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目覚めと再会

カナデ視点に戻ります。

時系列は迷宮編後。




 これは夢じゃない。遠い日の記憶。


 本当に起こった悲しい出来事と、馬鹿みたいな奇跡。


 私は禍津神。


 だけど、私はこの世界が大好きだ――――












 「ん……」



 ゆっくりと意識が覚醒する。同時に呪いが解けたことを理解した。



 それに呪いだけではなく、封印も解けている……?



 身体から溢れだす力を抑えながら、私は考える。すると羞恥で顔が紅潮した。かけられていた布団を被り、蓑虫のように丸くなる。



 「ふんがぁぁあああ! 封印とかどうでもいいよ! 問題は私の黒歴史だよ!」



 呪いと封印が解けた影響で、私は全て思い出してしまった。私が禍津神だっていうこと?……違う、それはたいした問題じゃない。問題なのは……。



 私が自分のことを普通だとか思っていた、とんだイカレた痛いヤツだってことだよ!



 全属性で魔法を複数同時展開する魔法使いなんて普通じゃないじゃん。それに錬金術と珍品魔法具作成までできるんだよ? やっべぇぇえええ! 私ちょー危険人物じゃん。確実に空の国の最終兵器で、他国への抑止力になっているよね? あっ、だから魔王討伐に五か国の王の推薦を受けたのか。私、どんだけ普通じゃないの? それなのに普通の人と結婚したいだなんて、なんつー烏滸(おこ)がましい夢持っていたんだ! 理想高すぎだろ! 私が一般人だったら、裸足で逃げ出すわ!



 「恥ずかしくて、お外歩けにゃい……。み、水でも飲んで落ち着こう。それにここ、どこなんだろ」



 見慣れない立派な部屋に首を傾げつつ、無駄に広いベッドの脇に置いてある水差しを手に取った。



 ――――グシャリ



 ガラス製の水差しは、私が握った瞬間、粉々に砕けた。鋭いガラスの破片と一緒に水が滴り落ち、純白のシーツを濡らす。ちなみに私の手は無傷だ。



 「お、乙女にあるまじき怪力……! いや、逆に考えるんだ。これだけの怪力があれば、もしも巨大ケーキを作ることになっても、デカいボールで生地を混ぜる手伝いが出来る……って、このスィートルームみたいな部屋にある水差しが安い訳がないじゃん! は、早くどうにかしないと!」



 ただ水差しをどうにかしなきゃと思った。すると次の瞬間には、水差しは壊れる前に戻っていた。また壊さないように、水差しをそっと元の場所に戻す。



 神属性魔法を展開していなのに水差しの時間が巻き戻った……? これが神の力っていう訳か。そう言えば、自分に呪いをかけちゃった時も勝手に力を使っちゃたみたいだし、制御できていないのかな。それって、マジやばくない? 禍津神の力を垂れ流し?



 焦った私は、亜空間から高級素材を惜しげもなく取り出し、応急処置として力を制御するバングルを錬成する。



 「どうか……どうかお願いします、高級素材様! 錬金!」



 素材だけでも国の数年分の国家予算並みのバングルを腕につける。



 たぶん……きっと……おそらく、大丈夫……だよね!



 ホッと安堵の溜息を吐くと、部屋の扉がノックもなしに開いた。即座に扉の方へ振り返り、警戒を強めると、そこに居たのはロアナだった。



 「……カナデ?」


 「あっ、おはよう。ロアぐふぇっ!」



 ロアナは私の方へと迷わずに駆け出し、いきなり抱きしめてきた。……ものすんごい力で。しかも、無駄にデカい胸に顔がめり込み、窒息しそうだ。



 「カナデ! 信じていたわ。良かった……心配かけ過ぎよ!」


 「ぐへぇっぎゅふへっ……ロ、アナさん、ぐるじいです」


 「あら、ごめんなさい」



 ロアナは落ち着いた様子で私のことを離した。

 私はロアナの顔を心配そうに見つめて、目には薄らと涙が浮かんでいる。



 そう言えば、私は迷宮でサヴァリスのデコチューくらって倒れたんだっけ。そりゃ心配するよね。アホみたいに常識を超えた私が倒れるんだもん。というか、ロアナはいつも私を心配してくれたよね。それに初めての友人になってくれて、今じゃ親友だし……。



 私はロアナにガバッと勢いよく抱きついた。喉からは熱いものが込みあげてきて、涙が止まらない。バングルにピシリとヒビが入ったが、この際、気にしていられない。



 「ありがとう、ロアナ。こんな……こんな普通じゃない危険人物を見捨てないで……どもだぢになっでぐれでぇぇえええ! うわぁぁあああん!」


 「え、ちょっと、カナデ!? 今、自分のことを普通じゃないって言ったの? あのどう考えても常軌を逸しているのに、自分を普通だと洗脳のように思い込んでいたカナデが!?」


