表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/120

ワーキングコンチェルト 後編

 数年後に滅びる世界に行けって、それなんていう拷問?……いや、真面目にね!



 「いやー。奏の器作りと日本の食文化を広めるのに忙しくてね。うっかり、うっかり~」


 「うっかりじゃねーよ! このアホ神が!」


 「これでも途切れないように、面白そうな人族に祝福を与えていたんだよ? おかげで、5年ぐらいクランヴォールの寿命は延びたはずだ!」



 何故かキリッとした顔でオリフィエルはのたまった。



 「そもそもさ。何が原因でクランヴォール世界は、滅びる予定なの?」


 「ふむ……。祝福を与えた人族は二人いるのだが、その内の1人、魔法使いが死にたい病にかかっていてね。だいたい、あと一か月ぐらいで死ぬ。魔法使いが死に、脅威がなくなったその国を、人族領最大国である帝国が内部から征服するんだ。丁度、世継ぎ問題で揉め始めているから、そこを利用されて。そして帝国は世界征服をするために他国を蹂躙。もう一人の祝福をあげた王族の人族も奮闘するけれど、国を全方位から攻められ、家族が人質になったために戦いに敗れて死んでしまう」


 「えっ何それ。世界征服とか、馬鹿なの?」


 「人には時々、人智を超えた者が生まれる。我が祝福をあげた者たちがそうだ。あまりに強い才を持ちすぎたせいで、とても生きづらい彼らに善き運命を辿ってもらうために。しかし我が祝福を与えなかった人族がいる。それが帝国の支配者である男だ。奴は強運を持っていたが、あまり面白い男ではなかった。自分の欲求を満たすために世界征服を企み、実行するぐらいにな」


 「でも、世界が滅びるってことは、世界征服が成功しちゃうの!?」


 「最初は人族領を支配し、その後は巨人族を戦闘奴隷におとす。そして多大な犠牲を払いつつも魔族領を侵略。それだけには飽き足らず、エルフ族や妖精族、竜族とも戦うことになる」



 ファンタジーな種族がいっぱいでてきたんですけど!?



 「それで全部の種族を支配下に置いたの!?」


 「いいや。しかし、その戦いで世界を支える種族たちを殺してバランスを崩してしまうんだ。自然を破壊したことで、精霊たちが。魔素竜も半分以上が死ぬ。管理者である神獣たちも、人族の争いにはなるべく関わらないようにしていために対処が遅くなり、取り返しのつかない事態になってしまう。そういうわけで、強運の男が世界征服を完了する前に世界が壊れる。……という未来が予定されている」


 「危険地帯じゃん!」


 

 そんなところで人生なんて送りたくないわ! また死んじゃうよ!



 嫌だ嫌だと呟く私を放置し、オリフィエルは何か考え込んでいた。そして暫くすると、手を叩き、「妙案を思いついた!」と酷く不安になる発言をした。



 「奏が魔法使いを籠絡すればいいんじゃないか?」


 「分かっていたけど……お前、馬鹿だろ!」


 「こらこら、パパだろう?」


 「そういうところを言ってるんだよ!」



 憤慨する私を無視して、オリフィエルが得意げに話を続ける。



 「奏は未来を変えた経験がある。だから、クランヴォールに送りこめば、きっと滅びの運命を覆してくれるさ!」


 「無理だから! だいたい、力を封印して送り込むんでしょう? そんな危なそうな世界で、わざわざ自分で危険に足を突っ込んだりしないからね」


 「よしっ! 奏には、世界征服を阻止して、種族の友和をはかる仕事をあげよう。禍津神に関する記憶と力を封じることにはなるが、大丈夫だ。生き抜くための最低限の力は残すよ。オーケストラが奏でる協奏曲のように、色々な者たちと力を合わせればきっと成せる!だって、我の娘だから。さあ、ワーキングコンチェルト計画の始まりだ!」


