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女魔法使いVS芋虫王

 サヴァリスと交代で見張りをしながら睡眠をとり、心と身体を休める。十分に体調を回復させ、謎のログハウスを出て、私たちは迷宮の攻略を再開した。



 「魔物の気配が無くなりました。そろそろこの階層の主が現れるかもしれません」


 「森だからねー。大きいクマとかかなー」



 草をかき分け、森を出た先は広い草原だった。だがその草原の中央に、天まで届く大樹がそびえ立つ。……ジャックと豆の木に出てきそうなぐらい高い木だね。


 ボケッとしながら木を見ていると、隣でサヴァリスが剣を抜き、戦闘態勢に入った。



 「上から来ますよ、カナデ」


 「えっ」



 私が上を見上げるよりも早く、草原にズドーンッと巨大な何かが落ちる音がした。同時に砂埃が舞い、視界が塞がれる。



 「ケホッ、ケホッ……」



 咳払いをしながら、視界を確保するために風魔法を展開する。


 草が刈られ、大きく抉れた地面の中心に魔物がいた。


 その魔物はデカい芋虫だった。体長15メートルは超えるであろうベージュ色の巨体。くねくねと身体を弛緩させながら、不規則な動きを繰り返している。


 芋虫はぐにゃりと身体を捻り、私たちの元へ顔を向ける。円形の口はギザギザの歯が開閉を繰り返し、目はカメレオンのようにギョロギョロと左右で別な方向を向いている。そして良く見れば、ベージュ色の身体に半透明の体毛が生えていた。



 ゾクリと背筋が凍る。



 「……き、ききき、気持ち悪いよぉぉぉおおおおおおおお!!」



 何なのアレ! キモいよ、グロイよ、不気味だよ!



 「超級の魔物、ワームキングですね。以前、倒したことがあります。さすがに、こんなに大きい個体は初めて見ますが……」



 これ、ワームなの一種なの!? 確かにワームが巨大化したらこんな感じかもしれないけど。無脊椎のくせにこの巨体って謎すぎるわ!



 ワームとは、芋虫型の最弱の魔物だ。サイズは大きくても10センチ程度。とても弱いため、小さな子供でも倒せる強さしかないが、如何せん、ワームは雑食。作物、木材、石など、なんでも食べる。私も実家の畑で作物を荒らすワームを手製の箸で摘まんで駆除していた。



 「では、倒しましょうか」



 サヴァリスがワームキングを切り刻もうと剣に魔力を纏い始めたところで、私は大きな叫びを上げた。



 「ダメ! サヴァリスは攻撃しないで! 私がどうにかするから!」



 ワームの体液は、かき氷のブルーハワイシロップのような青色でたまごの腐った匂いがする。あれだけ見た目が似ているんだ。たぶん、ワームキングの体液も同じだろう。



 ……サヴァリスに切り刻まれたら、あの巨体から体液がブッシャーと巻き散らかせるはず。そんなのは気持ち悪いものを見るのは、絶対に嫌だよ!あの体液は一度付着したら、色も臭いもなかなか取れない。万が一、身体に体液がかかったらと考えるだけで悍ましい! それに臭いを嗅ぐのも絶対に嫌だし、そんなグチョッグチョな死体になったワームキングを亜空間に収納するのは、もっと嫌!!



 「分かりました。では、すべてカナデにお任せしましょう」



 サヴァリスは剣を鞘に納め、万能結界を張りワームキングから離れた。



 攻撃が最大の防御を地でいくサヴァリスが万能結界を張った……だと……? やっぱり、体液がめっちゃ臭いんじゃん! 嫌だよぉ。なんでワームキングがボスなんだよぉ。




 ――ギッシャァァァアアアアアアアアアアア




 ワームキングが咆哮を上げながら、私へと突進してきた。



 顔は凶悪なのに、うにょうにょ動いて気持ち悪いよ!



 「たたた、退避ぃぃいいいいい!」



 慌てて浮遊魔法でワームキングの手出しできないであろう上空へと逃げる。そして神属性魔法を展開し、突き刺したものを全て消滅させる白銀の剣を創りだす。



 ふっひゃひゃひゃ! 私には奥の手があるのだよ、芋虫風情が! 存在を木端微塵じゃい!



 白銀の剣を突き刺そうと狙いを定めていると、地上からサヴァリスが声を張り上げる。



 「カナデー! 討伐の証拠を残すことが義務付けられているので、消滅は止めて下さいねー!」


 「ちょちょちょっ! 今、それ言う!? 私の振り上げたこの剣は、どうすればいいのさ!」


 「捨てて下さい」



 キッパリと良い笑顔でサヴァリスは言った。



 「こんちくしょぉぉおおおおお!」



 私は森へ目がけて白銀の剣を捨てた。遠くで爆発したかのような音が聞こえる。確かあの方面はログハウスがあった場所だ。……まっ、いいか。もう泊まることはないだろうし。



 少し気を抜いていたからだろうか。先程までワームキングが居た場所に目を向けると、そこには何も無かった。



 消えた……!?



 周りを見回し、ワームキングの姿を探す。



 どこ行った、芋虫!



 ふと、影が差した。何事かと上を向くと、ワームキングが上空から私へと降ってくるところだった。



 い、いつの間にぃぃいいい! というか、直撃コース!!





