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K・K・D

 つい先日、独立宣言を発したばかりの虹の公国。その北に位置する高原の中心に忽然とそびえ立つ、200メートルは優に超えるであろう灰色の塔。それが現れたのは、つい最近。その異質な塔は禍々しいオーラを放ち、今も魔物の母胎として、強力な力を蓄えている。



 「なんか、ホラーゲームに出てきそう……。私はゆるいシュミレーションゲームの方が好きなんだけど」


 「何を訳の分からないことを言っているの、カナデ。さっさと挨拶を済ませて、仕事に取り掛かるわよ」


 

 ロアナにローブの後ろを掴まれ、ズルズルと引き摺られながら、お偉いさんたちの元へ行く。そこで手早く、虹の公国の責任者へ挨拶をする。責任者の人は結構若い男の人だったが、目の下にすんごい隈が出来ていた。そりゃ、建国してただでさえ忙しいのに、迷宮なんてとんでもないものが現れたらね。頑張れ、私は一生懸命働く人の味方だよ!



 「カナデ、待っていましたよ」


 「お久しぶりです、カナデ様!」


 「久しぶり……カナデ様」


 「サヴァリス、セレスタンさん、グェンダルさん、お久しぶりです!」



 私はロアナに引き摺られたまま挨拶をした。その様子にセレスタンさんとグェンダルさんが酷く驚いている。まあ、こんな状態で挨拶をすることはあんまりないしね。



 「お久しぶりですわ、サヴァリス殿下。そして初めまして、セレスタン様、グェンダル様。空の国から外交官兼カナデのお目付け役として派遣されました、ロアナ・キャンベルですわ。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 「前に月の国上層部と取引をして自国の王家から色々とふんだくった、噂の令嬢ですか! カナデ様を任されるなんて、相当、優秀なんですね。どうぞ、これからもよろしくお願いします!」



 ルナリア時代に借金返済のため、ロアナが魔道具を売りつけたときのことか。何気に有名なんだね。……政治的混乱を自発的に引き起こした訳だから、当然と言えば当然だけど。



 「……ある意味、最強」



 ぼそりとグェンダルさんが呟く。私も内心で同意する。



 「カナデ、何をやらかしたの?」


 「私のせいにしないでよ! やらかしたのは、ロアナじゃん!」



 責任転嫁はよくないよ!



 「まあ、いいわ。今回の迷宮探査で得た物の配当やら利権なんかの面倒で不毛な話は、他の文官が勝手にしてくれるでしょう。サヴァリス殿下、迷宮の現状をお聞きしてもよろしいですか?」



 ロアナは一瞬、他国のお偉いさんと嬉しそうに話をしている、空の国から連れて来た文官たちへ呆れた視線を向け、直ぐに真面目な顔に戻り、サヴァリスを見据える。



 「おそらく、そちらの得ている情報以上の進展はありませんね。迷宮に入ることが出来るのは私だけで、それも奥には入室することが出来ません。迷宮が破裂するのも時間の問題でしょう。カナデと私が迷宮に入れば、何かが起こる確率が高いですが」


 「サヴァリス殿下とカナデに探索してもらうしかないですわね」


 「ええ。もしも奥へと続く扉が開いたのならば、少しだけ探索し、直ぐにこちらへ報告に戻ります」


 「お願いしますわ、サヴァリス殿下。万が一の時のために、国から少数の騎士を連れて来ております。何があっても対応できるように待機させます。カナデのことをどうぞよろしくお願いします」


 「こちらこそ、よろしくお願いします、キャンベル外交官。こちらも腕利きの軍人を連れて来ておりますので、もしもの事態に対応できるでしょう。……セレスタン、グェンダル、魔物が迷宮から飛び出した際は、各国の要人を守り、迅速に行動しろ」


 「「はっ」」



 なんだろうね、この置いてけぼり感。 私、いらない子じゃない?


