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女魔法使いは巨人島へ出張に出かけました 中編

 村に帰った私は、直ぐ村長に自警団を鍛える許可をもらった。ちなみにグルーミーラビットの肉は村で権力がありそうな奥様に渡した。伊達に権力者に囲まれて仕事をしていないよ。力のある人を見極めるのは得意だよ!べ、別に肉を持ち帰って村のイザコザに巻き込まれたくなかった訳じゃないんだからね!



 夕食は奥様から貰ったグルーミーラビットのシチューを食べた。

 美味しい……がやっぱり具がデカい。



 そして滞在三日目。自警団メンバーを浜辺に呼び出した。11人全員来ているみたい……良かった。自警団が超級の魔物を倒せるぐらいに強化しなきゃいけないからね。そのために今日から訓練を始めるよ。私は軍人でないので自己流だ。鬼軍曹設定も正直言って付け焼刃、ぶっちゃけその場のノリである。あまり気が乗らないよぉ。



 「集合!」



 私の声替えに応じたのは5名だけ。他はわざと聞こえないふりをしたり、私を睨んだりと様々。もちろんリーダーっぽいマルセルもだ。お前ら小学生男子か!まったく自覚が足りない。今は世界の危機なんだぞ!だから私もやりたくない鬼軍曹になったんだからね!


 ピコピコハンマーを取り出す。それを見た者たちは脅えた表情を見せる……遅いよ、命令を聞かない奴らにはお仕置きしないとねっ。


 まるでモグラたたきをするかのように、私は殴りかかった。



 「「ぶふぉぉっ」」


 「「がふはぁぁっ」」


 「「きゃうんっ」」



 6つの巨体が転がった。またつまらぬモノを叩き潰してしまった……なんてね!それにしても起き上がらないな……うわぁっ気絶してるし、軟弱な。こりゃ今日の訓練は出来ないなぁ。



 「おい、ゴミクズ共!」


 「「「何でしょうか、軍曹殿!」」」


 「今日の訓練はなしだ。貴様らよりもゴミクズな奴らのせいで、私の貴重な時間が無駄になった。そいつらを村まで運んで行け……明日もそいつらが私の命令を聞かなかったら、貴様らも連帯責任で罰を与える。もちろん今日の比じゃない特別なやつを、だ。判ったらさっさと動け!!」


 「「「イエス、マム!!」」」



 膝がガクガクしているの何て見えない。目の錯覚よ!


 倒れたゴミクズたちを運ぶのを見送り、訓練1日目は終わった。







 訓練二日目。


 「集合!!」


 私が声をかけると、自警団メンバーが私の元へ駆け寄って来た。それぞれの顔を確認すると、大半が脅えた顔をしていた。だがマルセルを含めた数人が集合こそしているが、反抗的な目をしている。従順なだけじゃ戦いは生き残れないからね。その強い意志が良い方に傾けばいいけど。



 「よし、全員武装を解除!身に着けている防具及び武器を包み隠さず出せ!!」


 「はぁ!?それでどうやって魔物を倒せるような訓練が出来――ばぶぉふぉっ」



 思わずと言った風に怒鳴るマルセルに、私はピコピコハンマーをぶち込む。あっ、ちゃんと加減しているよ。昨日みたいに訓練中止になるのは嫌だからね!



 「ゴミクズに武器が必要だと?馬鹿は休み休み言え……それで?貴様らは私の命令が聞けないのか?」


 「「「イエス、マムッ」」」



 防具と武器がまるで山のように積み上がる。さすが巨人仕様、デカすぎる。



 「まずは砂浜ランニング、30往復だ!!」


 「「「い、イエス、マム!」」」



 不満に思いつつ、命令に従う自警団メンバーたち。しかしコレにも理由があるのだよ。村長曰く、巨人族は魔法が使えないそうな。私が思うに、使う必要が無かったのかなと思う。弱い魔法なら簡単に弾きそうな肉体を元々持っているからね。魔法が使えないなら、身体を鍛えるしかない。まずは基礎体力作りだ。最近は酒浸りで碌に身体を動かして無いと思うしね。



 ランニングの様子を観察していると、割と真面目にやっているらしい。ほんの15分ほどでランニングは終わった。さすがに若いだけはあるね!



