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我は真実を知る者なり

時系列は竜の花嫁編の後です。

 ――ガタンッ ガタンッ


 揺れる視界。見渡す限りのサラリーマン。それらが暑苦しく引っ付き、熱さと加齢臭が凝縮される密閉空間。ここは朝のラッシュで混み合う満員電車の中。


 早くこの場から逃れたいのに、一向に駅に着かない。



 「気持ち悪い……吐きそうなんだけどぉぉおお! グハッ」



 腹部への突然の衝撃に驚き、ばっと目を勢いよく開くと、夢の世界から本来の(うつつ)へと世界が戻る。


 なんだ、夢か……。とんでもない悪夢だったぜ。それにしても気持ち悪い。寝る前に何をしていたんだっけ……? 確か、サヴァリスに貰った海産物をユリア姫とローラさんに渡してパーティーをして……お酒は飲んでないはず。巨人島で失敗したから、人前では飲まないようにしているし。それらなら、どうしてこんなに気持ち悪くて熱いの?天井もまるで、王宮の廊下みたいに見えるし……。



 怠い身体を動かそうとすると、腕も足も上手く動かすことができない。拘束されてる?



 首をプルプルと震えさせながら身体の状態を確認すると、何やら肌触りのいい白い布で身体が覆われ、それを金糸も織り込んである高そうな帯でグルグル巻きにされていた。



 「なんじゃこりゃぁぁあああ! なんで、なんで私が高級簀巻き状態!?」


 「おや、気付かれましたな」



 肩下あたりから声がした。首を反らして見ると、見知らぬマッチョなオッサンがいた。ほんのり加齢臭がする。


 何から質問していいのか分からず、口をパクパクさせる私。しかしオッサンは心得たとばかりに、引き続き私を担ぎ上げたまま歩きながら、これまでの経緯を説明し始めた。



 「実は国王陛下より貴女への緊急招集がありましてな。それで命令により貴女を迎えにいったのですが、ユリア様の部屋のベッドで爆睡する貴女の身体には、強力な結界が張られていた為、起こすに起こせなかったのです。それ故、シーツごとくるんでお運びした次第でございます」



 ユリア姫とローラさんが私に悪戯しないように身体に結界を張ったのは私だけどね。もっとさ、やり方があるんじゃないかな!?



 「あっ、ちなみに巻かれている帯は、ユリア様が嫁入りの際に姉上にいただいた大切な一品だそうな」


 「絶対におもしろおかしく私で遊んだよね、ユリア姫!」



 無理やり千切れないじゃん!



 「何分、一刻を争う事態でしてな。手段を選んでいる暇がなかったのです」


 「えっと。私の上司は王太子殿下なんですけど、それを飛び越えて国王からの呼び出しってことですよね? 一体、何があったんでしょう?」


 「それを話す権限は私にはありませぬ。陛下よりお聞きください。――ああ、着きましたぞ」



 着いた場所は、王宮の中でも見知らぬ場所だ。……もしかして、王族の居住スペース?それ以外に私が知らない場所ってなさそうだし。



 「失礼いたします。カナデ殿をお連れしました」


 「ご苦労。下がってよい」


 「はっ」



 マッチョなオッサンが入った部屋は、王宮の中でも一際、装飾が施されている小さな会議室のような部屋だった。そこに私は高級簀巻き状態のまま、床に降ろされる。そしてマッチョなオッサンは国王と会話して直ぐに部屋から出て行った。


 部屋の中には国王と王太子、それに数人の文官と騎士たち。文官の中にはロアナの姿も見える。



 「くっ……ふふっ、あっはっはははは。何その恰好? 簀巻きって……。 今日はユリアの部屋に泊まるって言っていなかったかい、カナデ」



 腹を抱えて笑う王太子に殺意が芽生える。

 おのれ、王太子……嫁の管理ぐらいしろ……。



 「泊まりましたよ! そして御宅の嫁に寝ている間に悪戯されましたよ! もう、笑っていないで解いて下さい!」


 「わたしが解きますわ、王太子殿下。……まったく、何をやっているの、カナデ」


 「起きたら高級簀巻き状態でオッサンに担がれていたんだよぉぉおお!」


 「はいはい」



 ロアナは「これ一本で一年分の生活費……」とブツブツ言いながら、帯をするする(ほど)く。そして私は理不尽な拘束から解き放たれる。……パジャマ姿だけど。まあ、夜中に呼び出した国王が悪いんだし。このままでいいや。



