうとした瞬間――土煙と共に強い冷風が舞う。


 不利だと感じたワイバーンが飛び立とうとしていた。それを止めようにもブレス攻撃を回避するために前衛組は下がっていた。後衛組も風のため矢が射れない。ワイバーンの苦し紛れかと思っていたブレス攻撃は、逃走のためだったのだ。



 「くそぉぉおおっ、ここまで来たのに!!」



 今まで冷静だったルイの悔しさが滲む叫びは、自警団メンバーの心の代弁だった。これでは回復したワイバーンがまた島に住み着くかもしれない。今度は森ではなく、村に降り立ち攻撃を仕掛けるかもしれないのだ。村では村民を守りながら戦うことになるだろう。そんな芸当が出来るほどの実力を彼らはまだ持っていないのだ。


 上空に舞い上がったワイバーン。

 空の飛べない巨人族はそれを見ることしか敵わない。矢を射た所で焼け石に水だ。


 彼らは絶望し、諦めた――――そう、一人を除いて。



 「諦めるんじゃねぇぇええ!!空を飛んだぐらいでなんだ、軍曹殿だっていつも飛んでいるじゃねーか!あんなトカゲもどき、軍曹殿に比べたら大した事ねーだろ!怖気づくな!!」



 マルセルが大声で仲間を叱責する。



 「――た、確かにワイバーンの一撃を貰っても気絶しなかったな」


 「軍曹殿に比べれば……」



 ええー!!ちょ、何その私の位置づけ!!貴方達の中で私はどう思われてんの!?

 私が内心で困惑しているとは知らず、彼らは話を続けた。



 「軍曹殿は狩って来いって言ったぜ、命令は絶対だ」


 「でもワイバーンは上空に……」


 「それを考えるのがオメェの仕事だろ、指揮官殿!」



 ルイに笑いかけるマルセル。マルセルのおかげでお通夜ムードだった自警団メンバーは、元の明るさに戻った。味方の士気を高める……立派なリーダーだね、マルセル。



 「……一つだけ、方法があります」


 「おう、それで行こうぜ!」


 「そんなあっさり……」


 「信頼しているぜ!!」


 「「「指示を、指揮官殿!!」」」


 「みんな……」


 

 全員の心は一つだった。


 『 村 を 守 る の は 俺 た ち だ ! ! 』



 「……後衛はいつでも矢を放てるようにしていて下さい。前衛は僕の足掴んで全力でワイバーンの元へ飛ばして下さい……どうか僕を信じて」


 「「「信じてるぜ!!」」」 

 

 「僕も信じています……作戦開始!!」



 ルイの足をマルセルが掴み、まるで砲丸投げをするかのようにルイをワイバーンの元へ放り投げた。上空を飛んでいたワイバーンは、まさか追撃があるとは思っていなかったのか、反応が遅れた。


 その隙をルイは逃さなかった。ナイフを構え、そして下に叩きつけるかのようにワイバーンの翼を切る付ける。飛べなくなったワイバーンは森へと落下する。落下していくワイバーンに後衛組がダメ元で矢を射た。数本がワイバーンに命中する。そしてそのままワイバーンは地に墜ちた。



 ――――ドカーンッ



 落下の衝撃で大地が震えた。マルセルたちは急いでワイバーンの落下地点へ向かった。



 「ルイッ!!」


 「ちゃんと仕留めましたよ。僕たちの勝利です」


 

 ルイはワイバーンをクッションにして落下の衝撃を吸収した。一か八かの作戦だったようだが、落下した頃にはワイバーンは死んでいたので、作戦を実行したのは良い判断だったのだろう。



 「「「よっしゃぁぁああああああ」」」


 「喜んでるのは言いけど軍曹殿の命令は『超級の魔物を狩り取り、誰一人欠けることなく帰還しろ』です。まずは、皆さん怪我の手当をしましょう」


 「ルイの言う通りだぜ!またあの妙なハンマーでお星さまを見ることになっちまう」


 「それは全力で遠慮してーな!!」


 「「「あっはははは」」」



 だから貴方達の中の私はどうなってんの!?



 自警団メンバーは各々で応急手当をした後、きちんとフォーメーションを組み村へと帰還した。手には勝利の証であるワイバーンを、胸には巨人族の誇りを携えて。村の皆はその勇ましい姿に狂喜乱舞した。自警団メンバーは巨人族の英雄になったのだ。


 私も笑顔で彼らを迎えた。鬼軍曹は卒業だよ!

 そうしたら、ビクビクした目で見られた。



 え、何で恐れられてんの?こっちが私の素だからね!!

