キラキラな思い出
色々な魔法を試したけれど、転移魔法だけ使うことが出来なかった。転移不可とか、どんな鬼畜迷宮だよ。人生はセーブ出来ないんだぞ!
「戻れないのであれば、仕方ありませんね。この迷宮を攻略しましょう」
「了解。立ち止まっていても、進展はなさそうだもんね。とりあえず、もっと照らしてみるよ」
サヴァリスの提案に乗り、迷宮の攻略へ指針を変える。私は光の球体を5個に増やし、広い範囲が見渡せるように、それぞれ別の場所へと飛ばした。
「あれ? 扉があった場所は石造りの壁になっているけど、他はまんま洞窟だね。ここ、塔の中だよね?」
「迷宮の中は階層ごとに風景というか、場所そのものが変わります。階層の広さも迷宮によって異なります。最上階の魔物を倒せば迷宮が消滅するのは一緒ですが。……迷宮とは、常識の通用しない異次元の場所とでも思っていると楽ですよ」
「ふむふむ。広い心で受け流すんだね?」
「そういうことです」
よし分かった!ツッコミを入れるのは疲れるからね。省エネモードのカナデちゃんでいくよ!
警戒しつつサヴァリスと洞窟の中を歩く。しかし、いくら歩いても魔物らしき生物は現れない。迷宮って魔物の母胎なんじゃなかったけ?
「魔物いないねー」
「いえ、いますよ。出てこないだけです」
「そうなの!?」
慌てて透視魔法を展開する。どうやら、私たちの周りにだけ魔物がいないみたいだ。
「なんか、避けられてる?」
「魔物は階層が上がるごとに強くなりますから。弱い魔物は、自分では到底敵わない相手だと判断すると、攻撃をしかけてこないんですよ。階層の主は別ですが」
私は思わず呆れた目でサヴァリスを見る。
つまり、サヴァリスを本能的に恐れて近寄って来ないと。
魔物にも恐れられるなんて、戦闘狂パネェ。
「まあ、最初ぐらい楽してもいいよね!」
深く考えるのはやめるよ! 面倒だしね!
「ああ、やはりカナデは私の理想です!」
「それは勘違いだから。大体、私とサヴァリスじゃ何もかも釣り合わないから!」
さすがの私もサヴァリスが好意を持ってくれているのは分かるよ?……主に戦闘方面でね! でもそれは、恋愛的にどうかと思うし。身分差があって、私には恐れ多いし。何より、私は普通でいたいんだよ!私の乙女心察して!
「英雄同士ですから、身分など関係ありませんよ」
「ほら、歳の差とか……」
サヴァリスは20代前半に見えるけど、実際は30代後半だし……。
「カナデの前世と今世の年齢を合わせれば、ちょうどいいのでは?」
私の乙女心ぉぉぉおおおおおお!!
いや、確かに前世と今世を合わせれば、さんじゅ――いやぁぁあああ!
「せ、精神は肉体に引き摺られるから、私は16歳だよ! 絶対に、16歳!!」
思考とか前世のままだしぃ? 私の精神年齢は成長していないと思うのよ。……あれ、これはこれで酷い?
「そういうことにして置きましょう。……でも、諦めませんからね?」
「私は凡人なの! ずっと普通でいたいの!」
「ふむ……。前から思っていたのですが、どうしてカナデは普通にこだわるのですか?」
サヴァリスはいつも浮かべている穏やかな笑みを消し、私に問いかける。
「そんなの当たり前じゃん。私は普通でいなくちゃいけないんだよ」
「……何がカナデを縛り付けているんでしょうね?」
「? 自分を縛り付ける趣味なんてないけど?」
私、M属性じゃないし。
「ふふっ、知っていますよ」
サヴァリスは元の穏やかな笑みを浮かべた。何だかよく分からない。でも、サヴァリスがよく分からないのはいつものことなので、放って置く。
私たちは探索を続けた。相変わらず魔物は私たちに近づいてこない。
しばらくはただ洞窟を歩くだけだったが、ついに変化が訪れる。
洞窟の行き止まり。普通だったら道を間違えたと思うところだが、この行き止まりは怪しすぎる仕掛けがあった。壁に白い5本線が引かれ、そこに種類の違う鉱石や魔石が埋まっている。……何かを思い出すんだよねぇ。
「この白と黒の並べられた細い板はなんでしょう?」
サヴァリスが訝しげに見るものは、私が前世で見覚えがあるものだった。
「ピアノじゃん!」
なんで、こんなところにあるんだよ!
