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運命を変えた日 前編

相原奏 視点

 「はい。以上で期末試験は、すべて終了となります。一番後ろの人は、解答用紙を回収して下さい」

 

 「お……終わったよ……」



 試験終了の合図と共に、私、相原奏は机に突っ伏した。一夜漬けの勉強で身体を酷使したからか、一気に疲労が襲う。


 そんな私の元に、小学生からの友人であるりっちゃんと、高校からの友人の優子がやってきた。りっちゃんはショートカットの元気な女の子で、優子はロングヘアーのお嬢様みたいな女の子だ。私を含めて正反対の3人だけど、とっても仲がいい。たまに喧嘩もするけどね。



 「やっと試験が終わったねぇ~、奏っち」


 「試験なんて無くなればいいのに……」


 「奏さん。まだ高校2年の秋ですよ。それに3年になれば、大学受験へ向けた模擬試験も頻繁に行われます」


 「だよねぇ~」



 試験への恨み辛み吐き出すと、二人に呆れられた。



 「りっちゃんは突き抜けたお馬鹿だし、優子は頭がいいから、そんなこと言えるんだよ!」


 「奏っち……覚悟ぉっ!」


 「はぎゅぎゅぎゅぎゅ」



 りっちゃんに首を腕で絞められて、私はもがく。それを優子は、おっとりとした表情で見ている。……いや、止めようよ、優子! りっちゃんは現役運動部だから、力が強くて、めっちゃ苦しいんじゃ!



 「利香さん。ほどほどにしてあげてくださいねー」


 「あいよー」

 

 「ぎぶでしゅっ!」



 りっちゃんの腕を必死に叩いていると、やり過ぎたことに気づいたのか、「ごめんね~」と言いながらりっちゃんは拘束を解いた。



 アマゾネスって呼ぶぞゴラァ! 心の中でな! 



 「奏っちだって、前のテストは凄い頑張っていたじゃん」


 「あれは親に新しいスマホを買ってもらうためだしぃー」



 私はポケットから真新しいスマホを取り出す。薄くてコンパクト。機能もシンプルな最新型だ。ケースも新しく、大好きなクマのキャラクターにした。



 「いいかんじ?」


 「んー、まだ使い慣れてないからなぁ」


 「わたくしは、まだガラケーなので……羨ましいです。父が『お前にはまだ早い!不良になる』と言って……頭が固くて困ってしまいます」


 「優子は絶滅危惧種だね」


 「優子っちは、もうすぐ誕生日じゃん。その時にお願いすれば買えるって!」


 「だといいですけど……」



 ガールズトークに花を咲かせていると、いつの間にか教室には私たちだけになっていた。今日はテスト期間最終日で、午前中に学校が終わるため、みんなどこかへ遊びに行っているんだろう。



 「ねぇ。この後、3人で遊ばない?」


 「ごめんなさい、利香さん。わたくし、これからお稽古が……。昼食を取る時間ぐらいなら、ありますけれど」


 「ごめん、りっちゃん。これから、私は用事があるんだ。ご飯なら一緒に食べられるけど!」


 「奏っちは、バイト始めたんだっけ?」


 「うん。でも今日はバイトじゃないよ? 初給料で予約しているケーキを引き取りに行くのだ!」


 「ケーキとか、デブになるよ?」


 「私は、別に甘いものが特別好きなわけじゃないし。りっちゃんの言う通り、太るしね。ケーキはね、お母さんが洋菓子大好きなんだよ」



 どちらかと言えば、お菓子よりもポテトチップスとかの方が好きなんだよね。梅ウナギ味の期間限定ポテトチップス、帰りに買って行こうかな?……いや、でも買ったらデブになるか!?



 私が悶々と思考していると、優子が頬に手を当てながら疑問を投げかける。



 「どちらの洋菓子店へ行かれるのです?」


 「駅前のブロッサムってところ。チーズケーキで有名なお店だよ!」


 「ああ、テレビで紹介されてたよねぇ」


 「黄昏の月……でしたか?」


 「そうそう。ケーキなのに和風な名前で変わっているよね」


 「じゃあ、ランチは甘いものを食べよう!」


 「ファミレスで決定だね! それでは行くぞ、りっちゃん、優子!」


 「ガッテンだ!」


 「ふふっ、楽しみです」




 私たちは学校を出て近くのファミレスでご飯を食べた。ドリンクバーで色々なジュースを混ぜたり、フライドポテトの取り合いをしながら、楽しく過ごし、りっちゃんと優子と別れて洋菓子店へと向かう。



