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魔法少女の就職活動 後編

 ロアナとの就職面談の次の日。


 私は国務局環境整備課に就職するための試験に行くため、転移魔法を使い、ロアナと一緒に空の国の王宮へ来ていた。試験官に案内され、外から見てばかりだった城の敷地に入る。歩きながら辺りを見渡すと、手入れと掃除の行き届いた美しい建物と庭だという感想を持った。城は前世で言う西洋風の建物で、なんたら様式とかは分からないが、所々に装飾が施されていて綺麗だ。今まで実感とかは無かったけれど、空の国は中々、経済的余裕のある国らしい。


 受験者はやがて希望職種ごとに分けられ、それぞれの試験会場に向かった。そして私は国務局環境整備課の試験を受ける受験者たち共に大きな控室に一纏めに押し込められ、その後、一人一人呼び出されていく。ちなみに周りにいる受験者たちは平民や王宮へコネのない弱小貴族ばかりだ。まあ、簡単に言うと同じ職種を狙う敵である。先手必勝とばかりに威圧したくなる心を押さえつけ、私は平静を装う。



 試験は……既に始まっているのじゃ!

 就職試験は控室の様子も見るというのは、前世では常識。威圧なんてしたら、覆面試験官に不合格の烙印を押されるわ!



 一人、また一人と試験官に名前を呼ばれ、退出していく。自分の番はまだかと焦りながらもそれを見送る。そして私の名が呼ばれたのは一番最後だった。



 「ルナリア魔法学園在学、カナデさん。こちらへどうぞ」


 「ひゃいっ」



 ロボットのようにギクシャクと歩きながら、試験官の後ろをついて行く。



 ええっと、服装は学生だから制服でいいんだよね?歩く時は足音立てないようにすればいいんだっけ?ご当地ルールとかないよね?


 就職試験の一夜漬けといっても碌なことは出来ず、緊張と不安と寝不足で胃がキリキリする。



 ああ、もう! ウジウジしてもしょうがない! 女は度胸じゃ!


 いざ行かん、戦場へ!



 案内されたのは、訓練場のような場所だった。そこには黒い眼帯をした、隻眼のダンディなおじ様がいた。渋い、痺れるぅ!


 私をここまで案内してくれた試験官と何やら話をしている。話は一分程度で終わり、おじ様が私に近づいてきた。



 「ルナリア在学だから筆記は飛ばして、基礎戦闘能力を測る技術試験を行う。環境整備課は文官とは言え、魔物が蔓延る森へ出向くこともあるからな。そこの訓練用カカシに自分の得意な攻撃魔法をぶつけてみろ」


 「は、はいっ」



 得意な魔法って言っても、火魔法は危ないし……水魔法はびちゃびちゃになるし……光と闇は特性から言って論外。そうなると、風魔法が妥当かな?



 私は右手を前に突出し、風の刃と風魔法と上位属性である雷魔法による雷撃を組み合わせた魔法を展開し、訓練用カカシに叩きつける。訓練用カカシはミシミシと音を立てながら、魔法を受け止める。


 そして――――



 ――バキッ バキッ ドガガガガ ドッカーン



 訓練用カカシは爆散した……。



 「「「 …… 」」」





 ち、沈黙が痛いよ! と言いますか、どうしよう!? 訓練用カカシぶっ壊しちゃったよ! 全身全霊を込めた一撃って訳じゃないのに……脆すぎるだろ! あれか、私の前に試験を受けていた人たちの魔法によるダメージが蓄積されて、私の番でそれが爆散したと。なんてこったい!運悪すぎだろ。ルナリアの入学試験での魔力計測の水晶破壊に続いて、二度目の大惨事だよ! あわわ、どうにかしなきゃ!



 「も、申し訳ありません! 直ぐに、早急に、マッハで元に戻しますので、どうか許して下さい!!」



 私は土下座するような勢いで謝りながら神属性魔法を展開し、訓練用カカシの時間を試験前へと戻す。爆散して破片が広範囲に飛び散り、雷で焼け焦げたものもあるため、修復にはかなりの魔力が削られた。この後も魔法を使う試験とかだと、最低な結果になりそうだ。……今の時点で、採用は絶望的とも言えるけどね!



