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創造主の憂鬱

続 オリフィエル視点

 最近はとても忙しい。


 かれこれ600年近く地球世界の修復もしているし、多数の知的種族が暮らす世界――クランヴォールでも問題が山積みだ。


 クランヴォールは、神システムを使わずに、それぞれの種族の力を合わせて世界を成り立たせている。特に世界の管理者たる神獣――主に働いているのは、我の肉体を切り離して創りだした特別体だが――の役割が大きい。


 ぶっちゃけ、神獣の長が優秀過ぎて我は、ほとんどやることはなかった。時折生まれる、実に生きづらそうな資質をもつ面白い人族に祝福を与えるぐらいだ。それらは加護持ちとか言われているらしい。さすが、我だな。


 クランヴォールの問題は深刻だ。我は理不尽の塊のような存在。故に基本的に世界に干渉はしない。それでも、自ら対処をしなければならない事案もあるし、逆に対処してはならない事案もある。



 ……このままだと、クランヴォールも地球世界の二の舞になるのだが。あーどうしよう。誰か、助けてー。我に気ままな創造主ライフを送らせてー!



 叫んだところで、誰も助けてはくれない。同じ創造主となっている奴らは、眷属とかいうものを作って仕事を任せたり、可愛がったりしているらしいが、我にはそういった者たちはいない。



 そもそも、眷属なんていう自分のすべてを肯定する存在など、面白くないよな。確かに、ちょっと寂しいとか思わなくもないけど! 欲しいのは眷属じゃないんだよ。


 ……まあ、最近の我には癒しがあるけど!



 我は癒しを求めて、居住空間へと帰還した。


 そこは白を基調とした空間で、人の使うような家具が置かれている。その中でも、部屋の中央に一際目立つ鈍い光が浮いていた。光は灰色で、ふわりふわりと僅かに揺れながら存在している。この部屋に連れて来た当初は光は黒く濁っており、頻繁に空間を壊すなど、じゃじゃ馬のように暴れまわっていた。それも今では大分浄化され、暴れることはなくなった。すっかりお利口さんになったのだ。


 我は光――奏の魂の傍まで行くと、今日も愚痴をこぼす。



 「聞いておくれよ、奏。クランヴォールが、後400年ほどで消滅するかもしれないのだ。せっかくここまで育て上げたのに、壊れる未来しか見えない。面白い人族への祝福を途切れさせないようにはするが、どこまで効果があるか……。しかも、この間我は、なんかよく分からん女言葉を話す雄竜に呪いをかけるお仕事もしたのだぞ! 気持ち悪かった! でも、我の創りだした勤勉な神獣の職務を疎かにするから頑張った!」



 奏は何も言わずに、ふわふわと浮かぶだけ。だがそれでいいのだ。ただ話を聞いてくれるだけで、我の癒しなのだから。ああ、本当にイイコだなぁ~。


 

 家に帰ると誰かが待ってくれているのは、思いのほか嬉しいものだ。……人の『家族』というものと同じだろうか。



 「家族……そうだ! 奏を家族にしよう。そうすれば、我も寂しくはない。それに奏ならば、既に攻撃と呪いの分野では、我を凌駕する実力を持っている。眷属でもないし、我に従順な存在というわけではないから、きっと面白いはずだ!」



 なんと良い考えだろうか。我って天才なんじゃね? まあ、創造主で神だけど!



 「そうと決まれば、奏を完全に浄化しなければならないな。しかし、我の力で浄化できる部分はもうない。後は、禍津神としての憂いを晴らさなくてはいけない。でなければ、破壊と呪いの力を制御できないからね」



 思い出したのは奏と初めて出会った日。彼女はハッキリと『もっと生きたかった』と言っていた。それは満足いく人生を送りたかったということだろう。



 「人か……。それならばまず、魂を入れる器を作らなくてはな。よーし! とっておきの器を作っちゃうぞ」



 こうして、奏と我の家族計画は始まったのだ――――













 

 器は300年ほどかけて創った。人だったころの奏を再現しつつも、所々、修正を加えた器は、我ながら良い出来である。さすが我だね!


 

 「ふっふふ……これで、後は奏を器に入れればいいだけ」



 しゃべる奏を想像していると、ふと思い浮かぶ。本当にこれだけでよいのかと。


 器は出来た。だが、この器に奏を入れて人生を送らせたとして、本当に満足のいく日々を送れるのか? いつ奏の死のトラウマが発現するのか分からないため、地球世界には送れない。それならば、クランヴォールに送るのが最善だ。奏自身が満足しなくては意味がないから、地球世界での記憶を所持させたまま送り出すつもりである。しかし、クランヴォールは奏の住んでいた世界とは常識も文化も異なる。もしも、地球世界とのギャップに苦しんで、人生を楽しめなかったら……?



 「……人は他国に住むと、故郷の味を懐かしむと言う。よし。地球世界の食文化をクランヴォールに持ち込もう! たぶん……きっと、世界への干渉にはならないはずだ!」



 そうと決まれば、行動するだけ。なんか適当な種族の夢枕に立って、色々なレシピを吹き込もう。奏が降り立つまでにレシピが混じるといけないから、種族ごとに別の種類の食文化を取り入れさせるか。



 「奏は和食よりも洋食が好きだったようだし、まずは人族領に洋食を広めるか!」







 我は約100年の月日を使って、クランヴォールの食文化を変革した。

 最高の器と過ごしやすい世界を用意した。後は奏を目覚めさせるだけだ。


 

 奏の最初に話す言葉は、なんだろうか? 期待で胸が高鳴る。


 

 家族計画を思い立った400年前と同じ、灰色の魂を器にそっと入れる。暫くして魂が器に馴染むと、長く(たお)やかな黒髪と同じ黒曜石の瞳が、ゆっくりと開かれる。そして顔を覗き込む我を見つめ、驚愕の表情を浮かべた。




 ――ベシンッ



 かと思いきや、我の頬を禍津神の力で思いっきりぶった叩いた。軽く我は数メートル飛んだ。やっぱり、破壊と呪いを司る禍津神なだけはあるね。



 「何これ、現実?」



 奏は身を起こす。そして空間を見渡し、寝ぼけているのか首を可愛らしく傾げる。



 ……ああ、やっぱり面白い! い、痛いけど!



 出会った時から変わらない奏の予想外の反応に嬉しく思った。痛む頬を抑えつつ、我は笑顔を浮かべた。



 「おはよう。我が娘よ」





・クランヴォール=タナカたちの住む世界

・黒の呪術師=オリフィエル


地球の食文化は、親バカ創造主によってもたらされました。

次は、禍津神になった奏視点です。お待ちくださいませ。

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