 「それで、お話とはなんですか?」


 「其方(そなた)、一応は女子だろう!? 羞恥心とかないのか!」


 「このパジャマ、露出なんてないですけど?」


 「そういう問題ではない!」


 「煩いな……。急に呼び出したのはソッチなのに……ハゲろ……」


 「いいから、何か羽織りなさい!」


 「あいたっ」



 夜中に無理やり起こされてイライラしていたために思わず小さな声で愚痴を言ったのがロアナには聞こえたらしく、頭を軽く叩かれる。私はしぶしぶ亜空間からローブを取り出し、パジャマの上から羽織った。これで文句ないよね!



 「お小言は終わりにして、そろそろ本題に入ってはどうですか、父上。そもそも、急に呼び出したのはこちらなんですし。また逃亡されかけますよ?」


 「うぐっ……。エドガーの言う通りではあるな。……時にカナデ。其方、月の国の王弟と文通しているそうだな」


 「海産物とかお菓子とか送ってもらっています! めっちゃ美味です!」



 海産物は氷魔法で瞬間冷凍したものを時を止める魔法具に入れて送ってくれるんだよね。お菓子にいたってはバラエティー豊かで、わざわざお菓子屋さんの地図まで教えてくれる。さすが身分と地位のあるイケメン、気遣いがはんぱないね!



 「文通……なのか……?」


 「ちゃんと手紙のやりとりもしてますよ? この間は、ロケットミサイルについて熱く語りました」


 「ろけっとみさいる?」



 この場の全員が疑問の表情を浮かべた。まあ、ロケットミサイルは前世の知識だしね。知らなくて当然だよ。サヴァリスにも私が絵図を書いて手紙で説明した訳だし。



 「まあ、そのことはいいんですよ。それで、本題はなんですか、国王陛下」


 「月の国の王弟に聞いたのでなければいいのだ。カナデ、迷宮を知っているか?」


 「迷宮……?」



 迷宮ってRPGゲームとかにあるダンジョンのこと?

 それとも普通にラビリンスって意味?


 疑問符を浮かべる私に、王太子が説明する。



 「迷宮はある日突然、前触れもなく現れる魔物の母胎だよ。生殖能力を持たず、世界のどこかから出現するはずの魔物が大量に生まれる場所。放っておけば魔物が量産されて迷宮が弾け、世界の許容量以上の魔物が世界へ放出される。だから人間領に出現した迷宮は、国の柵を捨てて対処しなくてはならない。もう、何千年と昔からの決まりだ。まあ、悪いことばかりではないよ。迷宮の最奥に住む魔物を倒すと常識では考えられないほど良質の宝を得ることが出来るからね」


 「お宝ですか?」


 「君の祖父であるポルネリウスは、若い頃に女性と二人で現れた迷宮を片っ端から荒らし回っていたと記録に残っている。知らなかったのかい?」



 何やってんの、御爺ちゃん! それとその女性って、ティッタお姉ちゃんでしょ!? しかも荒らし回るって何!? 絶対に色々な人に迷惑かけまくったんでしょう! ……魔族領へ旅行に行った時のような尻拭いは御免だよ!