 「…………はっ。ま、魔法騎士団長!」



 爆散の衝撃からいち早く立ち直ったであろう試験官が、ぽかんと口を開いたダンディなおじ様へと声をかけた。て言うか、魔法騎士団長ってなんだよ!魔法騎士団長っていったら、三つある騎士団の内の一つのトップだよね!?何故、そんな大物が試験監督してるのさ!



 「あっ、と、すまない。実技試験は終了だ。ところで、環境整備課ではなく、魔法騎士団で働く気はないか?」


 「え!? いや、私のルナリアでの専攻は魔法技術科なので、魔法騎士団はちょっと……。武芸の才能もありませんし」



 騎士団は危ない仕事だから、常時募集中である。それなのに魔法騎士団を勧めてくるってことは……もしや、この就職試験は落ちた!? いや、でも結果はまだだし……爆散させたけど……。



 「そうか、残念だ」



 意味深な表情で、本当に残念そうな顔をする魔法騎士団長。



 やっぱり、落ちたの確定なの!?



 心の叫びを吐露する訳にもいかず、私は試験官に次の試験へと連行されて行った――――













 訓練所を離れ、私は別の豪華な建物へと入った。そして細かい透かし彫りが幾重にも施された木の扉の前で試験官が立ち止まり、私もそれに倣う。試験官はくるりと私へと振り返る。



 「次の試験は面接で、これが最後の試験となります。それでは、ここからは御一人でどうぞ」



 心なしか試験官の顔は引きつっていた。そりゃね。爆散系女子の私を見たらね……。不本意だ!不本意すぎる!!あれは、私のせいじゃないんだよぉ。



 「はい」



 弁明する時間もなく、私は先ほどの爆散など無かったかのように、デキる学生風に返事をした。せめて、外面だけは取り繕っておかなくては!


 しかし面接か……。


 ルナリアの入学試験は筆記と実技だったし、前世の高校受験も一般入試だった。大学受験をする前に死んでいるから、当然、就活の経験などない。しいて言えば……バイトの面接ぐらい? でもそれは参考にならないよね。そう言えば、初めてのバイトの給料日に前世の私は死んだんだよね……。ああ、嫌なこと思い出しちゃったよ!



 悶々と考えていると、何を勘違いしたのか、試験官が気遣うように扉を開けた。ちょ、まだ心の準備が!面接対策がぁぁあああ!



 こうなってしまえば、どうしようもない。私は意を決して、扉の中へと歩を進める。



 「失礼します」



 部屋の中は、本当に面接の部屋?と勘繰りたくなるような豪華さ。床に敷き詰められた絨毯はフカフカで、寝転がれば気持ちよく安眠できそうだ。面接の部屋がこのレベルなら、王族の居住スペースってどれだけすごいんだろう?でも、逆に豪華過ぎて落ち着かないかもね。


 若干、現実逃避気味の思考をしながら、受験者が座るために用意されたであろう椅子へと向かう。その椅子の数メートル前には長いテーブルと複数の椅子が置かれており、3人の面接官が座っていた。



 私から見て右端には、額に汗を浮かべながら落ち着かない様子で座っている中年男性。左端には居眠りをしているサンタクロースのような白髪の髪と髭の老人。そして真ん中にはニコニコとこちらをひたすら笑顔で見つめる茶髪に碧眼の眼鏡を掛けたイケメンのお兄さん。……なんか面接官が濃いんですがぁぁああああ。



 「る、ルナリア魔法学園四年、カナデですっ」



 緊張と警戒で声が上擦る。そんな私の様子を見ても、三人の面接官の態度は変わらない。真ん中に座っているお兄さんがリーダー的な存在らしく、にこやかに私に指示を出す。



 「うん。よろしくね。それじゃあ、早速、座ってくれるかな」


 「はい」



 一番若いのに命令するのに慣れている感じだね。身分の高い人なのかな?