 「次は準備体操とストレッチだ。これを疎かにした奴は後で泣きを見るぞ!」


 「「「イエス、マム」」」



 前世の体育の授業を思いだしながら、私自ら見本を見せる。本当はラジオ体操やりたかったんだけど、腕を交差させるやつしか覚えてないや。小学生の頃はハンコを貰いに夏休みは毎日やっていたのにな~。



 「次は腹筋1000回、腕立て1000回、背筋1000回だ!!」


 「「「い、イエス、マム」」」 



 筋トレをする巨人……シュールだわ。腕立てをしている巨人の中で、腕を曲げて楽しようとしている奴がいた。私は容赦なくピコピコハンマーで制裁を加える。楽をしたら意味がないからね!それを見た他のメンバーは青ざめながら真面目に筋トレを続行した。真面目な事はいいことだ。



 「人間のおねーちゃん!!」



 私の背後に大きな樽を抱えた子ども達(ただし巨人)がいた。私は鬼軍曹モードを解除してにこやかに応対する。



 「早かったね。ちゃんと頼んでいた仕事はしてくれたかな?」


 「うん。がんばって水汲んだよ!」


 「えらいね。それじゃ、ちゃんと仕事をしてくれた君たちに私からの報酬だよ」



 私は亜空間から南国フルーツ各種(ただし巨人サイズ)を子ども達に渡した。



 「わぁああ、フルーツなんて久しぶり! お姉ちゃんありがとう!!」


 「どういたしまして」



 ニコッと笑い、フルーツを抱えて嬉しそうに村に戻る子ども達を見送った。その様子を見ていたのか、自警団メンバーが信じられないとばかりに口をポカンと開けている。失敬な、これが素じゃい!



 「何を見ている? さっさと筋トレを終わらせないか、ゴミクズ共が!!」


 「「「い、イエス、マム~!!」」」



 筋トレを再開した自警団メンバーに背を向け、私は子供たちが運んできた樽を確認する。よし、数も量も申し分なしっ。亜空間から魔の森で採取したレモンを取り出し、風魔法を使ってスライスする。それを樽の中に放り込み、即席レモン水を作った。



 「筋トレが終わった者から休憩に入れ……ただし、適当に済まそうとしたら休憩は無しだ」


 「「「イエス、マム!!」」」



 必死に筋トレを終わらせたメンバーが、レモン水をがぶ飲みしていた。まあ、水分補給は大事だからね。これは訓練であってイジメじゃないし。




 とうとう残り一人になった。必死に筋トレに励んでいる最後の1人――一番小柄な少年に私は近づいた。ああ、グルーミーラビットに真っ先に殺されそうになっていた子か。


 私を見ると、彼は脅えた顔ではなく恥ずかしそうな顔をした。



 「すみません、軍曹殿。自分は一番体力も力もないので……本当にゴミクズみたいな男なんです」



 眉を下げ、本当に申し訳なさそうな表情だ。根暗か!



 「無駄口を叩いている暇があるのなら、早く終わらせるように身体を動かせ…………私の訓練に最後まで付いてくることが出来たのならば、お前のゴミクズのようなくだらない悩みも解決するだろう。それまで余計な事は考えずに喰らいついて行け」


 「イエス、マム! ありがとうございます、軍曹殿!!」



 うん、頑張んなよ!私も訓練メニューとかサポートとか頑張るからね!


 少年も筋トレが終わり、水分補給をした後、私は再度命令した。



 「休憩終わり!ランニング200往復!!!」


 「む、無理……」


 「返事は?」


 「「「イエス、マム……」」」



 悲痛な表情でランニングを開始する自警団メンバー。さすがにキツイのかな?でもこれぐらい簡単に出来るようにならないと、魔法なしで超級の魔物と戦うのは難しいと思うんだよねー。



 大体150往復ぐらいしたところで私は声をかけた。



 「ランニングが終わったら食事にする。食べたい者は早く終わらせろ!!」


 「「「イエス、マムッ」」」 



 全員が終わらせたところで私は集合をかけた。



 「年齢順に4・4・3に分かれろ!!」


 「「「イエス、マム」」」



 食事はメンバーとの絆を深めるいい機会だと思う。ほら同じ釜の飯を作った仲とか言うじゃん?今日は年齢順だけど、日替わりでメンバーを変えて全員と交流出来るようにしようと思う。戦う仲間だからね。信頼できなきゃ連携も上手くいかないだろうし。


 私は亜空間から魔物の死骸を取り出す。昨日の内に狩っておいたのだ。私の亜空間は時間停止機能も付けているから、死にたてホヤホヤだよ! 