「ぴあの……ですか?」
「前世の楽器。ということは、この壁の線と石は楽譜を表しているの?」
この世界にも音楽の文化はあるが、楽譜と楽器は前世とはまったく別のものだ。音楽には詳しくないから、よく知らないんだけど、サーリヤ先輩たちにいくつか見せて貰ったことがある。
「このピアノで壁に書かれている曲を弾けってことかな」
何故ここに前世と同じ楽器がある!ってツッコんじゃいけないよね。迷宮はなんでもありみたいだし。広い心で受け止めよう。もしかしたら、黒の魔術師って私と同じ転生者なのかもね。
「私には分かりませんし、カナデに任せますね」
「はーい」
ピアノの前に立ち、壁を食い入るように見つめる。
片手だけでいいみたいだね。よかった。両手とか言われたら無理だったよ。
「すぅ……」
新鮮な空気を吸い、集中力を高め、鍵盤に指を置く。
「ドド ソソ ララソ ファファ ミミ レレド――」
間違えないように音譜を口に出しながら、私は前世で有名な曲、『キラキラ星』を奏でる。なんだか、懐かしいなぁ。
私が弾くたびに壁に埋め込まれた鉱石と魔石が光り出す。ちょっと幻想的だ。
――ドドソソララソ、ファファミミレレド、ソソファファミミレ……
――キラキラ星? 楽譜読めるなんてすごいね。
――ありがとう、お姉ちゃん! もうすぐね、ピアノの発表会があるんだ!
――おお! がんばれ!
――うん! いそがしいパパがね、この日は絶対に見に来てくれるって言っていたんだ!
――それじゃあ、いっぱい練習しなきゃだね。
――ぼくが1番になるんだ!
頭に流れてきたのは、小さな男の子と会話する記憶だった。おそらく前世のものだと思われる記憶は、私の身の覚えのないものだった。こんな記憶、知らないよ……。
「――ナデ! カナデ!」
「あっ、ごめん、サヴァリス。どうしたの?」
「悲しかったのですか?」
そう言ってサヴァリスは私の目元を優しく拭う。どうやら、いつの間にか私はキラキラ星を引き終わり、涙を流していたみたいだ。
「……情緒不安定なのかな、私」
「私がいますよ、カナデ」
「ふふっ。何それ、安心できないし」
軽口を言い合った後、私たちは最初とは違って光り輝く壁へと目を向ける。壁は地響きをたてながら、真ん中を境に開いていく。そして地響きが止まると、そこにはだだっ広い空間が広がっていた。
「この階層の主がいる部屋でしょう」
「ふむ。中ボス戦って訳だね!」
意を決して部屋に入る。そこは部屋というよりは、大きな鍾乳洞と言った感じだ。
中ボスは部屋の中央にて、私たちを待ち構えていた。
巨大な身体の二本足で立つ雄牛。目は血のように鮮やかな赤で、手には人族では到底持てないサイズの大斧を携えている。
「超級の魔物。ミノタウロスですね。文献では見たことはありましたが、実際に戦うのは初めてです。ワクワクしますね、カナデ!」
「同意を求めないでよ、戦闘狂ぉぉおおお!」
初めてミノタウロスと戦えることに興奮したのか、サヴァリスは周りが良く見えていないみたいだった。
ミノタウロスは確かに強そうだ。でもね、よく見てごらん……。
「クゥーン……クゥクゥーン……」
ミ ノ タ ウ ロ ス 、 生 ま れ た て の 小 鹿 み た い に 足 プ ル プ ル し て る ん だ け ど !
怖いんだね。うん、分かるよ。相手は戦闘狂だもんね。中ボスの役目から逃れられなかったんだよね。でもさ、私たちも早く迷宮を攻略したいんだよ。だから……。
「……どんまい! 君の肉と素材は大切に使わせてもらうよ!」
私は部屋の隅に万能結界を張り、膝を抱えながらサヴァリスVSミノタウロス戦を観戦した。
迷宮の探索に入りました。
憐れ、ミノタウロスちゃん。君のことは忘れない。
次回も引き続き、迷宮探索です。お待ちください。