 疑問に思いつつも、姿勢を正して椅子に腰かける。



 「面接官の紹介をするね。君から向かって右が国務局環境整備課の課長、カルヴィス子爵。そして左が宮廷魔術師長のティベリ男爵。そして僕が……ユベール・オーランシュだよ」


 「ぶふぉぉっ……ちょ、おう――じゃなくて、エド、でもなくて、ユベール様!」



 何故か知らないけれど、ずっとそわそわしていたカルヴィス子爵が驚いたようにお兄さんに詰め寄る。そして私のことをチラチラと身ながら内緒話を始めた。……合コンの時にトイレで男子の品評会を始める女子かよ。


 内緒話も数分で終わり、漸く面接が始まった。

 最初に質問をしてきたのは、国務局環境整備課の課長のカルヴィス子爵だった。



 「先程は取り乱して申し訳ない。志望動機を教えてもらえますか」


 「はい。志望動機は――」



 志望動機って何かあったけ?王宮に勤める文官って安定した職業で……前世の公務員みたいじゃん!と思った、なーんて絶対に言えないよ!どうしよう。ここは話しを嘘で塗り固めて盛るべきかな?でもでも、私って嘘がヘタクソだし……。



 「あの、カナデさん?」


 「ひゃいっ。それなりに安定した職種だったからですぅっ!」


 「ぶふっ、あはっはははは!」



 う、うわぁぁぁあああああん。焦って、本音が出てしまった!! しかもお兄さんに滅茶苦茶笑われているし! 



 「ええっと……仮に我が環境整備課に所属したとして、貴女の出来ることは何でしょう?」



 環境整備課は魔法を使って、色々な事をするんだっけ。ロアナ曰く、緊急で道路を作ったりとか。



 「土地の開墾でしたら、森一つ分を5分で農地に変えられます! 家も小さな民家レベルなら10分、大きな屋敷なら2日程度で建設出来ます。草木を生やすのならば、偶に魔力の注ぎ過ぎで奇怪な植物が誕生することがありますが、15分程度で森一つ分は栽培出来ます! 他にも転移魔法を駆使した荷物や人員運び、死んでいなければ治癒魔法も可能です!」



 私のセールスポイント、見事に魔法しかないね! 自分で言うのも何だけど、お得だと思うよ!



 「……そう、ですか」



 「ふっ、あはは!」



 カルヴィス子爵の顔が青いのは何故だろう? もしや、魔法だけの小娘なんていらないってこと? そしてお兄さんは笑い過ぎだと思う。



 「あっはは、は……ねえ、君は王家に忠誠を誓えるかい?」



 お兄さんがそう言った瞬間、ピリリと空気が張りつめたような気がした。嘘を吐くのは簡単だ。でもきっと今は、そういう場面ではない。私はお兄さんへとしっかり目を合わせる。



 「誓えません。王家だけではなく、誰にも。そもそも、私には忠誠といものがよく分かりません。ですが、仕事となれば責任を持ってやり遂げるつもりです。でもそれ以上の……私自身を壊すようなことを強制されるような忠誠が必須といのならば、私はこの仕事に向いていないのだと思います」



 言ってしまった……。だけど、後悔はない。事実だし。


 怒られると思ったが、意外にもお兄さんは先ほどとは変わらずに笑顔だった。



 「正直な答えが聞けて満足だよ。ティベリ男爵は彼女に聞きたいことはあるかい?」



 今まで沈黙という名の居眠りをしていたティベリ男爵が、ゆっくりと目を開いた。そして私のことをじっと見つめ、一言だけ質問する。



 「魔法を使うのは楽しいかのう?」


 「はい!」



 私は元気よく返事をした。


 この娯楽の少ない世界で、魔法と言う技術を極めるのは結構楽しい。新しい魔法を編み出して生活をより便利にしたり、魔道具を作って友人たちにプレゼントしたりと楽しいことがいっぱいだ。現実的な面からも、後ろ盾のない私でも学園に通ったり、身を守れたりしたのは魔法があったから。私と魔法は、切っても切り離せない関係にある。もはや、魔法の使えない私など想像もできない。