 「各チームごとに、この魔物を調理してもらう。野営の練習だからな。塩とマッチ、それに解体用ナイフは此方で用意したが、他はこの浜辺に在るものを使って調理しろ。今日は私が用意したが、森に入るようになれば自分たちで狩って来てもらうからな。判ったか!」


 「「「イエス、マム!!」」」



 久方ぶりの肉で嬉しいのか、自警団メンバーは笑顔だ。身体作りはよい食事からだよ!


 各チーム趣向を凝らしながら料理を始めた。捌いた肉に塩をふりかけ、豪快に焼いたチームもあれば、捌いた肉を浜辺で採取したハーブと一緒に大きな葉で包み、蒸し焼きにしたチームもある。個性が出ていいね!


 私はそれらを見守りつつ、人間領で狩った普通サイズの魔物を調理した。料理は得意じゃないからね、ただの塩焼きだけど。軍曹特権でレモン汁をかけて齧り付いた。新鮮な肉はうまいな!亜空間万歳!!



 食事が終わると、私は鬼軍曹モードに戻り、命令する。



 「後片付けが終わったら、素振り3000回だ!!それが終わるまで村には返さないからな!!」


 「「「イエス、マムッ」」」



 でも私は早く帰りたいから、できるだけ早く終わらせてね!









 訓練5日目。


 今日はいつもの基礎体力作りに加えて組手を取り入れることにした。大分余裕が出来てきたみたいだからね。反抗的だった面々も徐々に態度が軟化している。子ども達が水を毎日届けていることと、村の皆が応援しているからだと思う。俺たちが村を守るんだっていう郷土愛は重要だよね、うん。



 何時ものようにお昼ご飯の後に私は集合をかけた。



 「この後は何時もなら素振りだが、今日からは組手をしてもらう。貴様らの相手はコイツだ!!」



 私は魔法でクリスタルガ●ダムを構築する。いつもより大きい15メートル級だ。魔王討伐の時より改良が進んでいて、一流の拳闘士の格闘術が組み込まれている。次は空を飛ぶ機能を付けたいな~。そんな訳で、自警団メンバーの相手はクリスタルガ●ダムにお願いするよ!私は素人だからお話にならないしね!



 「す、すげぇええ」


 「カッコいい……」



 そうだろう、そうだろう。渾身の出来だからね!しかも元ネタが世界のガ●ダム様だから、カッコよくない訳がないのさ!



 「貴様らには一人ずつ、このクリスタルガ●ダムと戦ってもらう。1人が戦っている間、他の奴らはその戦い方を見て良い点と悪い点を見つけ、お互いに意見交換しろ。判ったな!」


 「「「イエス、マム!!」」」



 さすがにクリスタルガ●ダムを複数作ることは出来ないからね。まあ、お互いに意見を言い合い、情報を交換する練習になるよね。



 「それでは……始め!!」


 「うぉぉおおお」



 最初にクリスタルガ●ダムに挑んだのはマルセルだった。一番に突撃するあたり、リーダー気質だよね。あっ、投げ飛ばされた。



 「くそぉぉおおお」



 日々の訓練と砂浜の柔らかさのおかげか、マルセルに怪我はない。頑丈だな~。そんなマルセルに仲間たちは駆け寄り、意見交換をしている。ああ、ちゃんと悪い所も言っているのね。確かに大声で突撃したら駄目だわ。


 そうしてクリスタルガ●ダムが千切っては投げを繰り返し、3周目になった。3周目の最後は、あの少年である。時間的にコレが最後かな。



 向かい合った少年はクリスタルガ●ダムに正面から突撃……と見せかけてクリスタルガ●ダムの足の間を潜る。虚を突いたと思われたが、クリスタルガ●ダムは機械的に体制を整え、右腕を振るった。