 「話聞けよ!」


 「ぐふっ」


 私の右ストレートが火を噴いた。オリフィエルは吹っ飛び、壁に叩きつけられる。



 「うわぁっ! どうしよう、殴っちゃた……。私、こんなに凶暴だったけ……?」



 前世では、人を殴ったことなんて一度もない。犯罪だしね。



 「それは奏の価値観が変わったからさ!」



 オリフィエルは立ち上がり、何事もなかったかのように私の元へと戻る。



 ノーダメージかよ! ちょっと残念。



 「禍津神になったから……?」


 「そうさ。質問だけど奏。もしも奏を殺そうとする者が現れたらどうする?」


 「殺される前に殺すよ。……って、あ」


 「ほらね? 奏の価値観は変わっている。そうじゃないと、精神が生きてはいけないから」


 「あのさ。本当に私をクランヴォール世界に送るの? やばくない? 最短で世界をぶっ壊すんじゃないの、私?」



 どう考えても、世界一危ないヤツになるの確実だよね?



 「そうなったら、そうなったさー」


 「軽いな!? 私は、普通に生きたいの! 普 通 に ! 」



 普通を強調すると、何故かオリフィエルは私の胸に手を当ててきた。胸の奥がじんわりと温かくなる。



 「君に呪いをかけてあげよう、奏」


 「天誅ぅぅうううう!」



 正拳突きもどきを放つが、オリフィエルは、ひょいっと軽く避けた。ぐぬぬ……。



 「我に暴力を振るうのはよくないんじゃないか?」


 「セクハラしたくせに、何を言う!」


 「いやいや。そんなに感触なかったし」


 「貧乳で悪かったな!」



 胸を抑えつつオリフィエルを睨みつける。オリフィエルは、面白い反応だと思っているのか、笑っているだけだった。いつか絶対に泣かすからな!



 「呪いをかけるのは苦手なんだけどな。我、頑張った。自分が普通であるとしか思えない呪いをかけといたから。発動するのは、封印と一緒でクランヴォールに着いてからだけど」


 「普通って、そういう意味じゃないからね!? しかも呪いって何よ。もしかして、お伽噺にあるみたいに王族のキスで解けるとか言わないよね?」



 そう言った瞬間。今度は胸がキュッと締め付けられる気がした。恐る恐る胸を覗いてみると、そこには、刺青みたいな黒と金の薔薇が咲いていた。何ぞこれ。



 「あっ凄いね。流石は破壊と呪いの禍津神。今ので我の呪いが強化されて、王族のキスが呪いを解くトリガーになったよ。我の条件は、奏が人生に幸せを感じたらだったのに」


 「はぁぁあああ!?」



 ちょっと待って。難易度高くない? 普通に暮らしたら、王族と関わることなんてありえないよね? 世界征服回避と種族の友和だけでも無理なのに、更に解呪困難な呪い持ちで、自分を普通だと思い続けるアホになるなんて……。



 ふ ざ け る な よ 、 ド 腐 れ 神 が !



 「それじゃあ、そろそろ別れの時だよ。可愛い子には旅をさせろって言うしね。さぁ、大いなる冒険の旅に出かけるのだ!」


 「嫌じゃ、ボケェッ! って……何? 身体が……縮んでる!?」



 目線がどんどん低くなる。ワンピースは肩からずり落ち、裸同然の恰好になった。私はワンピースの布を必死に手繰り寄せ、身体を隠した。



 どこぞの組織の薬かよ!



 「枯れた爺を籠絡するのは、子供と相場が決まっているからね!」


 「決まってないよ! どうせなら、絶世の美女にして人生イージーモードを体験させてよ!」


 「却下」



 この鬼!悪魔!と罵ろうとするが、言葉が出ない。身体も自由が効かず、ただオリフィエルを見上げるだけ。オリフィエルはそんな私を、軽々と抱き上げる。どうやら、赤ちゃんにまで身体が戻っているようだった。


 どこかから白く手触りの良い布を取り出し、それを私の身体へと巻きつける。



 「さて、奏。人生を謳歌してくるといい」



 そう言って、オリフィエルは私をぶん投げた。




 え、ちょっと、幼児虐待!



 床に叩きつけられると思ったが、一向に衝撃がこない。むしろ、どんどん落下しているような浮遊感がある。



 ……ような、じゃない。落下してるよ!