 








 夜は村を挙げての宴会が行われた。もちろん主役は自警団メンバーだ。村の奥様方が作った宴会料理にお酒を皆、楽しんでいる。大人の男たちはもう酔っぱらって出来上がっていた。マルセルは子ども達に武勇伝を聞かせている。ワイバーンのブレスが森を全て凍らせたって、おいおい。盛り過ぎじゃね?ルイは意外にも女の子(巨人)に囲まれていた。モテるんだね……ああ、他の自警団メンバーがそれを見ながらヤケ酒を飲んでいるよ。うん、リア充は滅べばいいよね!



 「軍曹ちゃん、楽しんでる?」



 以前、グルミーラビットの肉を渡した奥様に話しかけられた。

 


 「もぉ、軍曹ちゃんは止めて下さいよ。カナデです、カ ナ デ 」


 「そうだったわね。あなたには感謝しているのよ。腐っていたあの子たちがあんなに生き生きしているのは、あなたのおかげだもの」


 「彼らが頑張ったからですよ」


 「それはそうだけど、あの子たちに訓練を施して、その間は村に無償で魔物の肉や果物を分けてくれて……本当に感謝しているわ。ずっとここに居て欲しいぐらい」



 目に涙を浮かべる奥様。やめてぇ、私も泣いちゃうからぁぁあああ。



 「私もずっと居たいですけど、人間領に仕事がありますから。離れ離れになっても、私は転移魔法で直ぐに来れますから……今度は仕事じゃなくて、遊びに来ます」


 「それは嬉しいわ!!みんなに報告しなくっちゃ。ああ、軍曹ちゃん。これ蜂蜜酒よ、アルコールのすごく弱いお酒でね、子ども達が飲むものだけど飲んでみて、美味しいから!」


 「ありがとうございます!」



 私は奥様からジョッキ(巨人サイズ)を受け取った。奥様は井戸端会議に直行みたいだ。せいが出ますな。それにしても蜂蜜酒か……甘酒みたいなものかな。現世では成人は15歳だけど、前世は20歳だから、お酒を飲むのは抵抗があるんだよね~。でもこれはジュースみたいなものだよね、周りにいる子ども達も飲んでいるし。どれどれ……。



 「うんまぁああああ」



 前世のレモネードに似てる!蜂蜜の甘さと、レモンの香りがこの上なく美味。やばい持ち帰りたい。村長さんにお願いしようかな?ああ、飲むのが止まらない~。


 ……


 …………


 ……………………



 何だか、顔が火照って来たなぁ。気温上がった?ここは南の島だもんね~。南の島の大王は~その名は偉大な~って、オッサン達がステージで裸踊りしているよ。どこの世界でも酔っ払いは同じなんだね。ちと文句でも言ってやろうか!



 「おひぃ~、ひくっ。汚いもの見せんにゃぁ!!」


 「何だぁ?嬢ちゃんも脱いでくれんのかぁ?」


 「でも嬢ちゃんじゃ、興奮しねーな」


 「「「ちがいねぇ!!」」」


 「ああん!? 馬鹿にすんにゃよ?私だってやればできんだからな!!」


 「うぁぁあああ」



 風魔法で裸のオッサン(巨人)を吹き飛ばし、私はステージの中央へ向かう。



 「お?何だ、軍曹殿が何かやるのか?」


 「軍曹のおねーちゃんだ!」


 「軍曹ちゃ~ん!!」



 何だか色々聞こえるが、そんなことはどうでもいい。一度私の認識を改めさせねばな!


 私は魔力を身に纏い、変身魔法を施す。変身と言っても服が変わるだけだ。尤も、その服は某時空シンデレラと色違いの青色のコスチューム。ふふはははは、私の可愛さにひれ伏すがいい!!


 音響魔法を展開!!ついでにステージも前世での音楽番組スタッフが腰を抜かすような豪華仕様に幻術魔法を展開!!何この高難易度魔法の複数同時展開!!魔力がガシガシ削られていく~!!


 でも、楽しければそれでええじゃないか!!ひゃはー!!



 「カナデ・オン・ステージ~!!!」



 前世の大人気アイドル(ただし二次元)の曲が大音量で流れる。覚えてるもんだね!



 「私の歌をきっけ~い!!」



 私はうろ覚えの歌をよく判らない振付と共に熱唱する。前世では『上手いって訳じゃないけど、ネタに出来る歌唱力でもないよね』と馬鹿にされた、ある意味残念な歌唱力だけど、酔っ払い共には大ウケみたいだ。今が楽しければそれでいいのさ!



 「きゃぁああああ、軍曹ちゃーん!!」


 「ぐ ん そ う ☆ ぐ ん そ う ☆」


 「こっち向いて~!!」



 どんどん行くよ!夜はまだ始まったばかりさ!