 内心でへそを曲げていると、ロアナが急に私を抱きしめた。



 「あまり危険なことをしてはダメよ。経験ではサヴァリス殿下が上だから、きちんと指示に従うこと。絶対に……無事で帰って来なさい、カナデ」


 

 ロアナがこんなに心配するってことは、迷宮って相当危険な場所なんだね。死にたくないし、サヴァリスの言うことはちゃんと聞こう。



 「安全を第一に行動するよ。だから、帰ってきたらロアナの作ったパンケーキが食べたいな」


 

 いつも通りに笑いかける。ロアナも「仕方ないわね」と呟き、私から身体を離す。



 「それでは行きましょうか、カナデ」


 「うん。よろしくね」



 私とサヴァリスは迷宮へと向かう。やはり石版の通り、私とサヴァリスのために作られた迷宮なのか、すんなりと入ることが出来た。無機質で装飾の一切ない石造りの塔の中、おそらく階段へと続くであろう扉の前に私たちは立つ。扉の脇には(くだん)の石版が置かれていて、写真と変わりない日本語の文面が刻まれていた。続いて扉に目を向けると、そこにも文字が刻まれていた。



 「K・K・D? 何故に英語?」


 「これも異世界語なんですか?」



 そっか、サヴァリスに習得させたのは日本語だったもんね。英語はその範囲じゃないか。



 「そうだけど、私もペラペラに話せるって訳じゃないよ。それにこれ何かの略称みたいだし、分かんないや」


 「では、気にしてもしょうがないですね。……ここより先は私も入れませんでした」


 「まあ、押して見ようか」



 私とサヴァリスが扉に手を当てて押すと、扉は簡単に開いた。色々と扉を開けるために試行錯誤していたであろうサヴァリスは呆気にとられている。



 「……すみません。あまりにも簡単に開くので、驚いてしまいました」


 「私もこんな素直に開くとは思わなかったよ」



 私たちは扉の奥。暗闇へと慎重に足を進めた。

 すると突如、背後から勢いよく扉が閉まる音が聞こえた。



 ――バタンッ



 「扉が閉まった!?」



 風も吹いていないのに、なんで!?

 


 扉へ向かおうとすると、頭上でミシミシと不穏な音がする。



 一体、何が起こっているの!?



 私は慌てて魔法で光の球体を作りだして辺りを照らす。上を向くと今まさに、天井が私たちの元へ崩れ落ちるところだった。


 マジか! トラップ発動、早すぎだろ!



 「後のことはお願いします、カナデ!」



 サヴァリスは剣を構え、剣先を天井に向けた。

 そして風と氷魔法を組み合わせた吹雪のように強烈な斬撃で、崩れ落ちる天井を薙ぐ。



 何その馬鹿みたいな攻撃力!? 塔自体が崩れちゃうよ!



 万能結界を私とサヴァリスという最低限の範囲で張りつつ、周囲を最大限に警戒する。……砂埃が酷くて何も見えないよ。



 やがて砂埃も落ち着いた。塔が崩れる様子もなく、私はほっと胸を撫で下ろす。サヴァリスに駆け寄ると、やはり怪我の一つもしていない。戦闘狂パネェ。



 「これ、初見殺しのトラップだよ……」


 「初見殺しですか?」


 「えっと、初めて訪れた人を叩き潰す仕掛けのことかな。大抵、対処できずに死んじゃうんだけど」



 まるで前世のゲームみたい。



 「それは危険ですね。今までの迷宮には、こういった誰かの意思が宿る罠はありませんでした。……少し不安ですね。一旦、外へ戻りましょう」


 「まあ石版曰く、黒の呪術師が作った迷宮らしいから。呪術師ってヤバイね。それじゃあ、外に短距離転移~って……あれ? 転移できないよ」



 いくら転移しようとしても出来ない。でも、光魔法や万能結界が張れるんだから、魔法が使えない訳じゃないよね。つまりは転移魔法のみ使用不可?


 私が色々魔法を試していると、サヴァリスが扉のあった辺りの瓦礫を退かした。するとそこには壁があるだけで、扉はキレイさっぱり消えている。サヴァリスが壁に剣を叩きつけるが、キズを与えるどころか音すら鳴らない。



 「攻撃が吸収されているみたいですね。カナデの使う万能結界に近い性質です」


 「閉じ込められたってこと!? 何その、難易度高めの迷宮!? ここは二周目の隠しダンジョンか! テレポート! ヘルプミー!」



 黒の呪術師。 お前、性格悪いだろう!







鬼畜迷宮に入りました。

次回は探索です。お待ちくださいませ。


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