 ――ズドーンッッ



 咄嗟に万能結界を張ったため、地面に叩きつけられたが怪我はない。



 ……私がポイ捨てして油断しているときに、めちゃくちゃ背丈の高い木に登って、上から攻撃をしかけたんだね。なんて素早くて頭のいい芋虫!



 体勢を立て直そうとするが、万能結界越しの視界が白一色に染まる。外からはシューシューと何やら不気味な音がした。



 ……も、もしかして、ワームキングが糸吐いてる!? 何それ、きもっ! 体内で生成されたものを吐いているでしょ!? ゲロじゃん! 絶対、臭いよ!


 

 そうこうしている内に、万能結界の外はワームキングが吐いた糸で完全に覆われた。おそらく外から見たら繭のような状態だろう。




 ――ギチィッ ギチギチギチィッッ



 万能結界が軋み始めた。これは外部から攻撃を仕掛けられているね。全体的にまんべんなく締められている……それって……。



 ワームキングが繭状態の私に巻きついているってこと!? 何その熱烈ハグ! 気持ち悪いから! 美少女になってから出直してこいや!



 「あああああ、どうしよう? 火魔法で爆散? ダメだ、体液が飛び散る。風魔法は論外だし、土魔法で埋めたら、素材が持ち帰れない。氷魔法は傷つけて体液が……。光魔法じゃ、そのままワームの身体が残るし、闇魔法は……ワームを精神支配してどうする。うあああ、どうしよう!?」



 ワームの体液を臭いを充満させないように抜き去り、あの気持ち悪い巨体を触らずに持ち帰る方法……。



 「ああもう! あのワームキングを洗濯して臭いを完全に取りたい!」




 ……ん? 

 洗濯……洗濯機なら脱水出来るよね? ワームキングの体液を脱水できたら?



 「これに賭けよう。オペレーション・ランドリーの開始だよ!」



 自分を鼓舞するために作戦名考えたけど、なかなかいいね! さすが、私!



 「まずは灰にしてくれる!」



 私は万能結界の外で火魔法を展開し、繭を焼き尽くす。視界は完全に戻った。ワームキングは私を締め付けるのを止め、遠くで威嚇しながらも警戒している。



 火傷ひとつないってことは、完全に私の魔法を避けたんだね。回避能力高いな!芋虫のくせに。



 続いて私は浮遊魔法をワームキングに展開し、上空へ持ち上げる。ワームキングは暴れたが、空中では何も出来ないはず……。



 って、糸吐いてきやがった!



 素早く糸に火魔法を展開して点火。糸を伝って駆け昇って行く火を恐れたのか、ワームキングは糸を吐くのを止めた。その隙を見逃さず、円柱型の万能結界へワームキングを放り込む。この結界は洗濯機でいう槽の役割だ。さらに一回り大きい万能結界で包み込み、槽には幾つかの穴を開けた。



 「レッツ脱水!」



 ワームキングから目を逸らしながら、槽を高速回転させる。



 あれは洗濯物……ギッシャァァアアとか断末魔が聞こえるけど、洗濯物……。



 ワームキングを脱水している内に、魔法を展開。土魔法でものすごい深い穴を掘る。脱水が終わったワームキングを見ないように気をつけながら穴の下へと移動させ、脱水した際に出た体液をそこに捨てる。ワームキングの身体は槽を限界まで小さくすることで圧縮し、洗浄魔法をかけ、そのまま氷魔法で冷凍した。圧縮され、2メートル角になったワームキングの身体を地上へ戻し、体液の臭いが上がる前に穴を埋め立てる。



 ワームキングの身体は、王太子に持たされた特大(かめ)の中に入れ、隙間には元々甕に入っていた塩を流し入れた。……塩には殺菌作用があるっていうし。さすが王太子。こうなることを予測して私に持たせたんだね!



 厳重に蓋をし、私とワームキングの戦いは終わりを迎えたのだ。



 「ふぅ……やり切ったぜ……」



 臭いもしないし、家事を終えた主婦のような爽快感だね!


 

 爽快感に浸っていると、私の両手から温もりが伝わる。気付いたらサヴァリスが私の手を握っていた。3秒前は、もっと遠くにいたはずなのに……。戦闘狂パネェな!




 「ワームキングに地獄を見せて殺すなんて……ますます惚れました!」


 「そ、そうかい。気のせいだと、言っておくれ……」


 「どれだけ私を夢中にさせれば気が済むのですか」



 サヴァリスの目はギラリと光り、私と戦いたいと熱烈に訴えかけているようだった。



 マジ怖い! 戦闘狂マジ怖いから! 私は死にたくないよ!



 誰か空気を変えて下さいと祈ったおかげか、私たちの前に次の階層へと続く扉が現れた。今までの扉と違い、クリスマスのイルミネーションのようにピカピカと派手に光っている。扉には矢印の記号は無く、『7』の文字だけ刻まれている。



 「7階が最終階層のようですね」


 「やっと、この迷宮の終わりが見えたね。うう、精神的に疲れた。早く帰りたい」



 そして私たちは最終階層へと足を踏み入れた――――




今まで一番苦戦した気がします。


次回はついに最終階層。お待ちくださいませ。

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