 超魔法シンデレラのカナデちゃんを甘く見るなよ、今夜は眠らせないからな~!!



 そして宴は明け方まで続いた。









 「うぉぉおおおおおお、失敗した。お酒で失敗したぁぁあああ」



 朝起きたら村長の家にいた。そこはいい。だけど起きた途端に思い出したことが最悪すぎた。どうやら蜂蜜酒は、巨人の子どもにとって(・・・・・・・・)はジュースみたいなものらしい。つまり人間の私が飲むと……昨日のような失態を犯すらしい。何、私の可愛さにひれ伏すがいいって。カナデ・オン・ステージって……。


 穴 が あ っ た ら 入 り た い !



 「今なら恥ずか死できる気がする……」



 『酒は飲んでも飲まれるな』……社会人の常識だよね。

 もう、絶対に人から進められたお酒は飲まない!たとえ、ジュースみたいと言われてもだ!!


 決意を新たに、私は二度寝をすることにした。



 これが全部夢だったいいのに……。











 お昼、私は昨日醜態をさらした広場にいた。別に自分を自分で精神的に虐める趣味は断じてない。仕事を完遂したため、空の国に私は戻らなくてはならない。帰りは転移魔法で直ぐなので、お別れの挨拶をしたいという巨人族の皆様の好意を汲んで広場に集まってもらったのだ。



 「軍曹殿、ありがとうございました!!」


 「「「ありがとうございました」」」



 マルセルの声に続いて、自警団メンバーが敬礼する。軍人っぽいかもと、軍曹が軍の中でどれくらい偉いのか知らない私が教えたエセ敬礼だ。コレジャナイ感が半端ないね!



 「これからも訓練を続けなよ。巨人族を守るのは貴方達なんだから」


 「「「ぐ、軍曹殿ぉぉおおおお」」」



 なんかすごい懐かれてる!?巨人の男たちに泣かれてもホラーだから!!


 

 「ああ、えーっと……これあげるから、泣き止んで」



 私はマルセルにピコピコハンマーを渡した。男にはとりあえず武器あげとけば機嫌がとれる……と思う。



 「これは……軍曹殿だと思って、この神器は奉納するっす」


 「ああ、そう――って神器!?奉納!?」


 「俺たちを守ってくれるな」


 「最強武神の憑代だぜ……」



 貴方達の中の私ってどうなってんの!?



 「そ、村長……」



 私は村長に助けを求めた。ヘルプ!まともな大人よ、私を助けて!!



 「ふぉふぉっ御嬢さん、次来た時は新しい曲と衣裳を頼むのう」



 ええ!?気に入ったの村長!!



 「あら、また同じ曲が聞きたいわ~」



 奥様ー!!うわぁ、皆期待の眼差しで私を見ているし。な、なめてた……娯楽の少ない島民の飢えをなめてたわ!!



 「あ、えーっと、機会があれば……」


 「楽しみにしているぞぉ、この老いぼれにも生きる活力が湧いてきたわい」



 何それ重いっ!!



 「今回は作れなかったけど、巨人島名物のチョコレートフォンデュを次は用意するわ~」



 え、餌で釣る気ですか奥様!?

 このままじゃ約束をしてしまいそうだ。撤退、戦略的撤退だ!!



 「後の事は、空の国から派遣されてくる外交官に頼みますので……私は失礼します!!」


 「軍曹殿、さらに強くなってお待ちしています」


 「軍曹殿達者で!」


 「軍曹のおねーちゃん、またね~!!」


 「いつでも来てね、軍曹ちゃん!」


 「次の歌を待っているからのう」


 「ぐ ん そ う ☆ ぐ ん そ う ☆」


 「はい、さようなら!」



 一部おかしな別れの挨拶はスルーして、私は転移魔法を展開し、空の国へと帰還した。

 これで私の初めての単独出張は幕を閉じたのである。







 その後、巨人島ではピコピコハンマーを祀る社が建てられ、私は武神として崇め奉られた。そして超魔法シンデレラカナデちゃんは、村で伝説のアイドルとなり老若男女(ただし巨人)に愛されるようになる。


 それらを私が知るのは、もっと後になってからだった……もう、絶対にお酒は飲まない。





超魔法シンデレラカナデちゃん……鬼軍曹からのこの展開を誰が予想出来ただろうか。作者にも無理だった。


そんな訳で後編でした。

楽しんでいただけたのならば、嬉しいです。


この後は村長視点の短編と、後日談(空の国)を投稿します。それで巨人島編は終了です。


では気長にお待ちください。

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