 「そこまで言う!?」


 「事実でしょう?」


 「そうです、悲しいことに事実でしたぁぁあああ!」



 ロアナに容赦なく心を抉られた私は、床に手を付き絶望のポーズをとる。だって本当に悲しいんだもん。



 「まあ、目覚めたなら、カナデが普通じゃなくてもいいわ。部屋の前には侍女や護衛が立っていたし、カナデが目覚めた事はたぶん上に伝わって――」


 「カナデ、目覚めたの――へぶしっ」


 「マティアス殿下。女性には色々と準備がいるでしょう。少し待たれてはいかがですか?」


 

 廊下から、何故か第五王子とサヴァリスの声が聞こえた。



 「……なんで、第五王子とサヴァリスがいるの。ていうか、ここどこ?」


 「ここは月の国の王宮よ。倒れたカナデをサヴァリス殿下が運んだの。後でちゃんとお礼を言うのよ。カナデのために、軍事的切り札まで使って見せたのだから。ここに何故、マティアス殿下がいるのかは後で話すわ。早く隣の部屋にあるお風呂に入っちゃいなさい」



 色々とツッコみたいことはあったが、私は大人しくロアナの指示に従う。



 「分かった」



 なんにせよ、サヴァリスには、ものすごく迷惑をかけてしまったようで、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。会ったらすぐに謝ろう。


 私は高級な石鹸で身体を洗いながら、そんなことを考えていた。



 




 「珍しいわね。ローブじゃなくて、オシャレなワンピースを着るなんて」


 「私も色々と心境の変化があるんだよ!」



 お風呂上りに黒いシフォンワンピースを着たら、失礼にもロアナに珍しがられた。ローブは魔法使いが着るものだ。厳密には魔法使いではない私が着るのは憚られる。



 べ、別にローブが野暮ったくて、いかにも魔法使いな感じが普通じゃなくて嫌だとかじゃないよ? ほ、ほんとだよ? それに私は決めたんだよ。いい意味で普通じゃないね!って言われるような女の子になるって。それに適度にオシャレな女の子になって、外見だけでも埋没したいんだよ!



 「まあ、いいけど。それと、あんまり驚くんじゃないわよ」



 ロアナ曰く、私は一か月ほど眠り続けていたらしい。今ではピンピンしている私だが、一時は生存が危ぶまれる状況だったとか。そんな訳で、非常に恐れ多いが、私へのお見舞いという名の事情聴取にお偉いさんたちが、この部屋に来ることになったのだ。



 「皆様、到着されました」



 部屋に控えていた侍女さんがそう言い、扉を音を立てずに開けた。そして部屋の中に入って来たのは、月の国の王様、私の上司である王太子殿下、サヴァリス、第五王子、そして人化したタナカさんだった。



 「えっと……今回は、大変ご迷惑をおかけしました」



 引きつる顔を隠しつつ、私はとりあえずこの国で一番偉い月の国の王様へ頭を下げた。



 「よいよい。元気になって良かったぞ。それにお礼ならサヴァリスに言うといい。カナデを連れ帰って来て、治療を受けさせたのはサヴァリスだからな!」


 「はい」



 王様の許可を得たので、私はサヴァリスの前に立った。



 そう言えば……オリフィエルが見た未来では、サヴァリスって家族を人質に取られたことで陽帝国に戦争に負けて死ぬ運命だったんだよね。でも今じゃ、英雄だし。御爺ちゃんの寿命が延びて全方位から戦いをしかけられなくなったとはいえ、本来、死ぬはずだった運命を変えた訳だよね。さすが、オリフィエルが選んだ人族だね。



 「どうしました、カナデ?」


 「なんでもない。サヴァリスが生きていて良かったと思っただけ」


 「カナデ!」


 「ふんぎゃぁ!?」



 サヴァリスがいきなり、私を抱きしめてきた。


 男のくせにいい匂いがするし……って、私は変態か! というか、免疫のない女子にこんなことするなよ! 普通の呪いが解けた影響で、今の私は、普通じゃない人にもトキメクようになっているんだよ!