 「あっ……給料をおろさなきゃ」



 予約しているチーズケーキは、まだ支払をしていない。給料をおろすには、洋菓子店のほど近くにあるコンビニか、少し離れたところにある銀行に向かわなければならない。



 コンビニの方が近いけど……手数料かかるの嫌だし、銀行に行こう。時間に余裕もあるしね。




 「うふふん~♪ 初給料~♪」


 

 私は他人に聞こえないように小さく歌いながら、銀行へと向かった。









 

 銀行の中は、とても賑っていた。平日の昼間だからか、大人が多い。たぶん、会社の関係で銀行に来ているのだろう。


 私は窓口には向かわず、ATMへに向かう。ATMは複数あるが、長い行列が出来ていた。私は最後尾に並ぶ。



 「ドドソソララソ、ファファミミレレド、ソソファファミミレ……」



 視線を下に向けると、私の前に並んでいる5歳ぐらいの男の子が、楽譜を齧りつくように見ていた。その真剣な様子にクスリと笑みを漏らすと、男の子と一緒にいる、母親であろう品のいい女性がペコリと私に頭を下げてきた。慌てて私も頭を下げる。ATMの順番が来るまで、まだ時間があるので、私はなんとなく男の子に話しかける。



 「キラキラ星? 楽譜読めるなんてすごいね」



 純粋に私は男の子がすごいと思った。



 ……私はこのぐらいの時、楽譜読めなかったもん。鼻水垂らしながら、馴染みのカズくんと公園で遊びまわっていたよ。最近の子ってすげぇ。



 「ありがとう、お姉ちゃん! もうすぐね、ピアノの発表会があるんだ!」



 男の子は照れくさそうに私へ笑顔を向ける。ほのぼのするわー。



 「おお! がんばれ!」


 「うん! いそがしいパパがね、この日は絶対に見に来てくれるって言っていたんだ!」



 お父さんは多忙なのか。そう言えば、この子の着ている服、すごくオシャレなデザインだね。たぶん、ブランドものだよね。お坊ちゃまか! お母さんも上品だもんね。これがブルジョワオーラか……。庶民には眩しいぜ!



 「それじゃあ、いっぱい練習しなきゃだね」


 「ぼくが1番になるんだ!」



 上昇志向だね。この子……大物になるんじゃないかな! 今のうちにサインとかもらっておいた方がいい? 



 馬鹿なことを割と真面目に考えていると、ATMの順番が回って来た。私は財布を取り出そうと鞄の中を探っていると、背後から聞きなれない大きな音が聞こえた。



 ――パンッ



 振り返るとそこには、大柄な男たちが、黒い物体――銃を持って立っていた。そして銃を私を含める銀行内にいる人達に突きつけ、命令を下す。



 「妙な真似はするな、大人しくしろ!」



 私は鞄から財布を落としたが、それを拾うことも出来ずに立ちすくむ。全身をゾワリと悪寒が駆け巡り、冷や汗がドッと吹出す。足をカタカタを震わせながら、ただ大人しく、目立たないように、成り行きを見守る。



 これ、映画の撮影? ドッキリ? 




 そうこうしている内にあちらこちらで悲鳴が上がり、逃げ出そうと駆け出す人が続出した。



 ――パンッパンッ



 男の1人が、私たちを脅えさせるように、銃で壁に穴を開けた。紛れもない現実だと、男たちは容赦なく私たちへと行動で示したのだ。逃げようとしていた人たちはピタリとその場で動かなくなった。銀行内は静寂に包まれる。



 日本って銃の所持は禁止されているじゃん。なのに、どうして……こんなことに! 訳が分からないよ、こんな非現実的な事!



 混乱しながらも、頭の片隅で冷静な自分が囁く。

 たとえ安全な国と呼ばれているこの日本でも、犯罪は日々起きている。ニュースでは毎日のように違う事件が取り上げられ、殺人事件だって珍しくない。災害で一瞬にして多くの人が亡くなることがある。


 ただ、今まで私の身近で起こっていなかっただけで、理不尽に人は死んでいるのだ。私にだけ、その理不尽が襲い掛かることがないという保証などない。自殺で無いかぎり、死にたくて死んだ者などいないのだから。



 「この銀行は俺たちが制圧した! お前たちは、俺たちの人質だ」





 リーダー格であろう男が、ニヤリと笑みを浮かべながら無慈悲に私たちの命を握っていることを宣言した。






真相編始まりです。

カナデの過去。相原奏時代のお話です。


次回に続きます。お待ちくださいませ。

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