 しかしそれはただ空気を切り裂いただけで、少年には当たらない。少年は既にクリスタルガ●ダムの左側に回り込んでおり、拳を振り上げていた。



 ――――ドカッ



 少年の拳がクリスタルガ●ダムの左肩にめり込む。自警団メンバー初のヒットだ。



 「おおっ!!」



 歓声を上げる自警団メンバー。少年もまさか当たるとは思っていなかったのか、驚いた表情を見せる。しかしそれが油断に繋がったのか、身体を捻り、体勢が崩れたままクリスタルガ●ダムは少年に蹴りを入れた。そして少年は真横に吹っ飛んだ。クリスタルガ●ダムの勝利である。



 腰を擦る少年に私は近寄った。


 

 「何故、左側に回り込んだ」


 「えっと、初撃で不意を衝こうとして背後に回ると氷の巨人さんは右腕で攻撃することが多くて……だから左に回り込めばいいのかなと」



 へぇ……ちゃんと考えて戦っているんだね。この子は参謀とか指揮官に向いているかも。



 「ゴミクズ、貴様の名前は何だ」


 「!? ルイです、軍曹殿!」


 「覚えておこう……今日の訓練は終了だ。各自、後片付けをして解散!!」


 「「「イエス、マムッ」」」



 クリスタルガ●ダムを消して、私も村長宅に戻る準備をする。少年――ルイは自警団メンバーに肩を叩かれて褒められている。いいね、男の絆って感じで。団結力が深まっているようで何よりだ。鬼軍曹も嬉しいよ!









 訓練9日目。


 基礎体力作りの前に座学を入れることにした。脳筋っぽいメンツが多い自警団だ。座学は1日30分にすることにした。



 「今日説明するのはフォーメーションについてだ。私も専門ではないから詳しくは教えられないが、基本を知っているのと知らないのでは戦闘時に大きく影響が出る」


 「まず探索の際、先頭は危機察知に優れたものがいいだろう。逆に最後尾はバランスのとれた強さを持つ実力派のアタッカーが望ましい。戦いの際は、前衛には剣やナイフ、槍を扱う近接戦闘に特化した者、後衛は弓などの遠距離攻撃が出来る者を置くのが基本だ。奇襲を防ぐためだったり、戦闘の状況からこれを変える事もある。その際に作戦を提示するのは、指揮官だ。リーダーが兼任することもあるがな。指揮官は仲間に指示を出し、戦闘はなるべく避けるべきだ。どうしてだか判るか?」


 「わかりません、軍曹殿! 攻撃役は一人でも多い方がいいと思うっす!!」



 マルセルが手を挙げて発言した。うん、マルセルも変わったよね……丸くなったと言うか、何と言うか。



 「全員が攻撃に回ったら大局を見る者がいなくなる。それでは危険を察知する事も難しいし、全体を見た冷静な判断も出来なくなる。敵の罠にはめられたり、フォーメーションが崩れたりと戦闘が乱れ厳しいものとなることもあるだろう。結果的には貴様らが生き残る確率が下がる訳だ」


 「つまり指揮官の指示に従っていれば生き残れるということっすね!」


 「概ねそうだ。しかし、指揮官の指示に従っているだけではダメだ。指揮官だって間違える時もあるし、やむを得ず戦闘に参加する事もある。そういった時に必要なのがリーダーだ。リーダーは指揮官と他の仲間の間に立ち、橋渡しをしなければならない。時には生死を賭けた決断も委ねられることもあるし、戦いの際には味方の士気を上げ信頼を勝ち取らなければならない。とても重要な役割だ」


 「軍曹殿。我々は指揮官もリーダーもいません。だから森で魔物を狩れなかったのでしょうか」



 ルイがピシッと手を挙げて発言した。



 「それもあるが……何より信頼関係がなかった。自分勝手でバラバラ。今まではそれで魔物を狩れていたのかもしれないが、強い魔物には通用しない。奴らには知性があるからな。それは私と森に行った時にグルーミーラビットに遊ばれて判っただろう?」


 「はい……僕は軍曹殿がいなかったら死んでいました」


 「そうだな。魔法の使えない人間は戦略を練り、集団で魔物に挑む。それは弱いからではない。生き残り勝者となるためだ。巨人族は確かに人間よりも単体では強い身体能力を持つだろう……だから単独で魔物を狩るのか?強い者たちが集まり協力すれば、とんでもない力になるとは思わないか?弱者の真似をして何が悪い。お前たちは何のために訓練をしている?」