 顔を真っ赤にしながら暴れていると、タナカさんがベリッと私からサヴァリスを引き離した。



 「た、助かった……。色々な意味で」


 「私としたことが申し訳ありません。カナデが愛らしすぎて……」


 「やめて! ああ、もう! サヴァリス、私を助けてくれてありがとう!」



 早口でお礼を言うと、私はそそくさと保護者であるタナカさんの後ろに隠れた。



 「カナデ、元気になってよかったですね。ティッタとアイルは、人族との関わりを持たせるのは良くないと判断したので、帰させました。ですが、とても心配していましたよ? 早く元気な姿をみせてあげてくださいね。……ここは害虫が多いですし」


 「う、うん」



 あれ、幻聴かな。タナカさんの口から害虫なんて言葉が聞こえたんだけど。私が見えないだけで、この掃除が行き渡った部屋に害虫がいるのかな……ハハハ。



 「オイ、カナ――」


 「はい。カナデも病み上がりですし、手短に話を済ませてしまいませんか?」



 第五王子の言葉を遮り、王太子が提案した。私はそれに頷く。


 そして、私が倒れてから今までのことの説明を受けた。王太子と第五王子は、謀らずも国家間の問題になってしまった私を引き取るためという名目の外交として、月の国へ来たらしい。ロアナはその御付として無理やり来たみたい。それと、人化したタナカさんには、皆が驚いたみたいだった。そりゃ、人族には縁のない幻の神獣様ですからね!


 それとサヴァリスは、他国の魔法使いである私を助けるために、本当に色々やってくれたみたいだ。各国の代表に神属性魔法が使えることを露見させたり、月の国の最高の治療を受けさせて、私の身体を守ってくれたりね。



 「あの、サヴァリス。さっきは適当に言っちゃったけど……本当に、ありがとう。感謝してもしきれないよ。それと……迷宮では、ごめんね?」



 迷宮では、呪いのせいではあるけれど、サヴァリスに酷いことを言ってしまった。たぶん、私みたいな禍津神ではない、人族のサヴァリスは、自分が特別だということにすごく悩んでいたはずだ。しかし、私は普通だと言って拒絶してしまった。それなのにサヴァリスは倒れた私を助けてくれた。こんな、普通じゃない私を、だ。



 「いいですよ、許します。でも、これで私がカナデに本気なことが分かったでしょう?」



 妖しく笑うサヴァリス。私の身体を沸騰するかと思うほどの熱が駆け巡る。


 

 こんなに私を大事にしてくれる人……ロアナとタナカさんたち以外にいる? 



 「もう、完全に分かったから! 趣味悪すぎ!」



 私はタナカさんの背中に顔を埋める。照れ過ぎてやばい。



 「はぁ……。マティアス、あの二つの壁を乗り越えなくてはいけないんだよ。いい加減、つまらない意地を張るのは止めないと。……面白いけどね」


 「兄上!? 今、面白いっていいましたか!」


 「さぁ? 僕は知らないよ。 ところでカナデ。君は呪いのせいで寝込んでいた訳だけど、心当たりはあるかい? それに、一か月寝込んでも、やつれず、筋肉すら衰えない理由もね」



 誤魔化すことは許さないとばかりに、王太子が私を笑顔で威圧する。



 「の、呪いの方は、内容もかけたヤツは分かっています。身体の方はですね、えーとっ……」


 「へぇ。呪術師について知っているんだ?」



 私がどうやって誤魔化そうしどろもどろになっていると、部屋に文官が乱入してきた。その様子は酷く焦っているようだった。



 「大変です、大変なんです陛下~!!」


 「後にしろ! 今は未来の妹のお見舞いをしているのだから」



 未来の妹って何だよ!?



 「陛下!どうか、話を聞いて下さい!!」



 文官は滝のように汗を流しながら、再度懇願する。



 「月の王。こちらのことはいいですから、話を聞いてあげては?」



 見かねた王太子が文官へと助け舟を出す。



 「感謝する。それで、何が大変なのだ?」


 「我が国の客人である、魔法使いのカナデ様の父親を名乗る黒髪に金色の目の10代後半の青年が殴り込みを……騎士たちじゃ手におえないんです!」


 「なんだと!?」



 部屋にいたすべての者たちが、驚いたように私を見るがそんなことは関係なかった。



 「父親だって……? あの、ボケナス……やっぱり、アイツが黒の呪術師だったか。こんにゃろう……」


 「えーと、大丈夫かい。カナデ?」



 あの、ふざけた迷宮も、凶悪な呪いも、とんでもない仕事の押し付けも……全部、全部、アイツのせいだ!



 私は怒りで肩を震わせる。すると私の気持ちに禍津神の力が答えたのか、いつの間にか、城の外へ転移していた。場所は王宮の門の近く。大勢の騎士が黒髪金目の男――オリフィエルを取り囲んでいた。


 オリフィエルは私の姿を見つけると、一気に騎士たちを吹っ飛ばして、私に極上の笑顔を向ける。



 「やっほー! パパだよ☆」


 「爆ぜろ! このド畜生が!」



 ――バリンッ



 完全に制御バングルが壊れる音を聞きながら、私はオリフィエルへ爆裂魔法を叩きこんだ。


 





やっとカナデが普通ではないことを自覚しました。

今までのことは、完全に黒歴史です。


次は、パパことオリフィエルとのお話。また謎解きです。

お待ちくださいませ。

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