 目に映ったのは青空。そしてその空の中に不自然な穴がある。そこからオリフィエルは顔を出し、手を振っている。



 こ の ボ ケ ナ ス 、 次 に 会 っ た 時 は 覚 え て い ろ よ !




 叫べないことをもどかしく思いながら、封印と呪いによって薄れゆく意識の中で精一杯罵った。
















(ポルネリウス視点)




 「おぇ……。気持ち悪いのう」



 修行の旅へ向かうアイルの送別会を昨日行い、しこたま酒を飲んだ。おかげで二日酔いで気持ち悪いし、頭痛も酷い。



 「気持ち悪すぎて死にたいのう……。タナカたちには悪いが、ちっとばかし老化を早めるかの」



 儂は十分に生きすぎた。親しい人族たちは皆死に行き、その子孫たちも儂より早く死ぬ始末。人族は180年以上も生きたりせん。自分がどうしようもない化物になるような気がして、耐えられない。タナカたちはいるが、やっぱり儂は人族なのじゃ。人族として死にたい。



 「ん? 結界の魔道具が解除されているのう。まあ、あれも動力源の魔石の寿命が近いからの」



 結界の魔道具の様子を見に行くため、玄関の扉を開ける。するとそこには、小さな白い包みが置いてあった。



 「何かの……? あ、赤子か!?」



 その温かで柔らかな感触に心底驚いた。慎重に赤子を抱き上げる。すると赤子は目を開き、無邪気に笑った。



 「……黒い瞳! それに薄ら生えている髪も黒髪かの? それにこの魔力……儂に匹敵するの」



 結界の魔道具が壊れている隙に捨てられたのだろうか。魔力持ちは、儂のような例外を除き、基本的に王侯貴族じゃ。見た事のない黒髪黒目の容姿を持っていたとしても、軽々しく捨てたりしない。むしろ、家や国を繁栄させる道具となるように育て上げるだろう。



 ……儂のように、貴族家の争いから守るために親が連れ出したのかもしれん。



 そう思うと、この赤子に親近感が湧いた。それにこの才能の塊のような赤子であれば、我の生きた証である魔法をすべて習得できるかもしれん。



 何より、儂の死を見送ってくれるじゃろ。



 「……もう少しだけ、生きてみるかのう」



 そうと決まれば名前じゃ。どうするかの。まずは、性別を確認した方がいいのかの?それとも、どちらでも使える名前の方が――



 ――その子名前は奏だよ。



 「むむむっ! なんか今、ひらめいた気がするぞ。二日酔いの頭だけどな。この子の名前はカナデじゃ!」



 儂はカナデを抱き、家の中へ入る。カナデはお腹を空かせているのか、布に吸い付いていた。



 赤子の世話などしたことがないの。ティッタは家事とか全然ダメじゃし、子育てなぞ無理じゃ。そうなると、無駄に長く生きて博識なタナカかの?


 儂は飲み会の影響でまだ寝ているタナカへと大きな声で呼びかけた。



 「タナカ! 乳を……乳をくれないかのぉぉおおお!」


 「ポルネリウス、浮気ね! 許さないわよ! 貴方を殺して、浮気相手のタナカも殺すわ!」



 儂の声に最初に答えたのは、何故かティッタだった。



 「ティッタ、攻撃魔法を展開するのはやめなさい! ポルネリウス、ついにボケたか!」



 ティッタの魔法を打ち消しながら、タナカは珍しく焦っている。儂は誤解を解くためにカナデを見せた。


 

 「その子が浮気相手!?」


 「ティッタ、落ち着きなさい!」


 「騒がしいのう。この赤子は儂の新しい家族、カナデじゃ。……タナカ、ティッタよ。人族の赤子の育て方を知らないかのう?」


 「「……」」



 沈黙する二人。儂の背を冷や汗が伝った。……誰も知らんのかい!




 こうして神獣と妖精と魔法使いの手さぐりな子育ては始まったのじゃ。






タイトル回収(笑)

今回のオリフィエルは、本当にダメダメです。


次回はやっと迷宮編後、呪いの解けたカナデの目覚めです。

お待ちくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