 ……何より、魔法があったからこそ、出会えた人達がいるからね。



 ティベリ男爵は「そうか」と満足そうに言うと、また居眠りを始めた。このひとが面接官で本当にいいのだろうか……?なんか、色々と心配になる。



 その後、カルヴィス子爵からの質問に幾つか答え、大きな失敗をしつつ、私の就職試験は終わった。

 


 













 王宮で行われた就職試験から1カ月後。私とロアナは理事長室へと呼び出された。



 「いよいよ、結果発表かしら。自慢じゃないけれど、試験はかなりうまく行ったわ。正直、自信ありまくりよ」


 「私は色々やらかしたから自信ないよ……」


 「ああ、爆散させたものね」


 「ちゃんと元に戻したし!」



 そうこうしている内に理事長室へと着いた。そして手短にノックをして、ロアナが遠慮なく理事長室へと入って行った。何だか、慣れていらっしゃる。



 「失礼します。ロアナ・キャンベルとカナデです。理事長はいらっしゃいますか?」


 「ああ、キャンベルさんにカナデさん。待っていましたよ」



 理事長は手にしていた書類を置き、私たちを応接スペースへと招く。そして理事長室に控えていた侍女さんが私たちにお茶を出し、そのまま退出して行った。



 「王宮の採用結果を伝えるため、貴女方を呼び出しました。まずはキャンベルさん」


 「はい」



 ロアナはやっぱり自信があるのか、凛然とした表情で理事長と向き合う。



 「結果は採用です。おめでとうございます。これで春からは外務局文官ですよ」


 「はぁぁああああ!? わたしが受けたのは財務局ですよ、ざ・い・む・きょ・く」


 「貴女という人材を活かすのに最適な場所は外務局ですよ。それを4年間じっくり私に教えてくれたのは、キャンベルさんですよ。私直々に推薦しておきました」


 「搾り取られたのは理事長が不甲斐ないからですわ! ここで復讐ですか!?」


 「何はともあれ、立派な外交官になるのを楽しみにしていますね」



 理事長は今までの恨み辛みを晴らすかのような、いい笑顔だった。……マジで大人げねぇ。でも、確かにロアナの交渉スキルは凄いし、外務局は才能だけならピッタリかもね。本人の気持ちはアレだけど。まあ、これで空の国は財政破たんしないで済みそうだ。



 「次にカナデさん」


 「はい」



 いよいよだ。不採用の確率が高いとはいえ、緊張するね。



 「結果は……採用です」


 「よっしゃぁぁああああああああ!」



 私はマナーなど気にせずにガッツポーズを取る。


 受かった!よく分からないけど、受かったどー!!



 「ただし、国務局環境整備課ではなく、宮廷魔術師としてです」


 「へ? 宮廷魔術師?」


 「先日、宮廷魔術師筆頭を引退したティベリ男爵の推薦と国王の決定です」


 「何ですとぉ!?」


 「ティベリ男爵はポルネリウス様の教え子だったので、その関係もあるでしょう」



 ちょっと待って! それって意図せずコネが発動しちゃったってこと!?



 「宮廷魔術師と言えば、位だけは高い御飾りの閑職じゃない……」


 「何その既に腐りきっている部署!?」



 そこはかとなく――いや、露骨にブラック臭がするよ!



 「王命だから、辞退することも出来ないわよ。カナデ」


 「お二人とも大変でしょうが、頑張って下さいね」


 「うわぁぁあああん」


 「覚えていなさいよ……」



 一夜漬けの就職試験は予想外な結果に終わり、会ったこともない国王から初めての王命を頂戴した。



 人生って本当にままならねぇ!





面接官のお兄さんはあの人です。色々と探りに来ています。

それと魔法騎士団長はカナデの噂に興味を持って、試験監督を行っていました。


ティベリ男爵は、腐敗した宮廷魔術師に新しい風を呼び込むためにカナデを推薦しました。カナデのことはティベリ男爵直々に鍛えるつもりでしたが、老いによるぎっくり腰になり、泣く泣く引退してしまいます。


世界征服編も残り2話です。

次回は卒業式と舞踏会です。お待ちくださいませ。

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