 

 「め、迷宮の話をするってことは、出現したんですね」



 話をそらそう。そうしよう。


 若干、目を泳がせる私に苦笑しながらも王太子は説明を続ける。



 「そうだよ。旧陽帝国領……現在は虹の公国と名乗っている国に現れた」



 魔王討伐で一番被害を受けて弱体化した陽帝国は今、独立運動が盛んになっている。陽帝国の支配から抜け出し、新たな国を造ったり、滅びた国を復活させたりしているのだ。虹の公国もそんな国の一つだと思う。



 「さっそく対処したんですよね?」


 「もちろん。だけど、今回の迷宮は妙でね。たった一人を除いて、入ることが叶わない。まるで拒絶しているようにね。その一人も奥には行けなかった。でも成果はあったみたいでね。入り口付近に置かれた石版をカメラで撮影することが出来たんだ」


 「そうなんですか。それで、その唯一入れた人は誰なんです?」



 なんとなく言った私の質問に対し、王太子は実に腹黒い笑みを浮かべながら答えた。



 「サヴァリス将軍だよ。彼がカナデにならば、石版の文字が解読できると言っていたらしい。これがその石版の写真だね」



 訝しみながらも王太子に渡された石版の写真を見る。

 そして私は驚愕と混乱で叫びを上げた。



 「なっ……どうして……なんで……!?」



 石板には日本語(・・・)でこう綴られていた。






 挑戦状


 サヴァリス、そして相原奏へ


 君たちのために迷宮を作り上げた。


 この迷宮は出現より20日後に破裂する。


 止められるのは君たちだけだ。是非とも挑戦してくれたまえ。


 時は満ちた。


 故に見事、迷宮を攻略したあかつきには、黄昏の月と封じられた真実を奏に返そう。


 君たちに会える日を心待ちにしている。


 黒の呪術師より








 「カナデ、大丈夫!? 顔が真っ青よ!」


 「だ、大丈夫」



 ロアナに揺さぶられ漸く、私は表情を取り繕う。


 相原奏って、私の前世の名前だよ。誰にも教えた事ないのに……。それに黄昏の月と封じられた真実って何?差出人が黒の呪術師ってどういうことなの?だって、黒の呪術師は400年前にオネエ竜を封じた人族でしょ。今も生きている訳がないじゃん。全然……何もかも分からないよ!



 「知恵熱でるぅぅううう」


 「カナデ、石版の文字が読めたみたいだね。教えて貰えるかな?」



 穏やかな声で私に窺いながらも、王太子の声は拒否を許さない。私は自分の中で整理する意味も込めて、石版に書かれているすべてを話した。



 「アイハラとは、カナデの家名なのかい?」


 「……黙秘します」



 不敬なんて気にもせず、私は王太子を睨みつける。こればっかりは譲らない。だって前世がどうのこうの話したら、絶対に頭おかしいって思われるし。



 「どうやら黒の呪術師とやらは、カナデのことを知っているみたいだけど」


 「私は知りません」


 「……嘘じゃないみたいだね。石版の通りだと、期限は20日――いや、発見と今までの調査から7日ってところかな。サヴァリス将軍とカナデしか迷宮へ入れないみたいだね。……父上、予定通りカナデに任せていいでしょう」


 「うむ。カナデ、虹の公国に出現した迷宮を攻略する任を命じる。人間領の混乱させないため、この件は極秘である。補佐にはロアナ・キャンベル外交官をつけよう。行ってくれるな」



 ほのかに目を潤ませながら、国王が私に命じた。



 久々の王命きたぁぁああああ!



 いつもなら全力で拒否したいけど、今回は私が気になることが満載だ。迷宮に入れるのは私とサヴァリスだけみたいだし、行かなくちゃダメだよね。


 それに、私は絶対に黄昏の月と封じられた真実を取り戻さないといけない……気がするんだよね。二つが一体なんなのか分からないんだけどね!



 「謹んで、拝命いたします。……それで、虹の公国の特産やお菓子はどのようなものがあるのでしょうか?」



 待っていろ、虹の公国のおか――じゃなくて、迷宮!!





迷宮編、ちょっぴり不穏な感じで始まりです。


サヴァリスが石版の文字がカナデを読めると判断したのは、真勇者編にてカナデから言語習得の魔法をかけられているからです。


次回は虹の公国にある迷宮へ向かいます。お待ちくださいませ。


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