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世界を止めた日 

声の主、オリフィエル視点です。



 未来とは創造主である、我、オリフィエルの予測した大きな流れにそって動いている。我が今いる、地球という惑星を基軸とした世界もそうだ。


 この世界は現在、人間という種族が頂点に立っている。人間とは不思議な種族で、時折、未来を変える力を持つ者が現れる。未来を変えると言っても、ごくごく小さな事象であり、世界全体としては、さほど影響を受けるほどではない。しかし、未来を変えた人間は、人という概念とは違う力を持つようになる。一度に何十人もの話を聞くことのできる思考能力や、空間を少しだけ曲げる能力、少しだけ先を見通す予知能力などだ。


 これらの力を持った人間は、後に神と崇められたり、逆に恐れられて大罪人や魔女として処刑されたりする人生を歩む。力を持った多数の神により支配する神システム――まあ、我を会長とした会社のようなものだ――に、肉体の消滅後は取り込んで、神として、働いて貰っている。



 こうやって、世界の管理を丸投げしているのだが、偶に我自身が対処しなければいけない事態が起こる。それが今だ。




 ――消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 


 ――消えてしまえ!!




 その悲痛な叫びと共に、世界が崩壊し始める。空間を始めとする、あらゆる概念ねじ曲がり、憎悪の瘴気と呪詛で世界が黒く染め上げられる。


 我という最上級の存在が作り上げたものを壊す、破壊と呪いの化身が生まれた瞬間だった。




 「めんどくさいなぁ~」



 力を使い、世界の時間を止めた。応急処置にしかならないが、これ以上の被害は防がれる。



 我は、この騒動の元へと転移した。


 人間の運営する銀行という施設。血だまりの中に元凶たる少女はいた。髪と服は乱れて赤黒く染まり、それとは反対に顔は青白く、絶望の表情を湛えたまま肉体は事切(ことき)れていた。


 しかし、魂は死んではいない。



 「ふむ……。これから起こるはずだった未来の大きな流れを変え、人間という種族を大きく逸脱したのか。まさに神に相応しい力を手に入れた瞬間に、肉体の死を経験し、力が反転した。……哀れだね」



 死は生物にとって最大の恐怖だ。それ故、生物は本能的に死の瞬間は微睡むように精神を鈍化させる。だが、この少女は、死ぬ前に人間という種族を超えるほどの魂を持ってしまった。脆弱な人間の肉体で死を冴えわたる感覚で経験したのだ。絶望したのも頷ける。



 「……くっ。これは……酷いな。ぐちゃぐちゃだ」



 そっと少女の肉体に触れると、憎悪の感情が流れ込む。それは世界のすべてに向けられた憎しみで、我でさえ触れると気が狂いそうになる。



 ……危険な存在だな。



 我に次ぐ大きな力を得た少女の力は実に便利そうだ。しかし、あまりに攻撃的すぎる。少女の憎しみを浄化しきるには、どれほどの時間がかかるだろうか……? 一生憎しみが消えず、破壊と呪いを撒き散らすかもしれない。



 「消すのが妥当な選択か。こんな反抗期真っ盛りの少女を消滅させるなんて、骨が折れるじゃないか。……やれやれ。創造主って大変だなー。面倒だなー」



 さて、消滅させるのは、ほぼ決定として、最後にこの少女の望みでも聞いてみるかな。これだけ憎悪の塊なんだ。一体、どんなトンデモでどす黒い欲望を抱えているのだろう。興味がある。



 壊れた肉体の中に未だ存在し続ける少女の魂へと語りかける。



 「随分と、派手にやったね」



 嫌味のひとつは聞いてもらうぞ? 世界の根本から破壊し尽してくれちゃったから、これから世界の修復にどれだけの時間がかかるか分からない。ばら撒いた呪いの浄化もしなくちゃいけないし……何千年かかるんだろうな? あー、働きたくない。



 「まあ、いいや。君の望みは何? 世界を滅ぼすこと? 生きるもの全て、憎悪の心に従って駆逐すること?」



 さて、少女は何と答えるだろう?


 好奇心に胸を膨らませていると、少女は私の予想とは違った欲望を強く念じた。



 ――もっと……生きたかった……!



 世界を破壊するほどの力を得た少女が望んだのは、謙虚で、時には傲慢とも言える人間的な願い。



 「これは……ちょっと、予想外だな?」



 少女の本質は、限りなく善に近い。しかし、鮮明な死の体験により濁ってしまった。もしも少女が善の心を取り戻したら何を為すのだろう? とても興味がある。



 欲望を念じたことにより少し落ち着いたのか、少女が放つ力が弱くなった。その隙に少女の魂を読み取る。



 「名前は奏か……。いい名前だ。音楽は人間が作り出した最上級の文化だと思う。我は音楽が――とりわけクラシックが好きだからな。……とりあえず、今ここで君を消すのは止めよう」



 少女の魂を強制的に眠らせ、肉体から引きはがす。



 「一度、反転した力は戻らない。だけど、心は別だ。……まあ、可能性は限りなく低いけれどね? ダメだったら、消すだけだ。くっくっ……」



 破壊と呪いを司る災厄の神――禍津神となった少女の魂を抱えながら、我は世界を後にする。



 願わくば、この出会いが退屈を紛らわすものであるように。





奏が変えた未来は追々。

カナデの正体は禍津神でした。


次回からは、やっとシリアスがログアウトします。

お待ちくださいませ。

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