 「「「魔物を倒し、村を守るためであります」」」


 「ゴミクズにしてはいい返事だ。マルセルをリーダーに、ルイを指揮官に任命する。これは命令だ!」


 「「え? イエス、マムッ」」


 「お前たちがこの自警団の柱だ。そして他のメンバーは2人を支えろ!」


 「「「イエス、マムッ」」」


 「本日の座学はここまでとする。それではリーダーを中心に、いつもの訓練メニューに移れ」


 「「「イエス、マム」」」









 訓練11日目


 今日から午後の訓練は実際の武器を使うことになった。前衛組と後衛組に別れて行った。後衛組は動く鳥や的を矢で射ていたため、怪我は少ない。しかし前衛組は傷だらけだ。


 

 「やぁああっ」


 「どりゃぁああ」



 剣だけじゃなくてハンマーや斧を使うんだね……バリエーション豊富だなぁ。見守っていると、剣同士で切り合っていた奴らが悲鳴を上げた。



 「うきゃぁあああ」


 「お、おい、大丈夫か!」



 ザックリと切られて血を流す巨人……うーん、スプラッタ。私は近づき、治癒魔法をかける。すると傷は完全塞がった。今回は私がいたから良かったけど……いつまでも私がいる訳じゃないし。



 「体調はどうだ?」


 「へ、平気であります!軍曹殿!!」


 「ゴミクズが……次からは気を付けろ。訓練止め!全員集合!!」


 「「「イエス、マム」」」


 「今から応急手当の訓練をする。仲間だけではない、自分が生き残るために必要な事だ。真面目に聞け、判ったか!!」


 「「「イエス、マム!!」」」



 こんな時に高校で受けた救急救命の講習が役に立つなんてね。真面目に受けていて良かった~。











 訓練15日目。



 「今日から午後は森に入って魔物を討伐する。だがまだ奥にはいかない。今回は自分の役割を確認し、集団の戦闘に慣れることが目的だ。魔物が現れても焦るな、仲間を信じろ」


 「「「イエス、マム!!」」」



 私は少し離れた所から飛行魔法で追いかける。なんで歩かないのかって?歩幅が違うんだよ!鬼軍曹だけど人間だからね。


 先頭は、自警団メンバーの中で一番回避能力が高くビビりなピーターが勤めている。最後尾は一番の実力を持つマルセルだ。リーダーが後ろにいるって安心するんだろうね。ロイは真ん中で前後左右を守られている。それは指示を出しやすいって事でもある。成長したね!



 「き、来たぁ」



 ピーターの声の後に草むらが揺れる。そこから現れたのは奇しくも私が最初に森に入った時に戦ったグルーミーラビットだった。あの時と違うのは、数は4体だということだ。増えとるがな。皆、頑張るんだ!!


 

 「戦闘準備!!」



 ルイの掛け声と共に武器を構え戦闘態勢に移る。前衛と後衛に別れた基本的な配置だ。



 「うぉぉおおおお、突撃!!」



 マルセルが咆哮と共にグルーミーラビットたちへ襲い掛かる。以前ならただの無意味な特攻だっただろう。しかしマルセルの陰に隠れてビビりのピーターが追随している。一見無意味な咆哮も自身を囮にするため。危険を自ら買って出るなんてマルセルらしいね。


 マルセルが中央にいたグルーミーラビットに切りかかる。グルーミーラビットは豪快に切り裂かれ、死んだ。他のグルーミーラビットが剣を振り切って隙の出来たマルセルに襲い掛かるが、隠れていたピーターがそれを斧で受け止め、軽い手傷を負わせた。



 「放て!!」



 ルイの叫びと共に矢が放たれる。マルセルとピーターは素早く後方に引いた。仲間を殺され冷静さを失っていたグルーミーラビットたちは矢に気づくのが遅れた。3匹の内1匹が矢に脳天を刺されて死んだ。残りの2匹もかなりの手傷を負っている。


 逃げようとするグルーミーラビットたち。しかし、ルイの冷静な指示が飛ぶ。



 「ピーターさんは退路を塞いで、残りの前衛組は二手に別れて敵を攻撃。後衛は援護準備と周囲の警戒!」


 「「「了解!!」」」



 2匹のグルーミーラビットは前衛組に倒された。

 以前は手も足も出なかったグルーミーラビットが、4匹も自警団によって倒されたのだ。



 「「「や、やったぁああああああ」」」


 「夢、じゃない。夢じゃないんだー!!」



 自警団メンバーは歓喜に震えた。皆、よくやったよ。まだ森の中だとか、魔物を早く回収しろとか鬼軍曹は空気の読めない事は言わないよ?明日は言うかもしれないけどね。


 この後、2回ほど魔物と戦い、村へと帰還した。


 私の狩った魔物ではなく、自警団が狩ったということで村も歓喜に湧いた。自警団メンバーを息子に持つおば様達にはすごい感謝された。背中を叩くノリで殺されそうになったわ!私、人間!!


 今日は御馳走だね!





♢ 





 訓練20日目――超級の魔物討伐日。


 

 いつもの訓練の時間に集まった自警団メンバーは、緊張した面持ちだった。この5日間は魔の森に狩りに出かけ、初日と同じように誰一人欠けることなく狩りに成功していた。これは自警団メンバーたちの自信にも繋がっただろう。しかし、今日の相手は超級の魔物。今まで相手にしてきた魔物とはレベルが違う。それでも自警団メンバーは戦うだろう、私がそう仕込み、技術を与えたのだから。


 さて、今日で私の鬼軍曹の役目を終わりにしようじゃないか!!



 「貴様らはこの20日間、一人も脱落することなく私の訓練を生き残った。正直、驚いている」



 強い目で私を見返す自警団メンバー。本当に成長したね。



 「私に反抗し、殴られた者もいたが、訓練を逃げ出す事はなかった。それはお前たちの強くなりたい、守りたい、生き残りたいという強い思いからだろう。その思いだけで実力の伴っていなかったゴミクズのような貴様らは、私の予想を超えて訓練を耐え抜いた。そして今、貴様らは強い思いとそれを叶えるだけの実力を持っている。もう……ゴミクズは卒業だな」


 「「「軍曹殿……」」」


 

 涙を浮かべる自警団メンバー。私も泣きたいよ!ここまで成長するとは思っていなかったからね。でも私は鬼軍曹。まだ、泣けない!!



 亜空間から11もの武器を取り出す。どさりと置かれたそれは剣や斧、ハンマーや弓など多種多様だ。しかしそれらに共通している事、それは巨人サイズだということだ!



 「私から貴様らへの訓練を耐え抜いた褒美だ!!」


 「これは……」



 高価な素材は使われていないが、私が一人一人の戦い方や癖に合わせて創りだした最高の武器だ。切れ味を良くする効果とかしか付与出来なかったけれど、私の思いは込められている。



 「貴様らの個性に合わせて私が創りあげた。気に入らなかったら、捨ててかまわない」


 「「「あ、ありがとうございます、軍曹殿ぉぉおおおおお」」」


 「涙は今日の勝利のために取っておけ! 貴様らはゴミクズではない!!」


 「マルセル、ルイ、ピーター、ポーロ、ランディ、ルノー、サリム、シモン、ティメオ、ヨルゴ、アルドは勇猛果敢な戦士だ!そして決して一人ではない、信頼できる仲間がいる!!それを胸に刻み、戦え!!これは私の最後の命令だ……超級の魔物を狩り取り、誰一人欠けることなく帰還しろ!!」


 「「「イエスッ、マムッ!!」」」



 武器を掲げ、魔の森へ向かう自警団メンバー。その背中には恐れなど感じられない。絶対、絶対に無事に帰ってくるんだよぉぉぉおおお。





 そして巨人族の若者たちと超級の魔物の戦いは始まった――――





暑苦しい内容になりました。

今までとノリが違くない?どうしてこうなった。

本当はサラッと鬼軍曹の訓練は書くはずだったんです。

でも自警団メンバーの成長を書きたいし……でこんな量になりました。

カナデは軍人じゃないので、本格的な訓練内容を望む人には物足りないかもしれませんね。申し訳ないです。


次こそ後編です。それと日刊1位ありがとうございます。

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